ミュージアムインタビュー

vol.100取材年月:2014年7月刈谷市美術館

I.B.MUSEUM SaaS の導入は、
館内業務を再確認する格好の機会にもなりました。
学芸員 神谷 剛生 さん

-昨年からI.B.MUSEUM SaaSをご利用いただいていますが、導入のきっかけは?

神谷さん:県の博物館協会の研修(注:インタビュアーが講師を務めました)ですね。あの時、会場でお話を拝聴したんです(笑)。

-あ、あの時に…。面と向かうとお恥ずかしいですね(笑)。

神谷さん:それ以前から、いろんな会社さんが営業には来られていました。私たちも「そろそろ導入しないと」とは思っていたのですが、なにぶん予算がね。

-けっこうハードルが高いですよね。

神谷さん:美術館単体では厳しいかなと二の足を踏んでいるうちに、作品点数がどんどん増えて。「もう待ったなし」というタイミングで、あの研修があったんです。

-クラウドならリーズナブルに導入できるということはご存じでした?

神谷さん:いいえ、あの時に初めて知りました。館独自のデータ体系も構築できて、インターネットで公開までできると聞いて、すぐに館のみんなに説明しました。

-予算の確保はスムーズでしたか?

神谷さん:研修が平成23年で翌年に予算要求、さらに翌年度には利用開始でしたから、順調だったのでしょうね。システム導入で得られる効果を「短縮できる時間」として計算したのですが、数値化すると効果が費用を上回るんです。

-(当時の文書を拝見しながら)これはすごい! 導入後の年次計画まで…これなら説得しやすいでしょうね。とても勉強になります。

-作品点数が増えたとのことですが、導入の直前は大変な状況だったのでは?

神谷さん:そうですね。当館は絵本やイラストレーションの企画展やコレクションが特徴のひとつなのですが、そうした収蔵作品が近年急増して、平成23年度に収蔵庫の棚も増設したんです。

-どうやって管理されていたんですか?

神谷さん:当時、収蔵作品の基本的なデータはExcelでリスト化し管理していました。でも、情報量に限界がありますから、額の管理、作品の経歴や解説など詳しい情報は別のファイルに記録していたんです。

-そうすると、情報が散らばりますね…。

神谷さん:そうなんですよ、過去のファイルを見つけることさえ大変になってしまって。FileMakerも使っていましたが、職員全員のパソコンで使えるわけではないですし、意図しないデータの上書きも大量に発生して。

-余計に混乱してしまいますね。

神谷さん:結局、「誰もが使いこなせるシステム」が必要という結論になりました。

-初期データの登録もご自身でなさったんですよね。Excelのデータが役に立ったのでしょうね。

神谷さん:それよりも、ちょうど開館30周年(昨年度)を記念して作成した新しい収蔵作品目録用のデータがまとめてあったので、これが役立ちました。

-と仰いますと?

神谷さん:この収蔵品目録を作成する時に何度も校正しましたし、「ここを直したのなら、あの作品のあの部分も修正を」と、目録に掲載しない情報まで気になりだして、結局データ全体を見直しはじめたんです。ちなみに、これがその時の収蔵品目録で、こっちがその10年前に作ったものです。

-すごいですね、これ! 厚さが倍…いや、3倍になってるじゃないですか! でも、印刷の過程でしっかり校正されたなら、公開データに使えるかな…。

神谷さん:ええ、十分活用できると思いますよ。今年度は、ホームページでのデータ公開の準備期間に充てていて、計画では来年度に公開することになっていますので、頑張りたいと思います。

-そうそう、先日は印刷のところでご不便をおかけしていたようで、申し訳ありませんでした。古いブラウザでは対応できない点がありまして。

神谷さん:別のブラウザを入れて解消したので大丈夫ですよ。

-お手数をおかけしました。ほかに不都合はありませんか?

神谷さん:そうですね…。検索の並べ替え条件が3つしか選べないのがちょっと不便かな?

