ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

仕事柄、プレゼンテーションの機会が多いので、人前で話をすることには少し慣れてきました。しかし、今回は、少し様子が違います。なんと、正式に「講師」という立場で研修会にお邪魔することになったのです…!

お話をいただいた時は驚きましたが、技術的な内容よりも、「収蔵品管理システムの利用状況を聞くために全国各館を回っている人間なんてそうはいないだろう」というご判断でのご依頼であろうと拝察し、お引き受けすることにしました。各地でお聞きした話をもとに「講演」の内容を構成しましたが、本来は、私なんかよりも館の皆様の肉声を直接お聞きいただきたいなあ…と、少し複雑な気分でした。

さて、当日は、むしろ私のほうがとても勉強になりました。特に、いくつかの事例発表は本当に興味深いものでしたので、ここにご紹介いたします。

ひとつ目は、トヨタ博物館の藤井様のご発表。当社システムのユーザ様でもある彼女は、データベース構築、および運用の成果と課題について、実情を交えながらお話くださいました。

トヨタ博物館では、システムのビジョンと具体的目標を明確にした上で課題を抽出し、導入にあたられたとのこと。特に、業務フローを見直してシステムの機能に落とし込む作業では、大変なご苦労があったようです。また、導入後も、館内でシステム利用が定着するように、改善策を次々と実施されたあたりは、さすがのひとことです。

中でも感心したのは、老朽化したシステムのリニューアルを検討する際にも、導入当初に立てた目標設定をもとに達成度を数値化し、「もたらした収益額」に換算されていたことです。リニューアル予算を要求するための論拠の立て方としては、極めて理に適っていると思いました。この部分については、できれば後日改めてお邪魔して、個人指導を受けたいと思わされるほどのものでした。

もうひとつ、感銘を受けたのは、安城市歴史博物館の三島様のご発表でした。同館のデジタルアーカイブ構築についてお話しくださったのですが、先代のシステムに入っているデータの状態が芳しくなかったため、中身を精査して作り直されたとのこと。国の予算をうまく使っておられましたが、印象的だったのは、三島様ご本人のお考えの部分です。

情報をきちんとしたうえでデータベース化を進めなければ、役に立たないものになってしまう。これを行うのはシステム開発業者ではなく、職員の役割だ……お話の中で、三島様は、確固たる意志として「あるべき姿勢」を示されていました。これには、まさに「業者」として非常に考えさせられるものがありました。

私は、今回の講演で「クラウド型システムはとても安価なので、導入へのハードルが下がりましたよ」という話をしていたのですが、システム導入の実際の「ハードル」は、実は予算面だけではないのです。むしろ導入後の実用の際に、「使いこなす」こと自体がハードルになってしまうケースも少なくないのです。

どんなに「使える」システムでも、「使わない」状態になってしまっては、機能も予算もすべて無駄になってしまう。逆に、「使う」ようになりさえすれば、成果はおのずとついてくる。とても基本的なことですが、そうした環境を作るためのお手伝いをすることが、システム開発業者の本分ではないかと思いました。よって、さらに積極的に情報提供をすべき。当社側の課題も山積みなのだなあ…と、改めて実感しました。

さて、今回の研修会の案内文の冒頭には、的確な問題認識が掲げられていました。以下に抜粋させていただきます。

「情報の共有化が図られていなかったり、作品の文字情報と画像が連動していなかったり、増え続ける資料の全体像がつかめなかったり、あるいは資料検索に時間を要したりと、多くの問題を抱えていると考えられる。
一方、近年では、所蔵資料の一元管理を目指し、一括したデータベース化を進める館も増えている。こうしたデータベース化は、効率的な資料管理に留まらず、情報の蓄積による研究の進展や、ときに、新しい切り口による資料の活用への気づきをもたらすだろう。」

まさしく、その通りなのです。

効率的な資料管理、研究の進展、資料活用への気づき。これらを日本全国、すべての館に行き渡らせることこそ、当社の使命。当日は講師としての参加でしたが、むしろ私のほうが認識を新たにさせていただく場になりました。

主催者・ご関係各位に、改めてお礼を申し上げます。