ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

(写真はイメージです)

アート・イン・ホスピタル(Arts in Hospital)……あまり耳馴染みがない言葉かも知れません。病院のロビーに絵が掛かっている様子をイメージして「アレか」と想像される方もいるかも知れません。かくいう私も同じ程度の認識でしかありませんでした。
初めてこの言葉を知ったのは、兵庫県の西脇市立西脇病院の運営するウェブサイトでした。こちらでは、「病院に新しい価値を。アートに新しいフィールドを。西脇市立西脇病院発の文化芸術プログラム」として、院内の「西脇病院 病院力プロジェクト」が運営にあたっていらっしゃいます。毎年2~3回ほどの展覧会を実施しており、主に写真家さんの個展を開催されているようです。

そもそも、この言葉はどのようにして生まれたのでしょうか。事の始めは、国連「世界文化発展の10年(UN World Decade for Cultural Development)1988-1997」を特徴づける活動の一環として1989年に認可されたプロジェクトです。ユネスコ(UNESCO)を本部として1990年にスウェーデン、ノルウェー、スイス、フランス、オーストリアを企画国に「Arts in Hospital国際会議」が発足し、 現在では各国の厚生省が独立してプロジェクトを進めています。端的に言えば、「文化・芸術を活用した癒し・治癒力向上」に関する研究プロジェクトです。

日本国内では、織物作家でいらっしゃるアナグリウス・ケイ子氏のプロデュースによって、千葉県鴨川市にある亀田クリニックに導入されたのが初めてだそうです。現在に至っては、日本各地の病院のウェブサイトでも取り組みを確認することができます。また、亀田医療大学では3年時にアート・イン・ホスピタルの授業を行うなど、積極的にアートと医療現場との関わりについて考えていく土壌ができているようです。大学の市民講座などで扱われることもありますので、そういった取り組みが事例とともに広く認知されていくことも、今後の発展に重要なことかも知れません。

亀田医療大学と亀田クリニックのように、医療の教育と現場が密接に関係しているケースはもとより、美術系大学と地域の病院や診療所が連携してアート・セラピーを進めているケースもあります。ただ、アートの持つ「自由さ」が制約になってしまい、連携が思うように進まないこともあるとか。芸術家(制作者側)と医療現場が相互に理解を深め合いつつ、継続的に活発に進めていくことで、いずれ「アートの最前線」として病院を活用することも可能になるのかも知れないと期待が膨らみます。