-え? 詳しくお聞かせいただけますか?

神谷さん:たとえば、新聞や雑誌に複数年にまたがって連載された挿絵の原画など、同じシリーズでまとめたい作品があります。さまざな作品群の中で検索結果を表示する際に、分野、作家、制作年の順で並べ替えると、シリーズの中に別の作品が割り込んだりしますよね。

-なるほど、それは確かにご不便ですね。でも、条件を増やし過ぎると画面が複雑にならないかな…。

神谷さん:ご担当の方もそう仰ってました。そこで「ソート用ID」という項目を作って、シリーズ物がバラバラにならず、制作順、絵本原画であればページ順に並べ替えられるようにしています。

-それはすごい! ほかの館の皆様にもお知らせしなきゃ(メモ)。ほかには?

神谷さん:そう言えば、マニュアルに古い画面が載ったままのところがありますよ。

-え? あああ…(赤面)。機能を追加した部分ですね、これは至急対応します。申し訳ございません!

-では、最後に今後のことを。データ公開が目標になりますか?

神谷さん:そうですね。それと同時に、まだまだ並行しなければならないこともたくさんあります。

-と仰いますと?

神谷さん:たとえば、保管場所を登録して収蔵庫の整理に役立てたり、解説や関連資料の情報を充実させたり…。システムを導入したことで、作品管理の基盤や美術館の業務全体を改めて見直す機会になりました。

-意外な導入効果、ということでしょうか?

神谷さん:そうなりますね。たとえば、システム導入してまず行う項目設定のときって、あらかじめ用意されたテンプレートをもとに足したり引いたりするでしょう。 今だけではなくて、後のことも考えると「本当にこれでいいのか」と真剣に考える機会になりました。

-なるほど! それは素晴らしいですね。

神谷さん:保管場所をデータに登録する際には、収納棚や保存箱の番号など、作品や資料の「住所」を見直すことが必要です。そうすると、作品の収納方法のあり方とか、画像の保管のあり方とか、すべてにリンクしていきますよね。

-改善点が可視化されますね。

神谷さん:そうなんですよ。かなり細かい部分まで見直していきたいですね。そのきっかけが、あの研修だったわけです(笑)。

-恐縮です…(赤面)。

神谷さん:あと、御社が発行している「MUSEUM INTERVIEW」も刺激になりますね。たびたび話題になる図書の管理など。古い雑誌や二次資料の管理もシステムにまとめたいですね。

-バーコードの活用なども、改めて提案させてください。

神谷さん:ぜひお願いします。御社が足で集めたリアルな各館の活用状況を読んでいると「あるべき姿」が浮かんできたり、結構参考になるんですよ。

-いや、本当に恐縮です…(汗を拭きながら)。このインタビューは、今回で記念すべき100回目なんですよ。

神谷さん:おめでとうございます(笑)。そう言えば、I.B.MUSEUM SaaSのユーザ数も100館を越えたそうですね。いずれは集合研修なんかを開催されるとよいのでは?

-そうしたご要望は最近増えてきましたので、検討してみますね。本日はお忙しいところ本当にありがとうございました。

 

<取材年月:2014年7月>
Museum Profile
刈谷市美術館 1983年に開館した30年以上の歴史のある美術館。地元ゆかりの作家や近現代の日本の美術、絵本の原画など、充実したコレクションを誇ります。また、展示室は一般への貸出も行われていて、創作活動の身近な発表の場としても地域に定着。敷地内の茶室「佐喜知庵」では、季節に合わせた和菓子や企画展にちなんだお菓子が楽しめる呈茶も。さまざまな楽しみ方を提供してくれる地域の交流スポットとして、訪れる人が絶えない人気の美術館です。
ホームページ : http://www.city.kariya.lg.jp/museum/
〒448-0852 愛知県刈谷市住吉町4丁目5番地
TEL:0566-23-1636