代表ブログ

わせだマンのよりみち日記

2021.05.14

情報は「デジタル」、心は「リアル」という感覚。

#私的考察

私が銀行員で、まだ融資の現場にいた頃ですから、かれこれ20年以上も前でしょうか。受け取った決算書のコピーを本部に送り、担当部署がコンピュータで分析した評点を次の融資判断の参考にする…という仕組みが登場しました。その時、改めて思い起こしたのが、さらに遡ること10年ほど前、まさに足で勝負の新人時代。関西出身で大阪の支店にいた私は、地元の町工場を巡回する毎日でした。前日の阪神戦の采配に対するコメントのあとで、工場の経営状況や業績の見通しを聞くという日々を思い出し、生意気にも「現場の空気を知らずに判断できるのか」などと思ったものです

時代は遷り、どちらかと言えばアナログ派の私も、ことミュージアムのデジタル化については一も二もなく大賛成。我ながら華麗なダブルスタンダードぶりの是非はさて置き、昨今のコロナ禍においては、現実に非来館・非接触のサービス提供手段としてデジタルが大いに強みを発揮しています。弊社の業務も、社の内外問わずWEB会議が劇的に増えました。また、ミュージアム各館も、独自のオンラインツアーを開催したり、ミニ展覧会気分の「おうちミュージアム」企画を提供したりと、インターネットの活用法がどんどん広がっています。

弊社の展示ガイドアプリ「ポケット学芸員」もそのひとつ。来館者ご自身のスマホとイヤホンで音声による解説が聴けるアプリで、クラウド型収蔵品管理システムの機能の一部として提供しています。最近ではプロのナレーターや地元高校の放送部員などを起用するなど工夫を凝らした事例も増えてきましたが、基本的には展示パネルなどの原稿を読み上げる学芸員の声を録音するだけでOKという気軽さから、採用館数も右肩上がり。おかげさまでとても好評なのですが、先日SNSで「学芸員の解説なら、やはりその場で直接、ご本人の肉声で聴けたほうが嬉しい」という主旨の書き込みを見つけました。

正直、ドキッとしました。と言うのも、学芸員の話を直接聞くのが好きなのは、私自身も同じなのです。それが証拠に、このブログの投稿記事の一部には、わざわざ「#現地訪問」というタグまで付けた上で、まさに現場で直接うかがったお話をご紹介しているわけですから。また、少し前には、弊社内の会議で「操作説明をしている時、全参加者の表情が見えないと、伝わっているのかどうか把握しにくい。何か工夫できないか」という議論があったばかり。「相手の顔が見えない」という悩みは、対面の操作説明会なら生じない問題です。

アナログか、デジタルか。これまで延々と続いてきた激論は、あくまでも効率化や自動化、高品質化などの手段として話。思考や心象、対話を重視する限りは、たとえその一部をAIが代替することになろうとも、真ん中に置くのはやはり「人の感覚」。不意に訪れたリモートワーク時代でデジタルトランスフォーメーションへの期待感が大きく高まる昨今ですが、いつの時代も主役はやはり「人」であるわけです。

考えてみれば、「ポケット学芸員」は、人が読み上げたナレーションを配信するためのデジタルツール。テキストデータや画像データも表示できますが、どんなファイルであろうとも、それは学芸員が来館者に、人が人に伝えるもの。スマホもアプリも効率化へのツールに過ぎず、どれだけ高度な技術が駆使されたとしても、それはお手製の糸電話で言うところの紙コップと糸のようなものなのです。

SNSに声を寄せてくださった方だけでなく、私や弊社スタッフも、恐らくは学芸員や職員の皆さんも、さらには(きっと)銀行の後輩たちも、誰もが想いは同じです。オンラインは便利ですが、心を通わせ、感情を伝えるには、やはり「リアル」に勝るものなし。これからリモート時代がさらに進むことになるとしても、この感覚を忘れないようにしたいものです。