ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

大阪府立弥生文化博物館による「館キャラ連携プロジェクト」、ミニレポートの後編です。前編では、マンガや解説シート、音声ガイドやパペットツアー、そして動画などでの展開をチェックしてきましたが、ここではさらにエンタテインメント性の高いキャラクターの活躍舞台をご紹介します。

 


【施策6】集めたくなる 遊びたくなる カード型教材「考古楽カード」


「小中学生が放課後に訪れる博物館」をイメージして制作されたのが、この「考古楽カード」です。弥生時代の文化にまつわる情報が、展示品のイラストとともに親しみやすく記載されています。イラストは学芸員の監修で精緻に仕上げられたもので、教材としての水準を楽々クリア。その上で、カードに「火」「水」「葉」といった「属性」を付けることで、いわゆるカードバトルが楽しめるわけです。そのうえ、54種類すべてを集めると、トランプやかるたとしても遊べるというスグレモノ。いや、凄いですね、この工夫。

これらのカードをもらうには、クイズが書かれた「カイトの挑戦状」を受け取り、回答しなければなりません。そして、クイズを解くカギは展示室内にあるので、必然的に展示を見に行くわけです。しかも、「カイトの挑戦状」は、イベントなど特別な日を除いて1回の来館で1枚しかもらえないので、カードをコンプリートするまでにはすっかり博物館通となっている…という仕組み。カードの仕様から運用方法まで、実によく考えられています。さらに「レアカード」がらみで、地域の他のミュージアムとも連携しているというのですから脱帽です。

考古楽カードの配布は平成2014年の夏から開始。秋ごろには小中学生の来館者が目に見えて増加し始めたそうです。個人利用の小中学生は2013年度には5,955人でしたが、2014年度には7,373人、2015年度には何と13,002人に。着実に成果が出ているようです。

【施策7】QRコードとカメラを使った体験コンテンツ「考古楽ハンター」

博物館に何が展示されているのかをしっかり伝えるために、デジタルデバイスを使ったゲームとして考案されたのが、「考古楽ハンター」です。44種類の「ミッションカード」に印刷されたQRコードを読み取ることで、「ハンターミッション」をゲット。ミッションに従って展示品を探し、撮影して受付に持っていくと、その場で答え合わせ。正解したら、カードホルダーを兼ねたスタンプシートにスタンプを授与。シートすべてにスタンプが揃うと、オリジナルのバッヂやレアカードを入手できる「考古楽マスター」になれる…という仕組みです。また、カードホルダーにカードを集めていくことで、弥生文化の「イラスト図鑑」も完成するんですよ。

ハンターミッションも1日にひとつしか受け取れないので、マスターになるには実際に何度も足を運ばなければなりません。展示に何度も触れているうちに、子どもたちは本当にスタッフ顔負けの知識を身に付けていくのだそうです。ご覧ください、晴れて「マスター」の称号を得た子どもたちの明るい笑顔を。途中で挫折することなく館に通い、見事にゲームを達成し、専門的な知識まで得る。これは強烈な「成功体験」になるのではないでしょうか。

【施策8】NFCタグを使った展示システム「考古楽ハンター Ver,D(デジタル)」

活動の中でたまったイラストや音声などを使って制作したゲーム性の高いWEBコンテンツに、NFCタグでアクセスできる仕組みが「考古楽ハンター Ver.D(デジタル)」です。WEBコンテンツは、スマホアプリよりローコストで作れるので、イラストを編集しやすいデジタルデータで納品してもらうという館の方針がさらに活きてきます。また、利用者側もアプリをダウンロードすることなく、NFCタグに端末をかざすだけでアクセスできるので、一石二鳥ですね。

デジタルデバイスを使った展示ガイドは、説明を加えたり、多言語で解説したりと、より深い理解を促すことを目的とするのが一般的です。ところが、考古楽カードのデジタル版とも言えるこちらのコンテンツは、「マップを見ながら館内を冒険し、クイズに挑み、カードを集めて、ハンターとしてレベルアップしながらマスター昇格を目指す」というゲーム性が前面に押し出されています。

ちなみに、公共施設のゲームコンテンツと言えば、難易度はゆるめなイメージですよね。ところが、ここまで紹介してきた各施策からもご想像いただけると思いますが、簡易的なWEBコンテンツでも一筋縄では行きません。1回の来館でマスター昇格はかなり厳しくなっています。しかし、体験開始時の「ハンター登録」で「ハンターナンバー」をゲットしていれば、後日また続きにチャレンジできます。また、webコンテンツなので獲得したカードなどは自宅からも見ることができます。このように、体験を一度きりのものにせず、子どもたちが気持ちよくリピーターになれるアイデアが徹底されているのです。

なお、調査によると、休館日である月曜日にもアクセスされているとか。ここまで来ると、もう相当の「博物館好き」なのでしょうね。学芸員の皆さんも、まるで大ヒットゲームの開発スタッフのような達成感をお感じなのではないでしょうか。

【施策9】クイズすごろく「弥生人が残したナゾ」

考古楽カードによって、小学生の来館者が増えました。でも、ここで満足するわけにはいかない…とばかりに、今度は連れ立ってやってきた子どもたちやご家族が一緒に遊べるものを用意することになりました。それがこちら、円形の大型すごろくです。

