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わせだマンのよりみち日記

2019.07.27

彫刻家の想いをそのまま伝える美術館 ~本郷新記念札幌彫刻美術館見学記

「あれ? これ、見覚えがあるような。もしかして、釧路にある作品ですか?」ご案内いただいた館長に、思わず訊いてしまいました。

本日の訪問先は、札幌市内の閑静な住宅街、宮の森にある本郷新記念札幌彫刻美術館。2棟の建物と庭園から成るこの美術館・記念館の建物は、札幌出身の彫刻家、本郷新がアトリエ・ギャラリーとして建てた邸宅として建てられたものだとか。館内には石膏原型が多数展示されていて、上の写真の右側がそのうちのひとつ。左側は、これをもとに作られたブロンズ像なのですが、以前訪問した釧路市の幣舞橋に設置してあったものではないか…と気づいたわけです。

戻って調べてみると、釧路市の像は、5年前のブログで紹介していました。記憶力の衰えが気になる50代の私でも、素晴らしい作品の記憶はそう簡単に薄れないのです。
http://www.waseda.co.jp/blog/%e9%87%a7%e8%b7%af%e3%81%ae%e5%a4%9c

さて、館内に配しましょう。作品と石膏原型がズラリと並べられている吹き抜け付きのこの空間は、もとはアトリエだった場所なのだそうです。美術館の展示室として作られた部屋でなく、生活感が垣間見える場所に展示されている分、作品がより近く感じられますね。

次の写真は、明治41年に釧路新聞の記者として活躍していた当時の石川啄木の石膏原型。作品そのものは釧路市港文館(旧釧路新聞社社屋)に展示されています。啄木23歳の像とのことですが、凛とした佇まいの中には少年の面影も。

こちらは「嵐の中の母子像」の石膏原型です。前に赤ん坊を抱え、背中の子どもを手でかばいながら、全力で前に進もうとする力強い母親の姿。これは胸を打つものがありますね。作品は広島市平和記念公園と北海道立近代美術館に設置されているそうです。

階段を上ると、吹き抜けを通して作品を見下ろせるのですが、外光が差し込む2階の部屋に置かれた作品も同時に望むことができます。写真でもお分かりいただけると思いますが、とても印象的な空間でした。

窓の外には、木々の緑と閑静な住宅街。札幌屈指とも言われるこの邸宅街、実は、本郷邸の建築が契機となって誕生したのだそうです。作家の影響力が、街づくりにまで及ぶとは! と驚いたのですが、もしかしたら、今後の各地の都市計画でも参考にできるのでは。何といっても、アーティストの美意識は折り紙付きの信頼度なのですからね。

本郷新が生前使用した椅子が置かれていて、そこに腰かけて寛ぐこともできます。実際に座ってみましたが、本当に落ち着きますよ。リラックスしつつ、背筋がすっと伸びる気分でした。

この記念館の建物内は、「来館者が思う存分自由にデッサンしてよい」という空間。それどころか、まるで自分のアトリエのように、イーゼルを置いたまま帰ってもOKという寛容さ。この日もデッサンが置かれているのを目にしましたが、この方はデッサン教室の受講生で、ほぼ毎日やって来て、ゆっくりと制作を続けておられるのだそうです。

美術館と言えば、貴重な作品を預かる分、厳格な運用が当たり前。そんな印象を抱いていたので、この親しみやすさには本当に驚かされました。好きな作家の感覚に囲まれながら、来館者自身が制作作業に没頭できる…これは、小規模美術館としては理想的なアイデアのひとつなのではないかと思います。

本郷新は彫刻の社会性、公共性を重視した作家だったそうで、戦後、野外彫刻の制作に情熱を注ぎ、全国各地に次々と作品が設置されました。こうして旧宅が活用され、地域の方々が気軽に訪れて自身の芸術に触れられる場所として運営されていることをご本人が知ったら、きっと喜ぶのではないでしょうか。作家の心をそのまま受け継ぐ美術館。そこに佇む作品たちが何とも幸せそうに見えて、とても心が温まりました。


本郷新記念札幌彫刻美術館 http://www.hongoshin-smos.jp/index.html

 

なお、こちらの美術館では、すばらしい学校連携事業を展開されています。こちら↓の記事で紹介していますので、併せてご覧ください。

つくる!展示する!見る! 美術館と学校が手を携えてこそできること 本郷新記念札幌彫刻美術館の取り組み