ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

「公立美術館活性化事業」が平成二十年度から、グッと利用しやすく。

財団法人地域創造が、全国の美術館に向けて共同巡回展の実施を支援する「公立美術館活性化事業」が、平成20年から大きく変わると聞いて早速取材に行ってきました。

― はじめに、事業の概要を教えてください。

大竹さん:企画展を開催する財源や人材の確保に苦労しておられる公立の美術館を支援し、また、共同巡回展の実施を通じて館同士のネットワークを形成して、全国で活発に活動してもらおうという事業です。

泰井さん:そのために、助成金を用意しているんですよ。全体の経費から収入を引いた金額の3分の2を支援するほか、内容面のサポートもしていますよ。

― 内容のサポートとは?

泰井さん:都道府県立の大型施設の学芸員が所属する「企画検討委員会」という組織がありまして、企画立案や運営方法まで細かくアドバイスできるようなシステムになっているんですよ。

― なるほど。特に少人数で運営している館にはありがたい話ですね。それに、日本中どこの美術館博物館に行っても、予算が厳しいという話ばかりですし。

泰井さん:そうなんですよね。展覧会って、お金の話がすべてではないですからね。ペイするかどうかだけを考えていては、館本来の方向性も発揮できないでしょうし。中長期的な視野で考えるべきですよね。

― そうですね。将来に繋がるものがないと、先細りしていくのは企業でも同じです。

大竹さん:学芸員ができるだけお金の話に縛られずに、企画に集中してもらえるようにと始めた支援事業なんですよ。

― そう考えると、使わない手はないという気がしてきますね。


 

― 今回は、その助成制度が利用しやすくなったと聞いたのですが。

泰井さん:そうですね。私たちの支援方法は、いろんな種類があるのですが、今回は一部を見直しました。ご利用いただきやすいように、簡易的になったと言いますか。

― 種類と言いますと?

泰井さん:基本的には複数の公立美術館による共同巡回展への助成なんですが、地域創造が企画を提示して開催館を募る場合と、自主企画を支援する場合とがあります。また、対象となる施設の行政単位によって違ってきたりします。

― どのくらいの種類があるんですか?

泰井さん:大きく分けると3種類ですね。これまで自主企画の支援は、都道府県立と市町村立で区分があったのですが、今回の見直しでは、どちらも同じ制度をご利用いただけるようになりました。

― なるほど。自由度の高い企画が期待できそうですね。たとえば、同じ作家を冠した美術館が全国にいくつかありますけど、そうした館の合同企画にも支援が得られるということですか。

大竹さん:「生誕○周年」といった記念の展覧会の開催にもご利用いただけますよ。もちろん、いくつかのルールはあるんですけどね。それさえクリアいただけば。

泰井さん:それに、同一の都道府県内で行われる共同巡回展に対する支援への制約が緩和されています。

― ほう?規制緩和というわけですね?

泰井さん:と言うより、館の負担の緩和ですね。これまでは都道府県立の館の関与を条件にしていたんですが、やはり負担がかかってしまうんですよね。そこで、市町村立の館だけでも実施できるようにしたんです。

大竹さん:また、共同巡回展に限らず同時開催展のような多様な事業形態が対象となります。


 

― ところで申請の手続きは難しいですか?

大竹さん:それほど難しくはないですよ。

― たとえば、「このケースは支援の対象になるんだろうか?」と学芸員が悩んだり…。

大竹さん:ああ、なるほど。そんな時には、どんどん問い合わせていただければ。気軽にお電話いただきたいですね。

― でも、電話はお邪魔じゃないかな、とか。

泰井さん:お気持ちはわかりますよ。私も、つい先日まで学芸員でしたので。申請する側の皆さんと同じ立場だったんですよ。

― え?そうなんですか?

泰井さん:はい、静岡県立美術館でお世話になりました。10年学芸員をやってて、仏日近代絵画史、特にロダンを扱っていたんです。学芸員として、企画検討委員という立場でこの事業に関わっていたんですけどね。

大竹さん:私は世田谷美術館で分館事業を担当していました。小規模ながら、ひとつの館を開館する実務を経験することができましたので、学芸員の皆さんのお仕事の状況は理解していますよ。

― ということは、お二人とも…。

大竹さん:ええ、地域創造には派遣されるカタチで来ているんです。

― なるほど。それなら「学芸員仲間に電話する」感覚で問い合わせていいわけですね。

大竹さん:もちろんです(笑)。書類の記入も、電話で一つ一つご説明しますので、10分もあれば完成しますよ。進行中の企画が支援事業に該当するのか判断できない時も、ぜひ相談してください。

泰井さん:コストを理由に企画を諦めるケースって、本当に多いと思うんです。でも、かかるお金が3分の1になるならば、実現できるかもしれないわけです。一つでも多くのプランが実施されるように、仲間として全力でお手伝いしますよ。事業も、「ハードからハートへ」変化しなきゃ、という信条でお手伝いします。

― すばらしいですね。支援事業がどんどん広がることを期待しています。本日はありがとうございました。


●たとえば、こんな活用法も。
助成金を利用した共同巡回展の事例です。

市町村立美術館活性化事業第7回共同巡回展
「参加してエンジョイ展-不思議なアートに触れてみよう-」

2006年6月10日~7月17日 八王子市夢美術館
2006年7月28日~9月10日 倉敷市立美術館
2006年9月30日~10月29日 福井市美術館
2006年11月18日~12月24日 安城市民ギャラリー

●共同巡回展に参加した倉敷市立美術館の杉野さんは… 
地域創造さんに声をかけていただいて、当館も共同巡回展に参加させていただきました。現代美術の分野はお客様を集めにくいこともあって、館の力だけでは展覧会の実施が難しかったのですが、助成金のおかげで開催できました。期間中はワークショップを6回も開いて、とても好評だったんですよ。こういう新しい試みは最近あちこちで試みがありますが、いざとなるとなかなか踏み出せないものですね。今回ご一緒させていただいた八王子市夢美術館や福井市美術館の方々はご経験が豊富だったので、いろいろと教えていただきました。本当に勉強になった共同巡回展でしたね。

●取材を終えて

現場経験者が現場の目線で企画され、現場の目線で日々改善されているこの事業は、「利用しない手はないな」という印象でした。とても気さくなお二人なので、とにかく、まずはお電話してみてください。