ミュージアムインタビュー

vol.106取材年月:2015年1月独立行政法人 造幣局 造幣博物館

情報は、ただ置いておくだけでは使えない。
そんな意識を持って整理にあたっています。
元館長 高嶋 哲夫さん
専門官 植田 康弘さん

-まず、資料管理にシステムを導入された当時のことをお聞かせ願えますか?

高嶋さん:最初の導入は平成12年ごろですね。私が館長として着任したのは平成19年でしたが、その当時も当初のシステムが動いていましたよ。

-博物館システムの導入時期としては、かなり早いですね。

高嶋さん:ええ、大きなコンピュータがデンと陣取っていましたね。でも、利用状況はいまひとつといった感じでした。

-と仰いますと?

高嶋さん:当館は人事異動が多く、担当者の入れ替わりが激しい方でしてね。情熱を持ってIT化を推進していても、途中で離れざるを得なくなったり。

-なるほど。やむを得ないこととは思いますが、引き継ぎも大変ですよね。

高嶋さん:そうなんですよね。ひとまず帳簿単体での管理に戻ることもありますよ。

-そこまで戻るんですか!

高嶋さん:いえ、「戻る」と言いますか、システムを利用していても帳簿は並行して使いますから。

植田さん:当時の業務規程には、帳簿への記録は記載されていましたが、システムへの登録はルール化されていなかったんです。

-なるほど。博物館システムの黎明期ですものね。

植田さん:帳簿は必ず付けますから、むしろシステムへの登録が二重作業という認識になった時代ですからね。

-今では考えられないですよね。

植田さん:そうなんですよね。その後、私の代になって規程の整備を行いましたが、それでも長年使ってきた帳簿がありますから、帳簿のデータを全てシステムに移行するまでは、並行利用のスタイルは変わらないんですよ。

-なにしろ、歴史が長いですものね…。貨幣のデータはどう記録するんですか?

植田さん:その貨幣を受け入れる時、寸法や重量を測ります。硬貨などは小さいですから、ノギスと電子天秤を使って測定するんですよ。

-かなり精密に測るんでしょうね。

植田さん:小数点第4位までかな?

-第4位…(汗)。

植田さん:それも帳簿に記録するというのが、開館以来の事務の流れなんですよ。

高嶋さん:帳簿自体に歴史がありますからね。ご覧になりますか?

-(帳簿の実物を見て)うわ、これは凄い! 表紙からして古書籍みたいじゃないですか。

高嶋さん:けっこう重みがあるでしょう?

-と言いますか、ここまで来ると帳簿自体が博物館資料ですよ。でも、この中から資料を探すのは大変でしょう?

高嶋さん:そうですね、探す手がかりが目次だけですし。

-データベースシステムの検索機能を使えば簡単なのですが、データが網羅されていないとヒットしませんから、まずは登録をどう進めるかですね。

高嶋さん:そうなんです。検索が効力を発揮するまでの道のりを考えると、遠く感じてしまいますね。

-人海戦術しか…。

高嶋さん:そうも言えないんですよ。当館は企業博物館ですから、人数にも限りがありまして。

植田さん:それでも、以前に比べればかなり進みましたよ。高嶋さんが専任になられてからは特に。

高嶋さん:まさしく「これからが正念場」というところですけどね。

-大変だと思いますが、できる限りサポートしますので、ぜひ頑張ってください。

-さて、登録は「まだまだ」とのことですが、それでもI.B.MUSEUM SaaSのご利用を開始された段階で、かなりのデータ量でがありましたよね。

高嶋さん:そうですね。重要な資料の最低限の情報は、ひとつ前のシステムの段階で登録してはいましたから。

-システムのご利用感はいかがですか?

高嶋さん:たとえば「動物がデザインされた硬貨」というキーワードで抽出して、その情報をもとに特別展を開催する…といった使い方はできるようになりました。

-え、もうそんなレベルに達しているんですか! 登録時にデータの活用シーンを想定しておかないとできないですよね?

