ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

オリジナルキャラの大活躍で、博物館の学びを楽しく誰にでも

昔、ある小説家にこんな話を聞きました。「キャラクター設定をしっかり行えば、登場人物たちは勝手に活躍し始めます。僕の小説は、そうやって出来上がるんですよ」。今回お邪魔した大阪府立弥生文化博物館のキャラクター「カイト」と「リュウさん」も、まさにそんな感じかも。彼らの大活躍によって、小学生の来館者がぐんぐん増加しているとのこと。未来の学芸員になりそうな、博物館大好きっ子が続々と誕生しているに違いありません。
かわいらしく、親しみやすいキャラクターたち。彼らにひと目会おうと、子どもたちが博物館を訪れたとしましょう。エントランスで賑やかなキャラが出迎えてくれればテンションは最高潮ですが、展示室に入るとそのキャラの姿は見えず、難しそうな展示が並ぶだけ…。そんな「博物館あるある」的なギャップを埋め、博物館の楽しさを最大限に伝える試み。それが、今回ご紹介する「館キャラ連携プロジェクト」なのです。

※「館キャラ」とは、マスコットやアイキャッチの性格が強い「ゆるキャラ」とは異なり、博物館内での学びに積極的かつ主体的に関わっていくキャラクターの呼称として、「館キャラ連携プロジェクト実行委員会」が提唱しました。

プロジェクトを通じて大活躍するキャラクターたち。その裏には、しっかりしたビジョン、実現のための緻密なプランと計算、スタッフの皆さんの大変な努力がありました。では、さっそくご紹介しましょう。

キャラクターの設定

 

あふれるユーモアで来館者を惹きつけるのは、お笑いの本場・大阪ならではでしょうか。元気な弥生犬「カイト」は好奇心にあふれる少年系、壺に描かれた龍の絵から飛び出してきた「リュウさん」は関西弁のおっさん系と、いわゆる「キャラ立ち」も申し分ありません。とてもカワイイ一方で少し落ち着いた色合いに見えますが、これは展示室で「資料よりキャラクターが目立つ」ことを避けるためとか。普通は少しでも目立つことを考えそうですが、実はむしろ抑制されているわけです。

どんなキャラクターにするかの前に、キャラクターに何をさせたいのか。そんな論理的な考え方が、キャラづくりの土台となるのですね。

【施策1】マンガで学べる弥生文化「弥生博のカイトとリュウさん」

 

カイトとリュウさんの活動のメインステージは、実はマンガ内。4コマ×2本で1話となっていて、2019年1月現在ですでに53話も公開されています。
好奇心旺盛なカイトと、ボケ役のリュウさん。彼らの設定は、ここで効いてきます。お笑いで言う鉄板ネタに近い感覚で、これがとにかく面白いんですよ。弥生文化のこと、博物館のこと、学芸員の仕事のことなど、知識や情報が自然に入ってくるので、雑学系マンガとして見ても上々の出来。中には、「孫に読ませたい」と持ち帰る高齢の来館者もおられるそうです。

 


ネームを書いているのは、実は館の学芸員。専門知識はサスガですが、プロ並み(?)のお笑いのセンスにも脱帽です。さらに感心したのは、キャラクターイラストの再利用を見据えた制作方法です。絵を担当するイラストレーターの方には、キャラクターや背景、セリフなどがレイヤー分けされたデジタルデータで納品してもらっているとのこと。こうすれば、絵をパネルやチラシ、グッズなどに再利用したい時には、簡単に抜き出せるのです。楽しいマンガ本体に比べると地味な部分ですが、こうした工夫も、キャラクターたちの活躍の場をマンガに限定せず、様々なメディアで伸び伸びと動かす秘訣のひとつなのでしょう。

【施策2】館キャラ解説シート「カイトとリュウさんのやよい解説」

こちらの博物館の第1展示室は、「目で見る弥生文化」をテーマに弥生時代の様子を再現しており、展示資料の観察を重視する視点から、文字パネルが極力省かれています。補助的な資料として解説シートがありますが、小中学生には難しい内容にならざるを得ません。そこで、カイトとリュウさんが登場するマンガ風の解説シートを加えたところ、同じく「面白さ」が前面に出るため、まず展示見学の雰囲気が変わったそうです。子どもや若い来館者だけでなく、年配の方も喜んで持ち帰ることも多く、解説シートを見ながら展示を観察する人も増えたとか。日本のマンガ文化の伝達力は本当に凄いですよね。

大型のジオラマは多くの博物館で展示され、細部までよくできているものです。しかし、これは私個人としても経験がありますが、展示室内を歩き回る際にそこまで気付くのは容易ではありません。こちらにも、「卑弥呼の館」という大型のジオラマがありますが、こういう時こそカイトとリュウさんの出番です。ミニ冊子「HIMIKO QUEST -冒険! 卑弥呼の館-」では、ジオラマの細部の観察をとても自然に促しています。これなら、観たくなりますよね。

【施策3】館キャラ音声ガイド「カイトとリュウさんの音声ガイド」


2体のキャラの掛け合い方式はマンガにピッタリですが、さらに効果的なのが、この音声ガイドだと思います。一般的に、音声ガイドは専門的な説明を淡々と読み進めることが多いものですが、「この2人」が担当すると、まるでトーク番組のような楽しさに。そうなると「ナレーションのノリ」も重要になってくるので、プロの声優さんを起用したのだそうです。


音声ガイドを聞いて楽しそうに笑う子どもたち、ガイドの内容を整理し合う家族連れ。導入後は大好評で、音声ガイドの利用者数自体が従来の3倍にもなったそうです。アンケートからは、他のメディアに比べて10歳以下の利用者が多かったとのこと。カイトとリュウさんの子どもからの人気ぶりがうかがえます。

【施策4】パペットツアー「カイトとリュウさんの弥生ツアー」

 

パペットとは、手を中に入れて操作する人形のことですが、カイトとリュウさんもパペットが作られました。パペットは着ぐるみより手軽に運用できるので、こちらでは音声ガイドのナレーションとともに展示案内ツアーに活用しておられます。愉快な掛け合いと人形劇、子どもたちが喜ばないわけがありませんよね。こんなに楽しい雰囲気で展示を見て回るというのは、なかなかできない体験です。

ここでも、展示室で見栄えがするように、パペットのサイズを大きくするなどの工夫が施されています。細かい努力の甲斐があって、こちらも大人気。数十人の子どもたちがパペットに駆け寄る…というか「詰め寄る」こともあるほどの盛況ぶりとか。

 

【施策5】館キャラ動画「弥生博のカイトとリュウさん Theアニメーション」

 

展示解説の工夫をさらに進めるトライアル。来館できない方々にまで館の魅力を伝えようと、来館者の予習復習用に作られたのがカイトとリュウさんが登場するアニメです。背景が展示資料になっていて、実際に館内でカイトとリュウさんの案内を受けているような作品に仕上がっています。

遠方で来館が難しい方や、社会科見学を引率する先生のための予習教材としての活用を目指して作られており、youtubeで配信しています。海外の方向けの英語字幕版も少しずつアップされていますよ。

 


 

いかがでしょうか。単に楽しいキャラクターを創り上げただけでなく、工夫いっぱいの展開が参考になる大阪府立弥生文化博物館による「館キャラ連携プロジェクト」。まだまだ話題満載なので、後編では子どもたちを虜にするゲーム性の高い試みなどをご紹介します。