旧石器から古墳時代まで、各時代の「どうぐカード」を集めながら進むすごろくは、遊びながら知識も身につきそう。私も、写真を撮りながら、思わず盤上のルートをたどって気になるマス目を読み込んでしまいました。考えてみると、ここまでキャラクター性やゲーム性が強烈な印象を残す施策ばかりでしたが、そのド真ん中に「学びの楽しさ」があるのが共通の特徴。どんな工夫を施しても、博物館の原点を芯に据えてブレていない点が素晴らしいと思いました。

【施策10】館キャラでつながる「遺跡へ行こう&博物館へ行こう」

館キャラ連携プロジェクトの大トリを飾るのはこちら。カイトとリュウさんが全国の遺跡や博物館を訪ね、紹介する冊子です。
たとえば、静岡県の登呂遺跡の回では、カイトとリュウさんが登呂を訪れて水田が復元されている様子を見学したり、実際に栽培された赤米を試食したり。現地を満喫する前半が終わると、後半では登呂博物館のキャラクター「トロベー」が登場し、より詳しい解説を展開しています。


ここで注目したいのは、「ある博物館が、ほかの博物館を紹介する資料を制作する」という側面です。私は日常的に全国の博物館を訪問していますが、このような試みは初めて見ました。少なくとも、全国的にも極めて珍しいケースではないかと思います。

「他館を紹介するなら、その労力で自館をPRしたい」と考えるのは当然のこと。でも、情報の伝達ルートや好感度の醸成法が極めて複雑になった現代のコミュニケーション環境では、もしかしたら普通にPRするよりも大きな成果が自館に戻ってくるかもしれません。というのも、弥生文化に興味を持った来館者たちは、きっとほかの弥生文化の博物館にも行ってみたくなるはずだからです。

自館独力ではなく、お互いに来館者を誘導し合う協力体制。ふだんは別々に活動している博物館の集客努力が相乗効果として実を結び、ひいては全体の集客力、博物館の認知度を上げる。そんな可能性を感じずにはいられません。

「遺跡へ行こう&博物館へ行こう」は、平成28年度末で13冊。それぞれの博物館、遺跡に、13冊すべてが設置されているので、すべての館がポータルの役割を果たすことになります。佐賀県の吉野ヶ里遺跡を訪れた方が、滋賀県立安土城考古博物館の冊子を読んで興味を持つ…といったことが、きっとあちこちで実現していることでしょう。

成功のポイントは「情熱が生む相乗効果」

ご存じの通り、全国的・全分野的に「人手不足」に悩む日本。中でも博物館はトップクラスではないかと思います。高い目標を設定されたり、これまでになかった業務が加わったりと、厳しい状況に置かれているのに、人が足りなくて身動きが取れない。そんなシーンを、あちこちで目にします。

今回ご紹介した大阪府立弥生文化博物館も、実は余力のある館ではありません。では、なぜ、これほどの成果の上がる取り組みが実現したのでしょうか。今回の取材で、私なりに感じたことを3つのポイントに整理してみました。

まず、今回ご紹介したすべての施策に共通するのは、ひとつのアイデアが後へとつながりながら相乗効果を生んでいることです。たとえば、キャラクター同士の掛け合いで作った音声ガイドはパペットツアーでも効果を発揮しましたし、マンガやカードなどのイラストは、館内の解説パネルやデジタルコンテンツに展開されることで世界が広がりました。そもそも、キャラクター自体が後々の多様な「活躍シーン」を想定して動かしやすいように設定されたことは、最初にご紹介した通りです。流用・転用が多く成されていますが、それを感じさせなければ、ここまで人を惹きつけるものができます。少人数で大きな効果を狙う際のお手本のようにも感じます。

次に、キャラクターの活躍が、すべて博物館活動に直結していることです。キャラクターだけが独り歩きすることなく、どんな場所でどう使われようとも「館や展示資料の楽しさ・面白さを伝えるためにいる」点は、特筆すべきだと思います。中でも「子どもに伝える」ことは特に重視されており、何度も足を運びたくなる仕掛けが多数用意されているのですが、「かたくて難しい」印象で捉えられることが多い博物館が、「学校帰りにいつも立ち寄る遊び場」のような存在となっていることにも驚きました。子どもを集めるチカラは、集客の企画に頭をひねる各企業や自治体も羨むレベルなのではないかと感じました。

最後は、やはり学芸員の「熱」だと思います。たとえば、ホームページにアップされている報告書だけでも、現場がどんな温度感で運営されているのかがよくお分かりいただけるはずです。通常の事業報告に加え、今後の課題や改善点までオープンにするという姿勢からは、謙虚さ・真摯さとともにスタッフの皆さんご自身の本気ぶりが伝わってきます。各施策もビジュアルを交えて紹介されているので、ぜひご覧ください。

「博物館の未来は明るい」。

きっとそんな気持ちになれるはずです。

 


●大阪府立弥生文化博物館ホームページ
http://www.kanku-city.or.jp/yayoi/manga_blog/index.html
●館キャラ連携プロジェクト 3年間のまとめ
http://www.kanku-city.or.jp/yayoi/manga_blog/pdf/report.pdf