代表ブログ

わせだマンのよりみち日記

2022.06.12

弥生時代から令和のオンライン会議に参加したお話

#現地訪問#私的考察

道に迷ってたどり着いたのは、どうやら弥生時代の集落らしい。もうオンラインミーティングの開始時間、雨も降ってきてしまった。パソコンを濡らさずに会議に参加できる場所を探すと、目の前に高床式倉庫が。床下にはちょうど腰かけられる木が転がっていて、意外と快適そうだ。というわけでログインし、参加者一同に遅刻を詫びていると、不意に後方から野太い大声が。

「そこで何をしている!」「すみません! 怪しい者ではございません!」

反射的に両手を挙げ、慌てて振り向く。そこに仁王立ちしていたのは、ついさっき展示室で見た弥生時代の衣服をまとう、登呂ムラの住人らしき屈強な人物…。

…と、何やらシュールな状況ですが、これ、実は半分は実際に体験したホントの話なんです。この日は、静岡市立登呂博物館にお邪魔しての打ち合わせの直後、間髪入れずにオンラインミーティングに参加するという過密日程。博物館前に広がる登呂遺跡は何度か訪れたことがあり、ベンチがたくさん置かれているのを見て「たまには青空の下でオンライン会議もいいなあ」と思っていたんですよね。想定外だったのは、雨。屋根付きベンチがなく、本当に高床式倉庫の下で雨宿りさせていただいて、ノートパソコンを開いた次第です。

ひとり、弥生時代から令和4年のオンライン会議に参加する。帰りのバスの中でこの奇妙な体験を反芻していると、バーチャルの世界ならごく当たり前の光景であることに気付きます。CGで復元された住居にお邪魔して、当時の人々が当時の姿のまま動き回る姿を見守ったり、話しかけてくれる子どもたちと交流したり。そんなVR作品を作るなら、ミュージアムはこれぞまさしく資料の宝庫。収蔵品データベースに登録されている生活用具の画像などは、格好の素材になるのでは…。使えそうな展示資料を思い出しているうちに、バスは駅に到着しました。

弥生時代とはいかないまでも、弊社も創業から30年という長い時間が経過しました。自分自身の経験で言えば、この業界に転身した頃は「収蔵品データを整えましょう」、つい最近までは「それをインターネットで公開しましょう」という提案で走り回ってきました。家に居ながらにして展示を鑑賞できること自体が真新しかったのですが、20年近くの時間の中で、目の前に広がる風景は大きく様変わりしました。かつてはデジタル化にやや腰が重かったミュージアムの世界ですが、ここ数年の加速ぶりは目をみはるものがあります。

バーチャルな世界と言えばゲームが思い浮かびますが、小説や映画、漫画やアニメの分野でも、歴史や文化をエンタテインメントに活用するのは定番の手法。最近では、より自由な発想による「超訳」的なアレンジを持ち込む例が目立ちますので、今後はますます活発化しそうですね。そうなると、作品世界を描くための出発点として、まず「正しい情報」が必要になるはず。史実などの監修者として、学者とともに学芸員がその力を示せる場面も増えそうです。

資料の提供と、学芸員の活躍。大きく広がるエンタメ市場でミュージアムの出番がもっと増えれば、広報的に格好の舞台となるだけでなく、もしかしたら新たな収益源の開拓にもつながったりして。バスを降りて歩きながら思わずニンマリしてしまいましたが、そのためには、さらに情報を蓄積しやすく利活用しやすい仕組みづくりが不可欠。だからこそ、ウチがもっと頑張らねば…。気分が緩んだり引き締まったり、なんだか忙しいタイムトラベルの一日でした。


静岡市立登呂博物館 https://www.shizuoka-toromuseum.jp/