ミュージアムインタビュー

vol.72取材年月:2011年9月世田谷美術館

作品のデータは、職員みんなのためのものであると同時に
20年後、30年後の館のためのものでもあるのです。
学芸部 美術課 主任学芸員 矢野 進 さん
学芸部 企画課 主任学芸員 野田 尚稔さん

-いまご利用のI.B.MUSEUMは3年前にご導入いただいたものですが、実はかなり前にお使いいただいていたことがあるそうですね。

矢野さん:ええ。平成元年ごろ、収蔵品の目録を作った後に導入したようですね。なんでも、冊子ができ上がった直後に早稲田さんが営業に来られたのだとか(笑)。

野田さん:その後、区の情報システムを大手業者のものにまとめる際に、収蔵品管理システムも変わったんです。

-なるほど。それはいつ頃の話ですか?

野田さん:平成15年頃だと思います。当時はシステムで使える端末数が限られていたので、「みんなで使えるシステム」ではなかったですけどね。

-その当時では仕方のないところですね。

野田さん:その後、当時のシステムが依存していたOSのサポートが終了するということで、データが維持できなくなる可能性が出てきまして。

-なるほど。そこで弊社が再登場するわけですね。

-更新のテーマは、やはり「みんなで使えるシステム」だったのでしょうか?

野田さん:もちろんです。ただ、私個人としては、もっと大きな課題があると感じていました。

-ほう? それはどんなことでしょう?

野田さん:収蔵品データベースの管理担当者は、サーバの管理も仕事の範疇になりますよね。たとえば出張で不在の時にデータが消失したら…と思うと、怖いじゃないですか。

-確かに。当時はバックアップも手動が主流でしたもんね…。

野田さん:ということで、システム更新の最大のテーマは、実は「サーバを持たないこと」だったんです。Webブラウザで使えて、外部サーバにアクセスする形が理想でした。

-でも、今のシステムが導入された時点では、以前の業者さんの製品でも同じことができたのでは? なぜ弊社製品に戻られたのでしょう?

野田さん:実は、私は以前、草月美術館に勤務していたことがありましてね。

-え! 弊社のユーザさんですよ!

野田さん:そうなんです(笑)。それに、いま申し上げた条件で各社さんの製品を比較したら、残った候補は早稲田さんを含めて2社だけでしたよ。もう1社の製品はデータ移行が難しかったので、「やっぱり早稲田さんしかない」と。

-弊社にとっては理想的な展開です(笑)。仕様の打ち合わせは矢野さんにご担当いただいたとお聞きしていますが、順調に進みましたか?

矢野さん:私は、かなり前に文学館に移っていたのですが、当時はちょうど当館に戻ったばかりでしてね。いきなりシステムの担当になって面食らいましたが、「前任者」にずいぶん助けてもらいましたよ。ねぇ、野田さん。

野田さん:そうでした? 一人でこなしていらしたように思いますけど(笑)。

矢野さん:いやいや、何を仰いますやら(笑)。

-ははは(笑)。それで、ご要望は実現しましたか?

野田さん:旧システムに不満があったわけではありませんから、私自身はあまりあれこれお願いはしませんでしたね。システム間の仕組みの違いで貸出データの移行は大変そうでしたが、I.B.MUSEUM側をカスタマイズしていただくことで解決しましたし。

-矢野さんはいかがですか?

矢野さん:私は逆に、かなり要望を出させていただきましたよ。名簿管理機能が付いたこと、それに画像データが無制限に登録できるようになって、助かりました。そうそう、画像付きのリスト出力機能も便利ですね。

-それは何よりです。

矢野さん:あと、図書管理も追加していただいたんですよ。当館には、蔵書を数万冊持っている「分館」があるのですが、ライブラリーのパソコン1台でしか見ることができなかったデータをみんなで使えるようになって、効率が上がりました。

-そういう具体的な効果が出ると、開発側の私たちも嬉しいです。

矢野さん:図書情報と言えば、文学館とも将来連携できないかな、と思っているんですよ。今度、あちらも早稲田さんのお世話になるようですね。

-ええ、ご一緒させていただく予定です。

矢野さん:当館に作品をご寄贈いただく際、たとえば「ご主人が画家で、奥様が作家」というケースがあるのですが、現状では美術館と文学館とで別々に管理するしかないんです。でも、データが一緒になると展覧会も企画しやすくなりますから、ぜひ実現したいですね。

野田さん:それで思い出しました。旧システムでは区の所蔵する作品データを美術館から見ることができなかったのですが、今回のリニューアルで情報を共有することができるようになりましたよ。

-あちこちで情報が共有されると、いろいろと可能性が広がってきそうですよね。逆に、ご不満な点は?

矢野さん:当時、開発中のシステムをインターネット経由で確認させていただいたんですが、あれをもう少し早い段階から行いたかったですね。使ってみて初めて分かることって、少なくないですから。

-弊社の段取りの問題ですね。申し訳ありませんでした。

矢野さん:いえ、「欲を言えば」という程度の話ですから。あと、土曜日曜や祝日に緊急対応していただけるようになるとありがたいかな。

-美術館は土日も開館されていますもんね。

矢野さん:使い始めの頃、休日にちょっとしたトラブルがありましてね。いっそ、当館と同じ休日設定になさっては?(笑)

-弊社の勤務体系からして見直さなければなりませんので、少し検討のお時間をください(笑)。

-では、これから目指すことについてお聞かせください。

矢野さん:まずはデータのさらなる整備ですね。当館は約1万5千点の収蔵作品がありますが、実はその半分以上が分館にあるんです。以前のシステムはわずかな端末でしか使えませんでしたから、分館の作品データはExcelで個別に管理していたんですよ。

-その体制では、データの管理ルールを統一するのも大変ですね。

矢野さん:仰る通りです。表記方法も異なったりしますから、まずはこのあたりの整備をもっと進めないと。

-それは大変な作業になりそうですね。

野田さん:「みんなのデータベース」として少しずつ充実させていくことが大切ですからね。誰がどこにいても使えるという点では、美術館内Wikipediaに近い考え方だと思いますよ。

-データは館の皆さん全員のものですもんね。

野田さん:それに、20年後30年後の職員のためのものでもありますから。

矢野さん:ひとつの作品データでも、違う役割の人が見ることで、精度を上げていくことができますよね。それから、デジタルだけじゃなくて、紙との併存も考えたいですね。

-ほう? 紙もまだお使いなんですか?

野田さん:ええ。データベースシステムは、ひたすら蓄積する役割。紙は、簡単に書き込んだりする役割ですね。

矢野さん:異なる役割のツールが組み合わさって、ベストの環境ができるのだと思いますよ。 

-なるほど。いや、本日はヒントをたくさんいただきました。今後の参考にさせていただきます。お忙しいところ本当にありがとうございました。

<取材年月:2011年9月>

Museum Profile
世田谷美術館 緑豊かな砧公園の一角に、静かに佇む美術館。東京都内とは思えないほど恵まれた自然環境の中で、さまざまな分野の展覧会や催し物、講座などで芸術との出会いの場を提供しています。3つの分館と充実した作品を所蔵する一方、キッズイベントや地元小中学生向けの鑑賞教室なども盛りだくさん。大人から子供まで、自然と芸術に触れながら1日ゆっくりと過ごすことができるので、いつも人の波が絶えない都会のオアシスです。

ホームページ : http://www.setagayaartmuseum.or.jp/index.html
〒157-0075 世田谷区砧公園1-2
TEL:03-3415-6011