ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

浮世絵ファン垂涎の超注目イベントに行ってきました!
報告が遅れてしまいましたが(汗)、さる10月8日(水)、慶應義塾大学三田キャンパスの東館6階グローバル・スタジオで開催された「ミュージアム・プロフェッショナルセミナー」に潜入。

第3回目となる今回は、ボストン美術館の学芸員サラ・トンプソンさんご本人の講演と質疑応答という豪華な内容。浮世絵ファンの皆さんは必見です

この秋、大きな話題となった江戸東京博物館の『ボストン美術館 浮世絵名品展』。マスコミでも大々的に報道され、本邦初公開となる浮世絵の名品にファンの注目が集まりました。2か月弱の特別展は、11月末をもって惜しまれながら終了。一般のファンはもとより、日本の美にはウルサい浮世絵通の方々にも、とても好評だったようです。

さて、今回の展覧会でさらに有名になったボストン美術館の浮世絵コレクションですが、収蔵品を数えると実に約5万4千点にものぼるとか。ビゲロー・コレクション、スポルディング・コレクション、シャーフ・コレクションなど、日本にもその名の轟く名コレクション揃いですね。特にスポルディング・コレクションは、実物展示は不可という条件で寄贈されたというエピソードが報道され、広く話題となりました。

もともと、浮世絵は保管が難しい美術品。弊社代表の学芸員インタビューにもあった通り劣化しやすいため、常設展示は困難です。そんな浮世絵だからこそ、バーチャル展示がモノを言う…というわけで、今回のセミナーのテーマでもあるデジタルアーカイブ化が活きてくるのですね。

ボストン美術館では、所蔵する日本の木版画は、すべてデータベースへと登録するために、作業を進めておられるとのこと。最近、あちこちで必要性が語られているデジタルアーカイブ化ですが、よく考えれば浮世絵にこそ必要な措置と言えるかもしれません。

さて、イベント当日の注目は、やはりトンプソンさんの講演でした。ボストン美術館では、研究助手、保管担当専門家、カメラマン、スキャニング担当者、そして関連ボランティアでチームを構成して取り組んでおられるとか。データベースシステムはギャラリー・システムズ社の「ザ・ミュージアム・システム」を使用しておられるとのことです。

目録には登録番号・所在場所から画家名・時代・素材・版型(大判、中判など)、日本語・英語による作品名や落款、版元、重複品の番号、彫り・摺り・改印まで、十分な情報が網羅されているそうです。浮世絵ファンとしては、感謝の念を禁じ得ませんね。

講演もさることながら、講演後の質疑応答で、今回のデジタルアーカイブ化の成果物としてのWeb検索システム※ を体験することができたのも、大きな収穫となりました。一般的な項目検索のほかに、作品に描かれているものをキーワードとして検索できる機能が用意されていたり、画像も数段階の拡大表示ができて落款などの細かい部分も確認できるなど、なかなかの使い勝手です。

遠く離れた美術館の優れたコレクションを手軽にみることができるのも、地道なアーカイブの作業があってこそ。私たちも、もっと努力してデジタルアーカイブ化に貢献しなくては…と決意を新たにせずにはいられませんでした。

なお、他館との横断検索は、想定はしているものの実施にはいたっていない模様。このあたりは日本の状況と同じなのですが、日本と運営環境の異なる欧米では、出資元が財団や銀行などであることが多いそうです。こうした実情を聞くと、「しがらみの少ない(?)日本のほうが実現は早いかも」と思いました。

現在では、Web公開中の作品が2万6千点を超えたとか。プロジェクトの完了予定は2011年。スポルディングコレクションについては、日本での出版予定もあるそうです。当社代表をはじめ、浮世絵ファンは意外に多いので、今後が楽しみですね。

いずれにしても、収蔵品のデジタルアーカイブ化は今後の社会の必須課題。そう確信せざるを得ない、充実したイベントでした。


●ボストン美術館まめ知識! 

ビゲロー・コレクションは、平安時代の仏画から現代の創作版画までを網羅。もちろん、スポルディング・コレクションと同様、江戸時代の浮世絵が中心です。シャーフ・コレクションは、明治時代の浮世絵がメイン。その他、重複品などの理由で登録されなかったものを「The Bales(俵)」と呼ぶのだそうです。

●ボストン美術館ホームページ
http://www.mfa.org/index.asp

※文中で紹介したWeb検索システムは、インターネット上で公開されています。

作品の検索方法
上記ホームページから
COLLECTIONS > Advanced Search  へアクセスします。
検索条件を入力し「Search」ボタンをクリックすると、デジタル化された浮世絵を検索できます。

例えば、Classification:「Prints」を選択、Keyword:「sakana」を入力し検索すると、魚が描かれた浮世絵が表示されます。ぜひお試しあれ。