高嶋さん:確かに。「ただ情報を登録するだけでは使い物にはならない」「どんな情報をどのように入れておけば後から使いやすいか」という点は、あらかじめ考えました。

植田さん:高嶋さんのように、博物館の仕事全体を理解した人がデータ整備にあたってくれるからこそ…ですね。

-入力専門のスタッフを雇う場合も、理解した方ができるだけ細かく指導すると、データの質は上がりますからね。

高嶋さん:そうでしょうね。当館の場合、「貨幣中心で登録して、それを特別展のヒントにする」という使用法が、ひとつの流れになりつつあります。

-凄いスピード感ですが、そこまでご活用いただくと、システムに気になる点も出てきませんか?

高嶋さん:これは当館固有の事情かもしれませんが、「数値項目のマイナス」が登録できるようになるといいな、とは思いますね。

-はい? 詳しくお聞かせください。

高嶋さん:貨幣は、紀元前200~300年というのは、割とよくある世界なんです。中国の貨幣などは、最も古いものでは紀元前1600年くらいのものもありますし。

-紀元前1600年!

高嶋さん:レプリカですけどね。

植田さん:マイナスの数字が入らないと、年代順でのソートができないでしょう?

-なるほど! それはお困りでしょう。では、さっそく改善の検討を始めますね(メモ)。

高嶋さん:逆に、良い点の話ですが、一括登録の機能は使いやすいですね。

-ありがとうございます!(嬉)

高嶋さん:Excelで全体を見渡しながら修正した後に一括更新できますから、作業がはかどっていますよ。

-実は自慢の機能だったりしますので、とても嬉しいです。

-それにしても、データ整備が急速に進行している感じですね。こちらの資料はとても特殊ですから、ぜひ公開を進めていただいて、多くの人に知って欲しいですよね。

高嶋さん:ぜひそうありたいですね。造幣局という大きな組織の中なので、意思決定に慎重を期さなければならない部分もありますが、頑張りますよ。

-貨幣以外にも、公開なさりたい資料がおありなのでは?

植田さん:ええ、今は古文書の現代文訳を進めています。

-どういったものでしょう?

植田さん:明治初期、日本は近代化を目指して、欧米の技術を取り入れてきましたよね。そんな中で、「お雇い外国人」が造幣局にも来ておられたんです。貨幣の製造技術の先生役ですね。

-その当時の造幣局の文書資料…。貴重すぎますね。

高嶋さん:そのころ、造幣局では複式簿記を採り入れたのですが、それも彼らの指導の賜物なんですよ。たぶん、国内では最初だったんじゃないかな。

-現在の経理事務の基礎ですよね。ということは、貨幣にまつわる歴史から、日本の近代化の歴史まで俯瞰できるのでは。

高嶋さん:そうなると思います。現代文訳が完了したら、お雇い外国人をテーマに企画展ができるといいなと思っています。

-個人的にもぜひ見てみたいです。今日は勉強になる話をたくさんお聞かせいただきました。お忙しい中、本当にありがとうございました。

 

<取材年月:2015年1月>

Museum Profile
独立行政法人 造幣局 造幣博物館 大阪の造幣局の中にある博物館。明治44年に火力発電所として建てられたというレンガ造りの建物が、昭和44年に博物館へと生まれ変わりました。ガラスにはめ込んだ貨幣をLEDで照らすという最新の展示手法が印象的。日本の古い貨幣だけでなく、各国のさまざまな貨幣も展示されています。天秤、ガス灯、それに勲章やオリンピックのメダルなど、日本の発展に寄り添うような展示で知的好奇心を刺激してくれる、一度は訪れたい博物館です。
ホームページ : http://www.mint.go.jp/enjoy/plant-osaka/plant_museum.html
〒530-0043 大阪市北区天満1-1-79
TEL:06-6351-8509