ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

「やりたいことはたくさんあるけれど、人手が足りなくてできない」

これはデジタルアーカイブに限らず、学芸業務のあらゆるシーンで直面する博物館の宿命的な悩み。最近の人手不足で、その深刻さにいっそう拍車がかかっているのはご存じの通りです。そこで本日は、そんなミュージアムならきっと大歓迎する助っ人、博物館のサポートを専門とする大学サークル「ミュゼさぽ」をご紹介。ご本人たちにお話をうかがいつつ、実際にサポートを受けたミュージアムのひとつ、さいたま市立漫画会館にも取材してきました。

ミュージアムを愛する学生たちのサークル

2023年に誕生した早稲田大学の博物館支援サークル「ミュゼさぽ」は、学生たちと学芸員が博物館の未来を共創することを目的に設立された博物館を支援するためのサークル。それだけで頼もしすぎますが、実際の活動も週1回のミーティング、SNSを活用した情報発信に加えて、博物館でイベント運営などのサポートにも従事。2期代表の山口晃生さんに具体的な活動実績を訊ねてみると、これが学生ボランティアとは思えないほど本格的なもので、本当に博物館運営の助けになっている姿が垣間見えました。

たとえば、2023年7月から2024年2月にかけての期間には、東京都台東区の横山大観記念館で約1000点もの作品データを文化遺産オンラインに登録する作業を担当。とにかく人手不足の世の中ですので、こうして実務を手伝ってもらえるのは本当に助かりますよね。同館との関わりはその後も継続しており、2024年10月から今年1月にかけては、デジタル化された作品情報を活用するイベントの支援にも携わったそうです。

そのほか、さいたま市立漫画会館では2024年9月から12月に開催された『宇宙兄弟展』のイベント運営支援を、2024年12月には東京国立博物館の『あそぼートーハク』ではイベント運営支援に加えてインタビュー記事作成まで担当。いずれも本気の活動で、きちんと成果を出しているのですから大したものです。

さいたま市立漫画会館でのイベント支援

では、ミュゼさぽの活躍の実際について、サポートを仰ぐ博物館側の視点で見ると…というわけで、上記の『宇宙兄弟展』でのエピソードについて、さいたま市立漫画会館の石田留美子さんにお話を伺いました。

『宇宙兄弟展』は、令和6年9月14日から12月1日まで開催されました。石田さんは令和4年10月に同館に着任後、展覧会の企画では『翔んで埼玉』を題材に扱うなど、地元の魅力を上手くいかした企画展やイベントを実現してきました。いずれも高い評価を集めたのですが、お悩みがひとつ。それは、せっかく好評を集めているのに、その勢いで次々とイベントを展開するには、学芸員がひとりという状況で人手がまったく足りないことです。そんな中、知り合いからミュゼさぽの存在を知らされ、サークルの立ち上げにあたり相談を受け、実際に漫画会館での活動として支援をお願いすることになったそうです。

実は、石田さんご自身も学生時代、弊社ホームページでもたびたびご紹介した北海道東川町にボランティアに赴いた経験がおありとか。そんな石田さんの目から見ると、ミュゼさぽが今後もサークルとしての活動を続けていくなら「博物館から正式に依頼を受けた」という実績づくりが欠かせないと感じたそうです。そこで、さいたま市立漫画会館では、活動にあたり協力依頼文書を発行し、支援業務を正式に依頼。実際に『宇宙兄弟展』のチラシを見ると、協力先の欄に「早稲田大学博物館支援サークル ミュゼさぽ」と名前が入っており、彼らの貢献がしっかりと刻まれています。

さて、実際のサポートで同館に集まった学生は総勢7名。人前で話すことが得意な人、コツコツと作業が続けられる人など個性も多様ということで、「適材適所」で担当することに。来館者の誘導や受付業務、会場の設営・撤収、ワークショップの指導補助、来館者数の集計や記録撮影など各自に役割を振り分けつつ、毎回、終了後にふりかえりの時間を設けることで、学生たちの活動のクオリティがどんどんアップ。これだけのことをボランティアで対応してくれるのですから、博物館としてはまさに大助かり。学生たちに感謝しきりの石田さんもその仕事ぶりを高く評価し、「他館の皆さんにも自信を持っておすすめできます」とのことでした。

今後の活躍に注目、ぜひ頼ってみては?

ミュゼさぽの活動は、今年に入っても順調そのもの。この2月には、国立ハンセン病資料館で開催された日本ミュージアム・マネージメント学会のエデュケータ研修会でもイベント運営をサポートしています。ミュゼさぽの山口さんによれば、「サークルとしては今後もさらに活動の幅を広げていきたいと考えています」とのこと。常にネコの手も借りたい状態の博物館と、博物館が大好きで積極的に関わりを持ちたいと思っている将来有望な学生たち。絵に描いたようなWin-Winの関係ですから、力を合わせて解決できる課題はまだまだいろいろとありそうですし、全国の大学にも波及して欲しいと願わずにはいられません。ともあれ、「ウチにもぜひ!」というミュージアム関係者は、ぜひミュゼさぽまでコンタクトを。

 


 

ミュゼさぽ お問い合わせ窓口 muse.sapo@gmail.com

さいたま市立漫画会館 https://www.city.saitama.lg.jp/004/005/002/003/001/