ミュージアムインタビュー

vol.165取材年月:2020年9月女子美術大学美術館

コレクション情報の公開以外にも、さまざまな利点が。
クラウド型システムを選んでよかったと思っています。
学芸員  藤井 裕子 さん

-着任されてすぐ、I.B.MUSEUM SaaSをご導入いただきましたね。まずはきっかけからお話いただけますか?

藤井さん:私が着任する前の2009年に、当館は鐘紡繊維美術館が所有していた染織コレクションを受け入れました。芸術的にも学術的にも価値が高く、教育的な活用を目指したいということで、2010年には、これまでの調査内容を文化遺産のポータルサイトで公開することになりました。

-公開はすでに達成していたわけですよね。

藤井さん:そうなのですが、本当に素晴らしいコレクションですので、もっともっとたくさんの人に見てもらいたいという思いがありました。できれば、先生方や学生たちが大学のホームページでサッと見つけられる環境を提供したいですし、調査も継続中ですので短時間で登録できて、自分たちでメンテナンスできるものがいいな…と。

-コレクションへの想いが伝わってきますね。

藤井さん:仰る通り、個人的な想いで恐縮なのですが、このコレクションは学生時代からの憧れでして。また、現在の当館のように日本の染織が江戸時代の前期、中期、後期と揃っている例は、おそらく全国的にも珍しいと思います。なのに、多くの人がご存じないなんて、悲し過ぎますよね。

-なるほど。でも、そこまで想いが詰まっていると、ご検討も大変だったのでは?

藤井さん:3社に来ていただきました。全員が同じやり方で仕事ができるシステム、自分たちで常日頃からデータを増やしていくことができるシステムという基準で検討したのですが、すべて満たしているのは御社だけでしたので。

-ありがとうございます。

藤井さん:あと、I.B.MUSEUMを導入しておられる館に様子を聞いたのですが、とても反応がよかったのも安心材料でした。自信を持って上司に諮ることができました。

-ありがたいお話です。これは弊社も責任重大、なのですが…実は、ご導入の際にとんでもない失態を演じてしまいました。

 


-それほどの期待をお寄せていただいたというのに、実はデータ移行の際にご迷惑をおかけしました。あの時は本当に申し訳ありませんでした。

藤井さん:いえいえ、迷惑と言うより不安になったのは確かですね。何しろ私たちも分からないことだらけでしたから、どうデータをお渡ししていくべきなのかについて何度も細かくメールでやり取りをさせていただきました。

-I.B.MUSEUM SaaSはすでに約330館がご利用ですが、新たに導入される館のすべてが最初はご不安をお感じなんですよね。このあたりの認識の甘さは、弊社の課題でもあります。

藤井さん:でも、ヘッダのサイズなど細かい部分まで相談に乗ってくださいましたし、丁寧に対応していただけましたよ。一時期、ご担当の方との連絡が付きにくくなったりもしましたが、データをお渡しするのが遅れたこともありますし、公開までのスケジュールもありましたから。

-本当に恐縮です。今日、こうしてコレクションに対する思いをお聞きいたしますに、改めて当時の対応のまずさを痛感しました。

藤井さん:いまは問題ありませんので、どうぞご心配なく。今もこうして手分けしながら出品歴を入力しているところです。

-もう出品歴にまで着手しておられるのですね。ご不便はありませんか? 自動的に転記される機能などもお使いいただいていますでしょうか。

藤井さん:自動的に転記? ひとつひとつ入力していますが…。

-出品歴は、展示や貸出の情報を先に登録して対象作品を紐付けておけば、展示・貸出の履歴情報が作品情報に自動で転記されるんです。もしかして、弊社の説明不足では…。

藤井さん:いえ、きちんとご説明いただいたと思います。導入直後は、直近で必要がなさそうな機能は「慣れてきた頃に使うかも」という感覚で、お聞きしても実感が湧かなかったのかも。

-なるほど、弊社が杓子定規でしたね。ご利用のフェーズに合ったサポートを考えていかないと…(メモ)。

藤井さん:そのつどお越しいただくのはあまりにも申し訳ないのですが、新型コロナウイルスの影響で、最近はWEB会議も普通になりましたからね。その意味でも、クラウド型のシステムにしておいて本当によかったと思っています。

-と仰いますと?

