ミュージアムインタビュー

vol.33取材年月:2007年2月奥田元宋・小由女美術館

とにかく、ご来館のお客様のことばかり考えていましたので、
今後は、作品の「カルテ」としても使いたいですね。
学芸員 渡邉 憲司さん

-開館直後にお邪魔して以来、ほぼ1年ぶりですね。その後、いかがですか?

渡邉さん:開館の時は本当に大変でしたが、今はかなり落ち着きました。

-それは何よりです。ホームページで拝見したのですが、「日本で一番月が美しく見える美術館」というキャッチコピーは、一風変わっていますよね。

渡邉さん:奥田元宋の作品には、月をテーマにしたものが多いですからね。建物も、月がよく見えること意識して設計されているんですよ。実際に、満月の日とその次の夜には、22時まで開館時間を延長しておりましてね。ロビーで月を見ながらお楽しみいただけるコンサートを開いているんですよ。

-それは粋ですね! 日程を合わせて泊まりで来ればよかった(笑)。さて、本題に移りましょう。開館と同時にI.B.MUSEUMを導入していただいたわけですが、改めて、お選びいただいた理由をお聞かせください。

渡邉さん:直接的には入札で決まったんですが、仕様の中にいろいろと盛り込んだ要望がしっかりクリアされていたことが大きいでしょうね。もちろん、価格も良心的だったと聞いていますし。

-独自の要望というのは、たとえば「360度回転できる画像」とか?

渡邉さん:ええ、そうです。当館では、システム構築にあたって、館内サービスを重視していましたからね。運営方針に従って、館の作品を魅力的にお見せできるシステムを希望していたんです。

-なるほど。せっかくですから、実物を拝見しながらお聞かせいただけますか。

-手前味噌になりますが、たとえば人形作品の情報をより細かく提示するという意味では、この360度回転画像は本当にピッタリですね。お客様の評判はいかがですか?

渡邉さん:直接、声をお聞きすることはあまりないんですが、子どもさんからお年寄りまで、皆さんに使っていただいているところを見ると、好評なんだと思いますよ(笑)。実物をご覧になる時も、人形の裏側から覗くお客様もいらっしゃいますから、興味を持ってじっくりご覧いただくキッカケになっているようですね。

-それは何よりです。導入当初の最重要課題はクリアですね。では、収蔵品管理システムとして、館の皆さんの使い勝手などはいかがですか?

渡邉さん:それが…ですね。正直、よく判らないんです。情報管理用のシステムとしてはほとんど使っていないので…。

-(げっ)何か、問題でもございましたか?

渡邉さん:いえいえ、そもそも使っていないので、問題も起こりようがないと言いますか(笑)。当館の収蔵作品は寄贈いただいた60点あまりと寄託作品が少々で、今のところシステムに頼る必要がないんです。ほとんど頭に入っていますので…。

-そうなんですか。I.B.MUSEUMには、収蔵品が少なくても、十分にお使いいただけるように、いろんな機能が付いているんですけどね…。より緻密に管理していただける機能とか。こちらも、説明も足りなかったようですね。

 

渡邉さん:開館して1年、こちらもドタバタとしていましたからね。それに、奥田元宋も奥田小由女も、作家としての研究データはまだまだ少ないですから。そういう意味では、管理の必要が生じるのは「これから」というところなんですよ。

-わかりました。そのような状況でお聞きするのはどうかとも思うのですが、高齢ですので。I.B.MUSEUM及び弊社の対応は、100点満点で…いや、やっぱり難しいですよね。

渡邉さん:ハードウェアのトラブルのときもすばやく対応してくださっていますので、早稲田さんには良い点数を付けることもできると思いますけど…。う〜ん、でも肝心のシステムの詳細を「知らない」状態ですので、採点するのは難しいですね…。

-そうですよね。それでは、本格的にお使いいただいた後に、改めて伺うことにいたしましょう。館が発展すれば、きっと情報管理が必要になるでしょうから…。

渡邉さん:ええ、その時に改めて

-では、話題を変えて。人形作品は館の特徴になっていると思うのですが、管理の上では、どんな点に気を遣っておられますか?

渡邉さん:休ませる期間とか、ホコリや細かい傷を把握するとか、繊細な配慮が必要になるので、そのあたりですね。そうそう、「傷を見つけたら、その部分を拡大画像で残す」という方法を導入すれば、収蔵品管理システムに頼る必要が出てきますね。

-(!)なるほど、それはいいアイデアですね。現在、導入されているI.B.MUSEUMで十分可能ですよ。ちょっとご説明させていただいても良いですか?

-たとえば、I.B.MUSEUMでは、出品歴を作品ごとに蓄積して管理できるんです。人形を大切に保存される上で、この機能はきっと便利にお使いいただけると思いますよ。それから、小さな損傷に関する情報ですが、これは二通りの方法で管理できます。

渡邉さん:それは興味深いですね。ぜひ教えてください。

-まず、単純に損傷部分の写真だけであれば、I.B.MUSEUMは画像登録枚数に制限がありませんから、どんどん写真を撮って登録してください。写真には細かくキャプションを付けられますから、「右手甲部分、07年3月発見」などと入力していただければ分かりやすいと思います。

渡邉さん:画像に直接文章を付けるんですね? なるほど。

-損傷の状況をもっと詳しく残す場合は、WordやExcelで入力しておけば、そのファイルそのものを人形のデータにリンクする形で登録できますよ。人形の細かな健康状態を日誌のように詳しく記録して、皆さんで共有できれば、業務に活かせますよね。

渡邉さん:なるほど。そうなると台帳ではなく、カルテですね。確かに、今後、当館にも必要になってくると思います。

-実際の病院のカルテも、電子化が進んでますからね。病院の業務改善には、情報の共有が欠かせないとも聞いています。

渡邉さん:そうそう。共有で思い出したのですが。いま、I.B.MUSEUMは資料室のパソコンに搭載しているんですが、ふだん職員が業務で使用するパソコンには繋がっていないんですよ。これも、改善できますよね?

-ええ、もちろん。戻ったら当時の資料を確認して、対応方法を検討してみますね。

渡邉さん:ぜひお願いします。今日は、これからの方向性がはっきり見えた気分です。作品数は少ないのですが大作が多いので、1点1点の詳細な「カルテ」を作ってみたいですね。

-本来は、仕様面だけでなく、実際の業務をもっと細かくお聞きして、導入の時点でご提案するべきでしたね。ちょっと反省しています。

渡邉さん:いえいえ、あの時は本当にドタバタでしたから。開館してまだ1年ですし、これからが大切になると思います。今後ともいろいろと教えてくださいね。

-もちろんです。改めてお話しさせていただきますが、ご不明な点があればいつでもお気軽にご連絡ください。本日はありがとうございました。

<取材年月:20077年3月>

Museum Profile
奥田元宋・小由女美術館 日本画家・奥田元宋と人形作家・奥田小由女夫妻の故郷に対する思い。芸術家たちの作品に込めた気持ちに応えるべく「彼らの故郷であるこの地に美術館を誘致したい」と考えていた三次市の努力が実を結ぶ形で、2006年4月に開館した美術館です。「元宋の赤」で有名な奥田元宋の作品の傾向にちなんで、建物は、月が美しく見えるように設計されたそうです。建築のコンセプトは芸術と自然の綾なす「芸術の舞台」。作品を愛する人たちと故郷を愛する作家、そして自然を愛する人々によって作られた、ヒューマンな温かみに溢れる美術館です。

ホームページ : http://www.genso-sayume.jp/index2.html
〒728-0023 広島県三次市東酒屋町453番地6
TEL:0824-65-0010