ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

横浜美術館で催されていた話題の企画展「村上隆のスーパーフラット・コレクション ―蕭白、魯山人からキーファーまで―」、お出かけになりましたか?
開催期間中は、展示だけでなくイベントや関連企画も盛りだくさんだったようです。
そのうちのひとつに村上氏ご本人のトークイベントがあったのですが、1回目・2回目は逃してしまったものの、3回目にやっと足を運ぶことができました。
もちろん、展示もじっくり鑑賞してきましたので、駆け足でご紹介しましょう。

ロビーに入ると、さっそく村上氏のコレクションのひとつであるアンゼルム・キーファー氏の作品が出迎えてくれます。
ここから先は、展示室も含めて作品単体での撮影はできないものの、展示風景なら撮影可ということで、2階へ上がってパチリと写してみました。

作品の大きさ、伝わりますでしょうか? 間近で見ると、ドイツ人であるキーファー氏が、ヨーロッパの戦争のトラウマと対峙していることが伝わってくるような凄みがあります。
最初の展示から、気が引き締まる思いでした。

いざ、2階にある最初の展示室へ。
ここでは主に日本を中心とした東洋の土器、陶芸、軸ものの絵画などが美しく展示されています。
古美術がお好きな方なら、きっとウットリと眺めてしまうはず。実際、長く足を止めて見入る方々の姿が目立ちました。
かく言う私も、大好きな仙厓義梵の作品を見つけることができて、思わず笑顔に。
魯山人コーナーには、人だかりができていましたよ。

それぞれの展示室では充実のコレクションが楽しめますが、何と廊下にも思わず駆け寄ってしまいそうな作品が!
写真は、もちろん奈良美智さんの作品です。
この村上氏のコレクション展では、かなりたくさんの奈良作品を見ることができますが、写真の小屋の中にもぎっしりと小品が並んでいます。

小屋の中からは、かすかにフォークソングが聞こえてきて、独特のあたたかみが滲み出るような雰囲気。ホッとひと息つけるようなコーナーになっていました。
ちなみに、ロビー側の廊下でも、立体作品や映像作品を楽しむことができます。
特に映像はどれも素晴らしい出来だったので、時間に余裕を持って出かけて大正解でした。

さて、次なる展示室へ突入です。
おわかりでしょうか、展示風景が写真へ納まりきりません。
床から天井まで怒涛の数の作品、作品、作品!

古美術と現代美術とがカオティックに陳列されていますが、照明の暗さもあってか、秘宝が隠された洞窟を行くような高揚感につつまれます。
鑑賞後のトークで館長の逢坂さんが仰っていましたが、今回の展覧会における作品の展示と管理はかなり大変なのだとか。本当にお疲れ様です。
でも、カタログの完成が展覧会の開始に間に合わなかったことは、逆に大きな話題になりましたよね。私自身、そのニュースを聞きつけるなり「どれだけ作品があるの!?」と色めき立ってしまいましたから。

お隣は、現代美術の展示室。
ダグ&マイク・スターンや李禹煥などの有名どころから、アウトサイダーアート、そして日本の若手作家まで、たっぷりと楽しむことができます。

後のトークで村上氏ご本人が話されていたことですが、お好きなのは古美術のほうで、現代美術の作品を買うのは一種の肝試しのようなものなのだそうです。
メンテナンスが難しかったり、値段が高かったりする作品に出会ったとき、「これ、俺、買える?」と半ば挑発的に自分へ問いかけながら、時に購入へ至るのだとか。
購入後は、そんなご自身を「買っちゃった、てへ」と自嘲することで、癒しを覚えるのだそうです。
活躍される方にストレスはつきもの。この展示室は、そんな村上氏の癒しの軌跡と言えるのかもしれませんね。

2階とロビーをつなぐ大階段にも、氏のコレクションの数々が。
奥の壁がカラフルに見えるのは、映像作品が投影されているからです。
いつもは「広間」という感じのこの空間も、今回はさしずめ「アートの森」といったところでしょうか。

さて、企画展の鑑賞を終えて、いざ村上氏のトークへ。
今回は、主に現代美術について、フランクに話されていました(前回・前々回は、古美術中心だったようです)。
いずれもおもしろい話ばかりで、たくさんメモをとりましたが、ひとつだけご紹介を。

諸事情により、日本国内での村上作品の個展は、先だって森美術館でおこなわれた五百羅漢図展が最後になるだろうとのこと。でも、「僕の作品はネットで見られますよ!」と至って明るく仰っていました。
お客さんの一人が、思わず「実物と写真とでは、大きさが違います…」と漏らしたところ、「プロジェクターで映せばいいんじゃないですか!? 大きく見えますよ!」と、これまたなんとも村上氏らしい返答に、場内は大爆笑でした。

さあ、トークも終わり、ショップでカタログの予約を済ませたところで、今度は美術館のほうのコレクション展へ。
…すごい! 金氏徹平、中平卓馬、川久保玲といった、現代の精鋭陣の作品がずらり!
ごめんなさい、正直なところ、企画展がメインだと思っていました。美術館コレクション展がこんなに「攻めの姿勢」とは…!
さすがは横浜美術館、毎回びっくりさせてくれます。これだから、ついつい足を運んでしまうんですよね。

閉館までたっぷり楽しんだ後で外へ出ると、きれいな夕焼けが。最近はすっかり日が長くなりましたね。
横浜美術館の皆様、ありがとうございました!