ミュージアムインタビュー

vol.140取材年月:2018年11月岐阜かかみがはら航空宇宙博物館

積極的な情報発信は、館運営の大きなテーマのひとつ。
今後は前例がない項目構築にも取り組んでいきます。
学芸課長 博士(工学) 田畑 克彦 さん
学芸業務専門職 藤橋 未花 さん

-こちらは今年3月にオープンされたばかりですが、まずはオープン前の様子からお聞かせいただけますでしょうか。

田畑さん:当館は現在、岐阜県と各務原市が共同で設立した公益財団法人が運営していますが、もともとは各務原市の直営の「かかみがはら航空宇宙博物館」として、1996年から20年間にわたって運営されてきました。今春のオープンで、これがリニューアルされたわけです。

-宇宙分野の展示が充実したんですよね。

田畑さん:そうですね。昔は学芸員がいなかったんですよ。

-え? では、資料の管理とか、学芸業務に相当する仕事はどうされていたのですか?

藤橋さん:元パイロットや元整備士の方々が、市の嘱託職員としてご活躍くださったんですよ。展示資料のメンテナンスとか、整備とか。

-なるほど、近くに飛行場や工場がある立地ならではの話ですね。ちなみに、メンテナンスや整備とは、具体的には何をなさっていたのですか?

藤橋さん:航空機などが現役で活躍していた時の状態を維持するのには、どうしても整備が必要になりますからね。

-「整備」って、その整備のことですか!

田畑さん:現在、当館のボランティアとしてガイドをしてくださっている方々も、実はパイロットや整備士のOBの方が多いんですよ。現役の方々も土日に来てくださっています。これほど頼もしいメンテナンススタッフはいないですよね。

-凄い話ですね。みんなで支えている感じでしょうか。

田畑さん:ええ、当館は文字通り「たくさんの方々に支えられている博物館」と言えるでしょうね。たとえば、当館の「飛燕」という戦闘機は、以前は鹿児島の知覧特攻平和会館さんに貸し出されていたものなんです。川崎航空機工業、現在の川崎重工さんの工場で作られたもので、当館の開館に合わせて里帰りすることになって。

-それも凄いお話ですね…。

田畑さん:知覧の方がご快諾くださったからこそ実現した話ですね。あちらでは迷彩柄に塗装されていたのですが、里帰りにあたって、「飛燕修復プロジェクト」で塗装をはがし、当時の姿をよみがえらせました。

-迷彩柄の戦闘機、知覧で見た記憶があります…。

藤橋さん:本当によいご縁でした。

-航空機を扱う博物館の「横のつながり」は強いのですか?

田畑さん:お付き合いはありますよ。愛知県の県営名古屋空港に隣接しているあいち航空ミュージアムと連携の取り組みとして、共通入館券を販売しています。また、所沢航空発祥記念館や成田航空科学博物館とは航空関係の情報交換をさせていただいています。

-というわけで、そろそろデータベースのお話もお聞きしたいと思います。

-最近、開館前の時点でクラウド型のシステムを導入される館が増えているのですが、こちらはまさに典型例と言えます。

藤橋さん:そうなんですか。今年の1月に導入して3月に開館というスケジュールでしたから、「開館前」と言っても直前だったんですけどね。

田畑さん:開館時にデータベースをホームページで公開することは、ひとつの目標だったんですよ。

-そうだったのですか。

田畑さん:積極的な情報発信は、当館のコンセプトのひとつでもありますからね。担当の職員が適切なシステムを探していたら、I.B.MUSEUM SaaS に辿り着いたわけです。

-直前のお忙しい時期だったようですから、公開まで漕ぎ着けるのはかなり大変だったのでは?

藤橋さん:大変でしたが、公開しているのは全体の一部ですからね。まずは展示している資料の基本的な情報を…ということで。

-ほかには、どんな資料があるのでしょうか。

藤橋さん:図面とか、部品とか、写真資料とか…。

-なるほど、かなり多岐にわたりそうですね。リニューアルオープン前にデータベースはあったのですか?

藤橋さん:ええ、当時の嘱託の皆さんが作ってくださったMicrosoft Accessのデータはあるんですよ。これから整備を進めていきますが、まさに「ベース」となるデータですね。

-それはありがたいですね。I.B.MUSEUM SaaS の一括登録機能をうまく使えればよいのですが。

田畑さん:まずは現物にあたって、「何がどのくらいあるのか」を把握しなければなりませんので、焦らずに進められればと思っています。

藤橋さん:学芸員の考え方からすると、リニューアル前のデータは、もう少し充実化が必要な点もありますからね。でも、航空関係や宇宙関係の博物館資料は、整備された前例があまりない分野だと思いますので、項目体系を新たに作る必要があるかもしれなくて。けっこう大変な作業になりそうなんですよね。

-確かに、前例は少ないでしょうね。弊社でお付き合いがあるミュージアムには、クルマや船舶に関する資料を専門的に扱っておられる館もありますが、航空・宇宙分野に特化した館はあるのかな…?

藤橋さん:きっとなかなか珍しいでしょうね。

-でも、対象は違っても、情報の性質が似ていそうな館はありますよ。前例のない新たなジャンルを考えて作られたミュージアムも。似た経験をされた方々なら、ご参考になるお話も多いと思いますので、ご紹介することはできると思います。

藤橋さん:あぁ、それはありがたいですね。ぜひお願いします。

-かしこまりました。私以外のほかのスタッフにも、それぞれの担当館に心当たりがあるかどうか訊いてみますね(メモ)。

-さて、本格的にご利用になるのはこれからだと思いますが、新システムということで期待されている部分などはありますか?

藤橋さん:I.B.MUSEUM SaaS を選んだ最大の理由は、「柔軟性」だったんですよ。まず項目づくりから始めなければならない立場としては、「分類を追加できること」「データ項目を後から自由に編集できること」は、本当に助かります。

田畑さん:これから当館が取り組むデータ整備は、「やってみないとわからない」という側面がありますしね。それは、たとえ予算が潤沢だったとしても「現段階で専用システムを作り込む」のは、それ自体が難しいはずです。

-なるほど。

田畑さん:「これから大変だなあ」と思っているところなんですよ(笑)。何かアドバイスのようなものはありますかね?

-これからデータ整備に向けて資料の状況を調査される時、1点1点の内容を調べる前に、全体像をつかむ作業をされると思います。その段階くらいで一度ご相談いただければと思います。

藤橋さん:と仰いますと?

-たぶん、資料のかたまり、つまり大分類ごとにデータ項目を検討した方が効率的だと思うんです。その段階で、弊社が事例情報を提供できれば、かなり近道になるのではないか…と。

藤橋さん:なるほど、それは助かります。ぜひ宜しくお願いします。

-こちらこそ。今日は興味深い話をたくさん聞かせていただきました。お忙しい中、本当にありがとうございました。

Museum Profile
岐阜かかみがはら航空宇宙博物館 平成30年3月に開館した、航空と宇宙を同時に体験できるミュージアム。前身は、平成8年開館のかかみがはら航空宇宙科学博物館で、県と市の共同事業として3年半をかけて全面リニューアルされました。展示面積は従来の1.7倍に及び、30機を超す実機が年代ごとに並ぶ航空エリアの1階、アポロ計画からH‐IIロケットまでを学べる宇宙エリアの2階は、ともに壮観。新たな愛称「空宙博そらはく」とともにさらに人気を呼びそうな博物館です。

ホームページ : http://www.sorahaku.net/
〒504-0924 各務原市下切町5丁目1番地
TEL:058-386-8500