代表ブログ

わせだマンのよりみち日記

2021.06.30

システムはクラウドで共有可能。では、「人」は?

#私的考察

弊社スタッフは、仕事柄、デジタルアーカイブ周辺の学会や勉強会に参加する機会が少なくありません。学術畑、技術畑、そして現場の学芸員。多様なお立場の方々の講演や発表などは最新情報や専門知識の宝庫であり、時にはモチベーションの面で大いに刺激を受けることも。ミュージアムITという限られたフィールドの先進事例を学べる場は、さほど多くはありません。日常業務に忙殺されていると、業界内外のこうしたニュースを取りこぼすこともままありますので、忙しくてもアンテナ感度の点検はしっかりと。

日進月歩のデジタル界隈の最先端を「ミュージアム関連の話題」として聞くと、いつも心が踊ります。会社に持ち帰り、ミーティングの議題に組み込んでは、ディスカッションの材料に活用することもしばしば。この方法はあのミュージアムに適しているかも、その方法はこの館の方針に合致するかもと当てはめては、次の訪問時にご紹介してみようという高揚感に包まれる…のですが、多くの場合、そのままお伝えしそびれることになります。

理由は簡単です。前回の投稿記事でも少し触れましたが、博物館界には、そうした技術革新の恩恵を享受する余裕がない現場の方が圧倒的に多いのです。

ワクワクするような取り組みの実際を詳しく聞き、いざ応用を…と想像すると、あの館も、この館も、予算的にも労力的にも「絶対無理」という結論になるケースが大半です。最近も、いくつかのミュージアムからオンラインでの情報公開についてのご相談をうかがったのですが、いずれも話の焦点となったのは、「他館はどう解決しているのか」という視点。話題の先端を往くハイテク事例ではなく、コストをかけずに今すぐ応用できる現場の生の事例でした。

ひとことでミュージアムと言っても大小さまざまで、運営事情もそれぞれ。デジタル活用度は、外から見た印象以上に大きな差があるのが実情です。先日、弊社で提供中のクラウドサービスが10周年を迎えばかりですが、この仕組みも、もとは「数百万円をかけてコレクションデータベースを構築する余力がない館でも導入可能なシステム」の実現を目指して開発したもの。月額3万円のみで追加費用は一切なしという料金体系もあり、おかげさまでユーザ数が約400館と業界では類を見ない規模に成長したものの、逆に言えば、やはりコストダウンが最重要課題のひとつだったという証でもあります。

しかし、データベースシステムは導入が終点ではなく、むしろ始発駅。その後、データの登録や公開が思うように進まないケースも発生します。実作業を行う人手の不足が原因のひとつ。弊社では、可能な限り時短化できる機能を随時追加するほか、電話やオンラインでのサポートの実施、スタッフが訪問しての操作説明会の開催にも力を入れていますが、まだまだ十分とは言えません。前述のWEB上での情報公開にしても、せめて館の職員が頼れるデジタル担当が館内にいたら、と思わずにはいられません。外部の人間であるの弊社スタッフに一から状況やお悩みをご説明いただく時間を省ければ、多忙を極める学芸員の負担を軽減しながらスピードアップできるのに…と。

このような「デジタル担当」の事例は、実はないわけではありません。コロナ禍で訪問できず更新が滞っていますが、弊社サイトで不定期連載中の『ミュージアムインタビュー』で離島の施設を取材した際、島外から移住して「島のデジタル担当」的なお立場で活躍されている方にお話をうかがったことがあります。ミュージアムだけでなく町の各施設から寄せられる相談への対応に飛び回っておられましたが、彼のようにデジタルまわりの知識をお持ちの方なら、弊社のようなIT系企業のスタッフとも専門用語での意思疎通も円滑ですし、何より現地事情に精通しているのでより適切なアドバイスを提供できるはずです。

そんな人材が町にひとりいれば、域内のミュージアムを定期的に巡回することは十分に可能。いや、このコロナ禍で一気に定着したリモートワークの環境を活かせば、リアルの巡回すら不要かも。博物館クラウドと同じ考え方で、「デジタル担当」もミュージアム間で「共有」できるのでは…。

弊社でもリモートワークを導入しましたので、期間中に出社するのは、電話&メール番や事務の合間にそんな妄想を繰り広げる私ひとり。緊急事態宣言が解除され、しんと静まったオフィスにスタッフたちが戻ってきた時には、「人の力」の心強さを改めて実感しました。それは同時に、相談できる人がいない館の職員の心細さを肌感覚で理解できた瞬間ともなりました。

AIやDXが話題をさらう昨今ですが、もうしばらくは人が中心の時代が続くはず。人がいなければデータは整備できませんし、デジタル技術の活用も難しいものがあります。素晴らしい先端技術を学ぶたびに、ミュージアムの相談に耳を傾けるたびに、「何か根本的な対策法はないのか」と頭の中をかき回しています。