藤井さん:当館の場合、在宅で仕事をする際にデータの持ち帰るのは原則として禁止されているのですが、自宅からアクセスしてテキストデータのアップや一部データのメンテナンスは可能なんです。リモートワークが多かった時期は本当に助かりました。

-なるほど。そう言えば、ご自宅からのお問い合わせはいくつかいただきました。

藤井さん:あと、他館の方からの貸出の相談もスムーズになりました。お問い合わせいただいた際、口頭でお聞きする名称が曖昧だったり、同じ名称だったりして、すぐに特定できない場合があるんです。最近は、公開されているデータをご覧になってご連絡いただくことが多く、お互いに同じ画面を見ているので、判断ミスも減りますし、急ぎのご相談にも対応できるようになったのが、とてもありがたいです。

-想定外のメリットといったところでしょうか。

藤井さん:仰る通りですね。「もっと知ってもらいたい」という一心で導入したデータベースが、これほどさまざまな場面で役立つことになるとは、当初は思ってもみませんでした。

-かなり使いこなしていただいているようで、安心しました。

 


-さて、「新しい日常」では、インターネットの活用がより重要になると思います。各館、SNSを中心に多様な取り組みを始めておられますが、そのあたりはいかがですか?

藤井さん:それでしたら、ぜひこちら(折り紙作品)をご覧いただきたいです。当館の作品をモチーフにした折り紙や塗り絵などの配布サービスを始めたんです。

-うわ~、これは凄い! よくできてますね〜、机の上に飾りたくなります。

藤井さん:ありがとうございます。普通の折り紙は正方形が多いと思うんですが、プリンタで出力してすぐ使えるようなタテヨコ比で作りました。出力した折り紙がありますので、よろしければお持ちになりますか?

-ありがとうございます! 社内に飾ります。

藤井さん:SNSは、スタッフが頑張ってくれています。東京国立博物館のきもの展に当館の作品を貸し出したのですが、すごい反響で。ほぼ同時期にイギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館への貸出もあって、そこでもSNSは大賑わいでした。

-コレクションの魅力が海を渡って世界の人々に伝わる…感無量ですね。

藤井さん:それだけでももちろん嬉しいのですが、まだまだこれからです。染織なら金糸が繊維に巻き付いている様子や織などの拡大写真があれば、細やかな技巧まで味わっていただけますよね。研究者の皆様にもご活用いただけると思うので、そのための準備を進めたいと思います。また、当館は染織だけではなくて、彫刻や絵画も所蔵していますから、その情報公開もしたいですし。やることがいっぱいです。なので、今後もよろしくお願いします。

-素晴らしいですね。弊社もそのお役に立てるよう頑張ります。今日はたくさん勉強させていただき、本当にありがとうございました。

Museum Profile
女子美術大学美術館 女子美術大学の付置機関として、「女子美アートミュージアム」(相模原キャンパス内)と「女子美ガレリアニケ」(杉並キャンパス内)の2施設の運営を担う美術館。大学ゆかりの作品に加え、美術品や工芸品、歴史資料なども所蔵しています。特に染織品は、2009年に旧カネボウコレクションの一部を所蔵したことで、古代から現代までの世界の染織品を網羅する国内最大級のコレクションが実現。相模原市とは「文化促進協定」を結ぶなど、存在感を増し続ける注目のミュージアムです。

ホームページ : http://www.joshibi.net/museum/index.html
〒252-8538
神奈川県相模原市南区麻溝台1900 女子美術大学 相模原キャンパス
女子美アートミュージアム
TEL:042-778-6801