ミュージアムインタビュー

vol.56取材年月:2008年12月筑波大学芸術学系

これからの学術機関は、社会貢献性が必要不可欠。
インターネットでの情報公開は、その好例だと思います。
教授 斉藤 泰嘉さん
アシスタント 大島 ゆきこさん

-本日はよろしくお願いいたします。もうずいぶん長くI.B.MUSEUMをお使いいただいていますね。まずは導入当時のお話からお聞かせいただけますでしょうか。

斉藤さん:その辺りの話になりますと、「業界の歴史」みたいな話になるかもしれませんね(笑)。かまいませんか?

-ぜひぜひ! お聞かせください。

斉藤さん:コンピュータを利用して美術作品の情報管理を行うという考え方は、1980年代くらいから始まったものなんです。個人情報などを扱う機会が図書館より多いこともあって、図書館に比べて10年ほど遅れていました。1990年頃から大きなシステムを導入する動きが活発になったのは、遅れを取り戻したいという気持ちもあったのかもしれませんね。

-弊社が創業して、I.B.MUSEUMを全国に展開し始めたのも、その頃です。

斉藤さん:私は当時、東京都現代美術館にいました。95年の開館の際に、やはり大規模なシステムを開発しましてね。当時は、自分たちの独自仕様のシステムを構築するという方法と、早稲田さんのようなパッケージを採用するという方法の二通りに分かれていました。

-独自で構築されたとなると、相当お金がかかったでしょうね。

斉藤さん:ええ、本気でしたから。いくつかの館では、投資が数億円規模にも及んだと聞いています。

-数億円! 羨ましい……。

斉藤さん:今では考えられませんね(笑)。ただ、大学はそれほど潤沢ではなかったんです。96年に本学に着任した時、大学も作品をたくさん収蔵していることを知って、きちんとコンピュータ管理を導入することになったのですが…。

-そこで、弊社の登場、と…。

斉藤さん:その通りです。なにせ、早稲田さんにお願いすれば、「数百万円でできます!」という感じでしたから(笑)。

-ははは…(いまと変わらない 汗)。

斉藤さん:その金額では、比較の対象となるようなソフトはありませんでしたからね。迷わず早稲田さんにお願いしましたよ。

-つくづく、いい時代だったんですねえ…。

-導入されて、使い勝手はいかがでしたか?

斉藤さん:東京都現代美術館の大規模なシステムとは正反対に、シンプルなシステムになると思っていたのですが、実際は思ったほどシンプルにはなりませんでした。

-と仰いますと?

斉藤さん:たとえば、本学は絵画作品を持ってはいますが、美術館のように常設展示をしていたり、貸出を頻繁にしたりといった業務はありません。でも「いつか使うかもしれない」と思って、いろんな機能を実装してもらったのですが、ちょっと慎重すぎたかな、と(笑)。

大島さん:大学のシステムは導入から10年も経っていますが、決まった機能しか使わないですもんね。

-「迷った時は大きめに作っておく」という傾向は、確かにあります。何度も買い替えるものではありませんから。

大島さん:それに、あとから機能を追加すると、またお金がかかりますし。

-そう言えば、こちらでお持ちの作品には、学生さんが制作されたものも入っているのでしょうか。

斉藤さん:目録に掲載されているもの以外に、学生が描いた自画像などが300点ほどありますよ。

-そうした作品もデータベースに登録されているのですか?

斉藤さん:ええ、登録はできていますよ。データベースは、組織の体系に合わせて、美術系とデザイン系の2つの柱で設計したのですが、学生の作品も念頭に置いていましたので。

-最近、システムを更新されましたが、その「2本柱制」は今も守っておられますよね。リニューアルはスムーズにいきましたか?

斉藤さん:ええ、おかげさまで。データ移行が心配でしたが、SEさんが相当工夫してくださったようで、問題は生じませんでしたよ。

-それは良かった。大島さんは、新しいシステムをお使いになって、何かお気づきのことはありますか?

大島さん:大きな問題と言えるほどのことはないですよ。ブラウザの「戻る」ボタンが使えないのが不便かな? と思うくらいで。ボタンが表示されていると、ついクリックしてしまうんです(笑)。

-慣れていただけば大丈夫そうですね(笑)。斉藤さんはいかがですか?

斉藤さん:美術系とデザイン系の二本柱で、とお話ししましたが、実は最近、もうひとつ新しい柱が加わったんです。大学の組織はこうした変化がありますから、システム側も柔軟に対応できるといいな、と思います。

-なるほど。美術館博物館でも、システムを改修する予算が取りにくくなってきていることと、使う側のコンピュータへの慣れ、知識の高まりで、「自分で作り変える余地」が求められてきているように思います。

-今後のことについて、お話をお聞かせいただけますか?

大島さん:まずは、データの充実ですね。芸術資料委員会のホームページも立ち上がりましたから、一般公開できる情報を増やすことが当面の目標です。

斉藤さん:いまだに入力し切れていない項目も少なくないですからね。通常業務の合間に入力を進めていくということは、実は大変な作業なんです。

-データベースの宿命ですね。本業もお忙しいでしょうし。

斉藤さん:大学はこれまで、教育と研究という使命を与えられてきました。でも、これからは「社会への貢献」という3つ目の使命も重要になります。学術資源をデータベース化して、インターネットを使って社会に公表していくということは、大変重要なミッションとなるわけです。

-なるほど。博物館や美術館においても同様のことが言えますね。

斉藤さん:私たちのような芸術学系だけでなく、大学には、博物館に匹敵する考古資料などが膨大にありますからね。これまでは各分野で研究者が個人的に管理するのが一般的でしたから、体系的にデータベース化して、知的情報源として社会に還元できるような環境を作らなければならないと思うんです。

-大学もミュージアムも、同じ課題を抱えているということですね。ぜひ、弊社にもいろんな事例を教えていただければと思います。

斉藤さん:もちろんです。私たちも、1日も早くインターネット公開を実現したいと思っていますので、今後もご協力くださいね。

-はい、いままで以上に頑張ります! 今日は大変勉強になりました。お忙しいところありがとうございました。

 

<取材年月:2008年12月>

Museum Profile
筑波大学芸術学系 都心からつくばエクスプレスで45分、日本でも屈指の自然豊かなキャンパスで知られる筑波大学。「学部」に相当する芸術専門学群に、15の専門領域が用意されています。他の芸術系大学とは異なり、「総合大学の中で専門教育を行う場」としての位置づけられている点がポイント。視野の広い、柔軟性を備えた芸術専門家の養成を目指す一方、このほど芸術資料委員会のホームページも立ち上げ、社会貢献にも積極的な姿勢を示すなど、学術機関としての厚みを増しています。

ホームページ :  http://www.geijutsu.tsukuba.ac.jp/         (筑波大学芸術学系)
        http://www.geijutsu.tsukuba.ac.jp/~artcollection/ (筑波大学芸術学系芸術資料委員会)
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