ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

作品や作家について地道な研究を続けている「その道のプロ」が、専門分野について日頃の成果を披露する。受講者たちは、それを自らの知識として吸収し、作品をより豊かに鑑賞する目を養う――美術館の講座とはそういうものだと思っていました。実際、大半の講座は、そんな視点で開催されていると思います。

でも、今回伺った中山道広重美術館によるシリーズ講座は、そうではありませんでした。全6回のイベントは、壇上に立つ講師全員が、いわゆる「業者」さん。美術について語るのではなく、自分の仕事について「裏事情、お見せします」という企画なのです。

その「業者」講師の一人が、私です。最初にお話をいただいた時は、「PCのモニターに齧り付くシステム開発業者の話なんて、美術ファンの皆様が興味を持ってくださるのだろうか」と疑問に思いました。とは言え、せっかくお招きいただいたのだから

…とお邪魔することにしたのですが、道中のお供を探しに立ち寄った東京駅の書店で「放送禁止になったテレビ番組の裏事情」についての本を見つけました。

「ウ×トラマンの第×回は、こういう事情で再放送されないんです」なんてエピソードを見つけて、「そうだったのか!」と心の中で叫ぶ私。夢中で立ち読みしていた自分に気づき、「なるほど。興味のある分野は、裏側も知りたくなるのが人情なんだな」と、スッキリした気分で新幹線に乗り込みました。取り急ぎ用意しておいたスライドショー用の原稿を車中で開き、張り切ってリハーサル。そうだったのか、と言っていただけるような「裏話」を思い出しつつ。

お話をくださった学芸員さんは、4年前に当サイトのミュージアムインタビューにご登場いただいたことがあります。館に着いてよくよくお話を伺ってみると、実はこの講座、その当時から温めておられた企画なのだとか。ご自身が学芸員になったばかりの頃、仕事の進め方が分からず、出入りの業者さんたちにいろいろと教わった経験から、アイデアが浮かんだのだそうです。

彼女の狙いは館のファンの皆様に響き、企画は大当たり。何と九州からご参加の方もおられるほどの大盛況ぶり。やはり、「舞台裏」は人を惹きつけるんですよね。うんうん、分かります。

さて、私の講演のお題は「IT」です。しかし、参加者は年配の方が大多数。さすがに管理システムの技術話で終始するのは気が引ける…というわけで、日々の仕事を通じて目にする学芸員の皆様の苦労話をメインテーマとすることにしました。「Googleアートプロジェクト」「ゲントの祭壇画修復プロジェクト」といったタイムリーな話題から、それと対比する形で地域ミュージアムの奮闘ぶりのエピソードを話し始めると、思いのほか熱心にお聞きいただけることができました。

 

そんなわけで講座は無事に修了したのですが、せっかく館の利用者の方々とのふれあいの場です。博物館の皆様に少しでもお土産を持ち帰りたいと考え、「利用者がミュージアムに求める情報発信とは」という主旨で、簡単なアンケートを実施しました。

以下、一部を紹介します。

「館が所蔵している作品をインターネットで検索できるとよいと思うか」という問いは、「はい」がほぼ100%。もうひとつ、「インターネットで見たら、もう館に足を運ばなくてよいと思うか」という問いには、逆に「いいえ」が100%でした。

インターネットで何が展示されているかを調べた上で、現物を見にミュージアムに足を運ぶ。そんなお気持ちが伝わってきますね。

アンケートの意見欄には、「全国のミュージアム関係者の努力に感銘を受けました。」というコメントがありました。最初は好奇心で「舞台裏」を覗くと、そこには「現場の人々の苦労」があった…ウ×トラマンの裏話を知って高揚した私と同じです。

ミュージアム好きの層を増やすには、まず「好きな人に、もっと愛着を持っていただけるようになる」ことを考える。企画を実施された学芸員さんのご慧眼、素晴らしい着眼点だと身をもって実感しました。心から拍手を贈りつつ、仕事が待つ東京へ帰る私でした。