代表ブログ

わせだマンのよりみち日記

2021.05.05

英国オックスフォードで味わった「満腹感」を、鳥取市内で。 ~渡辺美術館

#現地訪問

何はともあれ、こちらの写真をご覧ください。仕事柄、ミュージアムには数え切れないほど足を運んでおりますが、この展示の前に立った時には思わず声が出ました。その凄さが画像でも伝わるとよいのですが…。

どうですか、これ! 何と本物の甲冑の集合写真ですよ! 甲冑の展示自体は割とよく目にしますが、ここまで壮観な光景はちょっと記憶にありません。予想以上の迫力で驚きました。

そんなわけで、今回の訪問先は鳥取県鳥取市。市内から砂丘に向かうバスルートの途中にある渡辺美術館です。地元の医師・渡辺元氏が昭和初期から60年以上にわたり収集した約3万点ものコレクションを収蔵・展示するミュージアムで、武具や美術工芸品、医学に関する資料まで、その幅広さは驚くばかり。メインテーマは日本を中心とした東洋の古美術とのことで、冒頭の甲冑群にも納得なのですが、実は展示方法そのものにも大きな特徴があります。

全体的に展示の間隔が狭く置かれているのがお分かりでしょうか。一般的に、ミュージアムはゆったりとした空間を作ることが多いので、このようにズラリと、ぎっしりと並べる展示法は、むしろ新鮮に映ります。

この日は事務局長がご案内くださったのですが、解説に耳を傾けながら歩くうちに、奇妙な感覚に包まれました。「次回の来館時はスケジュールをすっぽり空けて、時間無制限でじっくり回ってみたい」。以前、どこかで同じことを思ったことがあるような…。

この既視感は、気のせいではありませんでした。数年前、ちょっとしたご縁でお邪魔することになった、イギリス・オックスフォードのピットリバースミュージアム。あの素晴らしい博物館を歩いた時の「満腹感」によく似ていたのです。公式サイトの以下のページに掲載されている写真をご覧いただくと、きっと「なるほど」とお感じいただけるはず。コレクションがびっしりと並べられていますが、基本的な展示方法は何と19世紀から変わっていないそうです。

https://www.prm.ox.ac.uk/museum-court#listing_525856_0

いかがでしょうか。もちろん規模は違いますが、観終えた時の「お腹いっぱいで満足!」「次回はもっとゆっくり来たい!」という気持ちは、あの時の体験に通じるものがありました。これぞまさしくミュージアムの楽しみ!

 

さて、渡辺美術館の展示室に戻りましょう。展示物の数も凄いのですが、それだけではありません。事務局長にいくつかご説明いただいたのですが、ひとつひとつ、素晴らしい価値を持つ宝物のオンパレードなのです。

たとえばこちら、三匹の猿が戯れている様子を描いた木象嵌(もくぞうがん)。板に2ミリほどの絵柄溝を彫り、まだら模様の黒柿板を絵柄と同じ形に刻んで嵌め込むという非常に手の込んだ技法を用いた作品です。よく見ると猿の毛の1本1本まで精緻に描かれているんですよ。作者の西村荘一郎は、明治6年(1873年)、あのウィーン万国博覧会で賞状・賞牌を受賞しているそうです。

個人的に強く印象に残ったのが、喜多川歌麿の浮世絵版木。歌麿の版木はこちらを含めて世界に4枚しか現存しないとのことですので、大変貴重なものです。こうして間近で観られること自体が素晴らしい体験ですが、これを個人で収集していたというのは、ちょっと理解を超えるくらいに凄いことですよね。それは、もはや言葉では言い表せないレベル、ほとんど奇跡的な贅沢なのでは…と。

まだまだ続きます。こちらは刀剣のコレクションも充実しているそうで、あの有名な刀工・「虎徹」の文字が目に入ったのでお話を伺いました。事務局長の話によると、鳥取藩池田家伝来の「浦島虎徹」を因州陶工の金崎秀壽氏が復元した写し「平成の浦島虎徹」があるそうです(本物は行方不明だとか)。となると、そう、あのゲーム作品『刀剣乱舞』のファンの皆様が放っておかないのでは…と思ったら、やはりちょっとした「聖地」になっているようですね。ご来館の方々が寄せ書きやグッズを置いていかれるそうで、ミニコーナーができていました。

ほんの一部のご紹介でしたが、いかがでしょうか。館を出て、建物を振り返った後、「ふう、面白かった」という言葉が口をつきます。これは、あのオックスフォードでも呟いた独り言。次は時間をたっぷり取って…と、あの時のようにあれこれと想いを巡らせながらバスを待つのでした。


取材協力 公益財団法人 渡辺美術館 事務局長 高田 正規 様

https://watart.jp/