- vol.10取材年月:2006年2月札幌芸術の森美術館
システム会社と学芸員は、 一緒にいろんなことに挑戦するパートナー。
これからもいろんなアイデアを形にしていきたいですね。学芸普及係 学芸員 係長 吉崎 元章さん
-聞くところによりますと、かなり早い時期から管理システムをお考えだったとか。
吉崎さん:そうなんです。当館はコレクションが少ないですから、開館準備の頃から「ただ漫然と館のコレクションをお見せするだけでなく、何か工夫を」と考えていましてね。
-開館と仰いますと、15年以上前の・・・。
吉崎さん:88~89年頃ですね。まだ「コンピュータ時代の到来」が予想にしか過ぎなくて、パソコンなんてほとんど浸透していませんでした。でも、だからこそ「作品そのものの魅力に加えて、情報の力を持った館にしていこう」と考えたんです。
-なるほど。具体的には、どのようなことをなさったんですか?
吉崎さん:全国の美術館の持つ収蔵品情報を集めて、今で言うデータベースを作ろうと試みたんです。それで、早稲田さんに相談させていただきました。
-まるで国家プロジェクトみたいな話じゃないですか! ウチなんかじゃとても・・・。
吉崎さん:いえいえ、そんな大げさな話じゃなくてね(笑)。学芸員が作品を貸し借りして展覧会を行なっていくわけですから、どの作品がどこの館に収蔵されているというデータベースを作りたかったんです。
-それでも、当時としては、なかなか画期的なアイデアですよね?
吉崎さん:どうなんですかね(笑)。あの当時のことですから、画像はデータが重くなってしまって、うまくいかなくてね。作者や作品名、制作年などの基礎情報だけですが、各館の目録を取り寄せて作りましたよ。
-学芸員の皆さんにとっては、のどから手が出るほど欲しいデータベースだったでしょうね。
吉崎さん:I.B.MUSEUMとは関係ない話ですね。いいんですか?(笑)
-ぜんぜん問題ありません(笑)。ぜひ続きを聞かせてください。
吉崎さん:その時は何とか形はできたのですが、継続的に運用するのは不可能でした。各館、コレクションは毎年増減していくわけですからね。一美術館では限界がありましたね、やはり。
-「文化遺産オンライン」みたいに、国が主導で行なわないと・・・。
吉崎さん:あれは、すべてのコレクションのデータベース化を目的としているわけじゃなくて、一般向けの情報公開ですよね。学芸業務支援としての全国共通データベースは、現在でも存在しないんじゃないかな、残念ながら。
-あったら便利でしょうねえ・・・。
吉崎さん:それこそ、早稲田さんが作ってみてはいかがです? きっとたくさんの館が参加されるんじゃないですか?
-そうですね、ぜひ検討してみます。夢が広がりますね。
-それで、そろそろ現実のI.B.MUSEUMのお話をお聞きしたいのですが。
吉崎さん:それが・・・実は、来館者向け端末にしか使ってないんですよ。
-ええっ! なぜですか?
吉崎さん:さっきも触れましたけど、ウチはコレクション数が少ないんですよ。だから、専用のデータベース・システムを使う必要がなくて。職員の記憶力で足りちゃうんです(笑)。その代わり、当館と同じ財団が運営している「札幌写真ライブラリー」では、I.B.MUSEUMの検索機能が大活躍ですよ。
-なるほど。あちらでは守り、こちらでは攻めの業務に活用されているということですか?
吉崎さん:まあ、そんなとこですかね。向こうは写真点数が多いですから、I.B.MUSEUMがなければ業務が回らないくらいに使われていますよ。
-では、吉崎さんがお使いになっている来館者向けシステムはいかがですか?
吉崎さん:活躍してくれていますよ。もう何年も使っていますから、ちょうどコンテンツの見せ方を変えてみたいと思っていたところです。便利さだけじゃなく、もっとこう、「番組的」な見せ方をしてみたくて。
-面白そうですね。ぜひ一緒に考えさせてください。
吉崎さん:あ、そうそう。ハードが古くなったからだと思うんですが、先月から調子が悪くて。ちょっと見てもらえますか?
-私、SEみたいな知識はないんですけど、それでもよろしければ・・・。
-(来館者向け端末を見ながら)今日は機嫌がいいみたいですね。
吉崎さん:そうですね。また調子が悪くなった時にご相談しますよ(笑)。
-ええ、ご遠慮なく。(「道内の野外彫刻」を検索しながら)それにしても、館のコレクション以外の情報がここまで盛りだくさんなのは、珍しいですね。
吉崎さん:そうなんですか? それはよかった。作った甲斐がありますよ。
-ここまでのお話から察するに、吉崎さんのスタイルは、ひとつの美術館の枠に収まらず、広くいろんなことにチャレンジされていますよね。
吉崎さん:まあ、コレクションも職員も少ない館は、工夫しないといけないですからね(笑)。
-他のユーザさんと明らかに主旨が異なる使い方をなさっているわけですが、敢えてI.B.MUSEUMに点数を付けるとすると、どれくらいでしょう?
吉崎さん:80点以上ですね。冒頭の話だけじゃなく、早稲田さんにはいろいろ新しい挑戦に付き合っていただいていますしね。
-新しい挑戦・・・たとえばどんなことですか?
吉崎さん:たとえば、3Dで館内を再現する機能とか・・・。
-え? I.B.MUSEUMの3D展示レイアウトは、吉崎さんのご発案だったんですか! あれ、かなりの館で使っていただいているんですよ。
吉崎さん:(にこやかに)それは何よりです。
-(知らなかった! 赤面しながら)その節はお世話になりまして・・・。
吉崎さん:まあ、昔のことですよ(笑)。でも、これから情報システムを導入される方にも同じことが言えると思いますが、管理システムは、私たち現場と早稲田さんのような開発会社が、一緒になって作り上げていくものだと思います。
-仰る通りだと思います。
吉崎さん:新しいアイデアはまだまだ出るはずだし、きっと今より便利な機能も作れると思います。これからも宜しくお願いしますね。
-学芸業務の現場からI.B.MUSEUMの機能が生まれているということ、あらためて痛感しました。こちらこそ、今後とも宜しくお願いします。本日はありがとうございました。
<取材年月:2006年2月>
- Museum Profile
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札幌芸術の森美術館
真駒内からバスで少し南下したところにある、札幌芸術の森。敷地内には美術館のほかに様々な工房やレストラン、ロッジまであります。インタビュー当日は2月にしては暖かな日でしたが、深い雪の中でメルヘンチックに建物が点在する様子は、さしずめデコレーションケーキのよう。アートを鑑賞して工房で自ら好きなものを作って過ごせば、誰でもアーティスト気分です。その名の通りの「芸術の森」です。
ホームページ : http://www.artpark.or.jp/
〒005-0854 北海道札幌市南区芸術の森2丁目75
TEL:011-592-5111