ミュージアムインタビュー

vol.212取材年月:2024年3月自由学園資料室

「なるほど、こうすればいいのか」という成功への道筋を
システム自身が示してくれるような安心感を覚えます。
主任研究員 アーキビスト  村上 民 さん
研究員 アーキビスト  菅原 然子 さん

-学園のデジタルアーカイブと言いますと、主にどんな資料が対象になるのですか?

村上さん:大学史に近い内容ですが、資料としては生徒たちが自分たちの手で記録し、残してきたもの、ということが特徴です。

-ぜひ詳しくお聞かせください。

村上さん:大正10年に設立された本学は、当時から生徒たちの自治を重視してきました。各種行事は自分たちで運営することが基本ですから、学園の記録も自然と在校生が残す文化が引き継がれてきたのだと思います。日番(日直)の日誌類なども代々保管されているんですよ。

-創立者や学長の方々ではなくて、生徒目線の記録なのですね。

村上さん:日々の協働の中、自分の考えを話し、書き、発表し、記録するという自律型探求力を育む学園の体験学習のひとつとして確立されているといったところでしょうか。

-どうやってノウハウを培ってきたのですか?

村上さん:1950年代にはすでに記録室があったのですが、1966年に図書館ができて、さまざまな形で残されてきた記録が集約され始めました。この流れに生徒が関わることになったのですが、当時はアーカイブのノウハウはありませんから、図書の分類に近いイメージで目録を作っていったのではないかと思います。

-生徒さん方は卒業して入れ替わっていくわけですから、半世紀以上にもわたって受け継がれてきたこと自体が賞賛に値すると思います。素晴らしいです。

 


-では、I.B.MUSEUM SaaSの導入前の状態を教えてください。

菅原さん: 80年史を制作した翌年、2002年にこの資料室ができたのですが、この頃、先ほどご説明したような記録の整理に着手しました。図書システムはあったものの、それだけでは上手く管理できないものもありますので、それらを登録するために別にExcelで台帳を作って。

-資料の種類が増えてくると図書システムでは管理し切れなくなるという話は、ほかの施設でもよく耳にします。

菅原さん:その典型だと思います。その後、一般的に機関アーカイブズと呼ばれる、学校経営に関する資料も盛り込んだアーカイブへの再編の検討を始めまして。2011年頃に都内のある資料館の方に相談したところ、I.B.MUSEUM SaaSをご紹介くださったんです。

村上さん:その館でも御社のシステムをお使いだったのですが、専用の仕様をかなり作り込んだそうで。当館が想定している使用法をお話ししたところ、それならクラウドサービスがいいのではと勧めてくださいました。

-実に適切なアドバイスだったわけですね。

村上さん:本当にそう思います。今も多種多様な情報を統合する作業の真っ最中ですが、2021年に創立百周年を迎えた際に、書籍版の百年史に関連が深い1,200点ほどの資料を先行してインターネットで公開しました。

-それが先ほどのデジタルアーカイブですね。

村上さん:ええ。実際に公開作業を行ったのはこの時が初めてでしたが、「なるほど、こうやって発信すればいいのか」という安堵感を覚えました。課題解決への通路があって、恐る恐る通ってみたら全然大丈夫だった…みたいな(笑)。

-嬉しいお言葉をありがとうございます。ところで、I.B.MUSEUM SaaSは博物館向けのシステムですが、教育機関のアーカイブ用途では足りない点もあったのでは?

村上さん:むしろ使いやすかったですよ。近代資料のアーカイブは行政文書を想定してフォンド〜サブフォンド〜アイテムという構造を採っていますが、民間の活動は必ずしもそうはなりませんので。

菅原さん:企業アーカイブに関わる方は、階層構造がある程度はっきりしている公文書館的なデジタルアーカイブを見ると「合わない」とお感じになることも少なくないですよ。当館のものをご覧になると、「分類はこのくらいシンプルでいいのかも」と仰ったり(笑)。

村上さん:実際にシステムを導入してみないと、そうした課題があること自体が分からないですからね。私たちの場合も、分類の体系化はかなり困難だったので、まず大分類だけを設定しました。と言うか、中分類や小分類はまだほとんど使っていないのですが(笑)。

-実に柔軟に立ち回っておられるのですね。感心しました。

 


-さて、システムをご利用になって、何か気になることなどは?

村上さん:たとえば「1件」の単位を揃えていなかったり、現状では「ひとまず利用させていただいている」という感覚ですからね。不満点などが発生するとしても、まだまだ先の話です。

-1件の単位とは? 箱の中身を登録したいけれど、その中身の目録化が間に合わないので、ひとまず箱単位で1点として登録しておく…ということでしょうか。

村上さん:その通りです。現在はI.B.MUSEUM SaaSに情報を集約することを優先していますので、「箱の中身」に相当する部分は、可能な範囲で「内容」の項目にテキストで仮登録しています。

菅原さん:正確性はいまひとつでも、とにかく所蔵していることがわかるように登録しておけば、検索するときちんとヒットしますからね。今のところは、これがベストかと。

-まったく同感です。データの細部については後でいくらでも拡充できることも、管理システムを使う利点ですから。

菅原さん:同じように、階層化についても事後的に対応できますからね。階層と言えば、たとえばアルバムを1冊登録したら収録されている写真を後から登録することになりますが、その時、アルバムの下に階層を追加して写真を加えていければ便利なのでは。

-なるほど! それはいい機能かも(メモ)。

村上さん:公文書の簿冊のような考え方ですね。企業や大学のアーカイブの現場では「とにかく登録しなくては」という状態になりがちでしょうから、最初から階層を作り込むより、管理しながらカスタマイズしていく方が現実的かも知れません。

-いいお話を伺いました。検索したときに階層構造がわかりにくいなどの課題もありますが、破綻することなく実現できる方法を検討してみます(メモ)。

村上さん:先ほども申しましたが、I.B.MUSEUM SaaSは「こうやって進めるんだよ」という大きな方向性を見せてくれるような存在だと思っています。各館がバラバラに解決方法を考えるのではなく、ノウハウを共有できる部分は共有するという考え方で進めていくことが大事なんでしょうね。

-そうです、まさに仰る通りなんです! 法改正などもあって、システムに不慣れな小規模な館もデジタルアーカイブに取り組み始めていますから、手法の汎用化が本当に大切なんです! 同じ考えの方がいらして本当にうれしいです。

村上さん:いえいえ(笑)。

菅原さん:当館にも関係する団体がありますし、ゆくゆくは多方面の方々との情報共有を図っていくことになるかもしれません。そう考えると、汎用化は確かに大切なことだと思います。

-ありがとうございます。さて、今後もデータの集約を進めていかれるものと思いますが、ほかに何かお考えになっていることは?

村上さん:音声や映像のデジタル化ですね。そうした情報まで一元化して広く学内で共有する方法を確立していきたいです。

-本当にこれからが楽しみです。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

 

Museum Profile
自由学園資料室 東京都東久留米市の学校法人自由学園は、2021年に創立百周年を迎えました。約4,000本もの樹木が息づき、小川も流れる約3万坪のキャンパスでは、幼稚園から大学にあたる最高学部までの一貫教育が行われています。資料室は、その知的基盤を支える自由学園図書館内に開設。学園に関する各種記録資料、創立者の関連資料などの収集・整理・保存を行なうほか、学園史資料を通した教育研究を支援する注目のアーカイブ機関です。

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