ミュージアムインタビュー

vol.145取材年月:2019年5月サントリー美術館

データベースづくりは、収蔵品や館運営のあり方とも
改めて向き合う、有意義な時間になり得ます。
学芸員 久保 佐知恵 さん

-まず、着任された当時のお話からお聞かせください。

久保さん:私は、2013年9月に収蔵品管理の担当として着任しました。アーカイブを含めた収蔵品に関わる業務全般が私の担当なのですが、アーカイブの前任者はほかの仕事と掛け持ちしなければならない状況で、少し負担が大きかったようです。

-それをしっかりと改善されたのは、さすがですね。ご着任当時、データベースシステムはどんな状態でしたか?

久保さん:すでに年季が入っていました。東日本大震災で館内端末に影響が出たのですが、復旧にあたり時間も費用もかかって大変でした。

-ご苦労が偲ばれますね。日常的な運用面での問題はなかったのですか?

久保さん:画像とテキストが別のシステムで動いていたり、使用できるのが1台のPCだけだったりと、少し複雑な形態でしたね。システム自体はよくできていたので、どうにか頑張っていたのですが。

-作品データにアクセスするための待ち時間が長いと、お仕事がしづらいですね。

久保さん:仕方のないことですが、いま思えば大変でした。9人の学芸員が交代で使わなければならなかったので、データの更新もだんだん遅れ始めて。

-無理もないお話だと思います。多くの館はマンパワー不足に悩んでいますが、人員がしっかり確保されると今度は別のご苦労が出るのですから、ミュージアム運営は大変ですよね…。

 


-新システム導入のご検討を始められたきっかけは?

久保さん:当館が赤坂見附から六本木に移転しておよそ10年という節目のタイミングで、「アーカイブに力を入れるなら今しかない」という機運が盛り上がったんです。

-一昨年(2017年)のことですね。

久保さん:ええ。年間で5~6本の自主企画展を開催していたこともあり、それまではなかなか収蔵品のデータ整備まで手が回らずにいたので、「ぜひこの機会に」と。サントリーグループ内にあるシステム会社に相談したら、御社を勧められまして。

-本当ですか! 何と光栄な…。

久保さん:ほかの美術館さんにも訊いてみたのですが、同じお答えでしたから。

-うわあ…涙が出そうです(笑)

久保さん:ホントですよ(笑)。それで、御社のスタッフの方々に足をお運びいただくうちに、みんなで「この方たちなら大丈夫」と確信しました。

-いやあ…何と申しますか、ありがとうございます。スタッフの努力をご評価いただくのが一番嬉しいです。帰社したら全員に伝えます。

久保さん:お礼を申していたとお伝えください。インタビューにもちゃんと書いてくださいね(笑)。

-ありがとうございます…(涙)。とは言え、ご不満な点や、至らなかった点もあったかと…。

久保さん:いえ、ないです(笑)。それより、お人柄もさることながら、やはり専門知識が凄くて。たとえば、旧システムの機能の良い点を引き継ぎたいという希望をお伝えしているのに、その機能の具体像をうまく伝えられずに困ったことがあったのですが、先回りする形で理解してくださって。最初は驚きましたよ。

-弊社のスタッフはたくさんのミュージアムのお話に耳を傾け続けておりますので、似たご相談をどこかでお受けしていたのかもしれませんね。

久保さん:それが「経験」というものですよね。美術館の業務知識も最初から共有している状態なので、お話が早くて。たとえば、「巡回展の第1会場に貸し出す作品を第2会場には貸し出さない場合、システム上ではどんな機能でどう記録を残すべきなのか」とか。いきなりこんな議論に専門家として加わっていただけるのですから、重宝しないわけがないですよね(笑)。

-確かに、そこまで専門的な会話がすぐに成り立つというのは、ちょっと特殊かもしれませんね。頑張って皆さんのお話の理解に努めてきた甲斐があります。

 


-さて、新システムを導入して、目に見える効果はありましたか?

久保さん:それはもう。そもそも、とても基本的なことなのですが、各自のパソコンで自由に情報にアクセスできる環境というのはこんなに快適なのかと(笑)。収蔵庫が少し離れた場所にあるので、おかげさまで収蔵品に親しむ機会が増えました。

-都心のミュージアム特有のお悩みですよね。今回は、公開データベースも同時にリニューアルされましたが、こだわった点などはありますか?

久保さん:ホームページでの作品情報は美術館の顔と言えるくらい大切なので、運営や広報担当とも話し合って、まずイメージの共有に時間をかけました。

-「名品ギャラリー」とかコレクションデータベースとか、充実していますよね。弊社内でも話題になったんですよ。個人的には、特に「コレクションの扉」のページも素晴らしいと思いました。特に最初の記事が印象的でした。

久保さん:ありがとうございます。実は、あれ、私が書いたものなんですよ(笑)。「学芸員の顔が見えるページもあったほうがいいかな」ということで作ったページでして。

-そうなんですか! これは常々、社としても、個人としてもあちこちで力説していることなのですが、ミュージアムはもっと学芸員さんのチカラを活用すべきで…(釈迦に説法)。それにしても、ここまでの完成度ですと、ご準備が大変だったでしょう?

久保さん:大変でした(笑)。解説文の作成や英訳の依頼などだけではなく、文字表記の統一からチェックが必要ですしね。そのほか諸々、アルバイトの方々にもご協力頂きながら、準備だけでも1年くらいかかりましたから。

-苦労を厭わない館の皆様のご姿勢には、本当に頭が下がります。オンラインでの情報発信は、かなり重視しておられますよね。

久保さん:そうなんです。当館は常設展がなく、収蔵品をお見せする機会は多くはないですから、必然的にホームページの重要性が高くなるんです。リニューアル公開後も月2回のペースで画像を新しくしたり、情報を書き換えたりして、どんどん更新しています。公開当初と比べると、かなり変わったと思いますよ。

-常に進化していく雰囲気なので、きっと、閲覧者の皆さんのご期待も高いと思いますよ。情報の拡充は、今後も継続されるご予定ですか?

久保さん:もちろんです。つい先日もドイツの作家さんからお問い合わせをいただいたのですが、こうした反響も英文ページを用意したおかげですしね。ちなみに、11月から半年間の休館を予定しているのですが、この期間を利用して学芸員総出で解説文の書き換えを行うつもりなんですよ。

-凄いですね…。前向きと言うか、パワフルと言うか。

久保さん:新システムの導入には期待していたのですが、全体的に、最初に当館が描いていた通りに進んだと言ってよいと思います。データベースづくりは、収蔵品に向き合い、館運営に向き合い、そして自分の仕事とも向き合う、とても有意義な時間でもあったと思っているんですよ。

-大変勉強になります。弊社も、今後もご期待にお応えできるようにサポートしてまいります。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

 

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Museum Profile
サントリー美術館 オフィスやホテル、店舗などが集積する六本木・東京ミッドタウン内。「生活の中の美」という基本方針のもと、日本の美に対する感受性に守られ、育てられてきた名品を中心とした、魅力あふれる企画展を開催しています。絵画や陶磁、漆工や染織といった日本の古美術から東西のガラスまで、コレクションは充実のひとこと。茶室「玄鳥庵」や金沢の老舗・不室屋がプロデュースしたカフェなど、贅沢な時を過ごせる人気の美術館です。

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