ミュージアムインタビュー

vol.115取材年月:2016年3月埼玉県立近代美術館

一部の作品情報でもいいので、まずは情報公開を。
検索にヒットさせると、多様なメリットが生まれますよ。
主任学芸員 渋谷 拓 さん

-弊社とは、かなり長くお付き合いいただいていますよね。いつもありがとうございます。

渋谷さん:こちらこそ。先輩の学芸員に聞いたところでは、1993年頃からお世話になっているようですね。私が着任した2008年は、スケルトンのiMacを使っていましたよ。

-1993年と言えば弊社が創業間もない頃ですね、本当にありがとうございます。最近、Mac主体のシステムから、I.B.MUSEUM SaaS に移行されましたね。

渋谷さん:ええ。前のシステムはハードウェアに依存する形でしたので、パソコンの環境を替える予算を用意し続けるのは、やはり大変で。

-当時のシステムの使い勝手はいかがでしたか?

渋谷さん:時代が進んで業務が変化するにつれて、自由度が低くなっていたように感じましたね。当館向けにカスタマイズしていただいてはいたのですが、やはり古くなっていたというか。

-具体的にはどんなところでしょう?

渋谷さん:たとえば、アクセント記号が入らないといった文字形式上の制限とか。ハードの挙動も不安定になって、マメにセーブしながらおっかなびっくり使うような感じでした。

-いろいろ大変だったのですね…申し訳ないです。

渋谷さん:いえ、老朽化はしょうがないですよ。今回は、タイミングも良かったですから、すんなり移行できたと思います。

-大規模な修繕があって休館なさっていたんですよね。

渋谷さん:ええ、平成25、26年度のそれぞれ下半期に休館していました。この修繕を機会にデータベースのリニューアルを実施することができました。

-本当に良いタイミングだったのですね。

-旧システムからのデータ移行作業では、作品情報の公開まで一気に進められましたよね。社内でも「さすがに早いよね〜」と話題になったんですよ。

渋谷さん:ありがとうございます(笑)。今回のリニューアルでは、2つのテーマを掲げていましてね。ひとつは老朽化への対応ですが、もうひとつが情報公開だったんです。

-でも、データベースの公開は、データ内容の精査や著作権の確認など事前の作業負担が大きすぎて、大半の館では「進めたくても進まない」のが現状だったりします。何か秘訣があるのでしょうか?

渋谷さん:「100%の状態で公開する必要はない」ということでしょうか。自治体が公開する情報である以上は精度の高さは必須ですから、ならば最初は量を減らす方向で

-やっぱり!実際に公開まで漕ぎ着けた館の多くが、点数や情報量を絞っておられるんですよ。

渋谷さん:そこからスタートするのが現実的ですよね。たとえば画像なんかも、権利関係で不安が残る場合は「No Image」でも構わないですし。まずは「検索すると引っかかる」状態にすることが大事だと思います。

-お聞きした話では、データ移行は主に渋谷さんがなさったとか。

渋谷さん:項目づくりの段階では、御社のご担当さんに手伝っていただきましたけどね。テキストデータは一括登録機能を使いました。移行した後のデータのチェックや改めての表記の統一は、学芸部総出の作業になりました。画像は、「これはぜひご覧いただきたいな」というものから順に登録しています。

-いきなり使いこなしておられますねえ。

渋谷さん:いえいえ、まだポテンシャルのほんの一部しか活用できていないですよ。

-でも、一括登録は少し専門的になりますので、若干ハードルも高めかと思いますが。

渋谷さん:カタログデータ的な部分だけですからね。履歴や状態についてのデータはこれからです。年報を遡って昔の履歴まで登録したいんですが、なかなか手が回らなくて。

-それは仕方がないところですよね。業務の流れを一気に全部変えてしまうことは、かえって新たな問題を発生させることもありますから。

渋谷さん:そうですね、慌てずに進めていきますよ。

-新システムへのご感想はありますか?

渋谷さん:そうですね、「汎用的に作られているな」というのが率直な感想かな?

-具体的には、どんなところが?

渋谷さん:たとえば、旧システムに搭載されていた出品リスト出力機能は、新システムではいったんExcelに出力してから編集することになりますよね。やればできるのですが、習熟している暇がないというのが現状ですね。

-なるほど。ご苦労をおかけいたします…。

渋谷さん:いえいえ、「慣れ」ですから。前のものは当館専用だったのですから、当然です。その分、利点がたくさんありますし。

-恐縮です。ほかに気になる点は?

渋谷さん:ひとつ、お聞きしたいことがあります。データベースは収蔵作品を対象に作りましたが、特別展を管理するための機能もあるんですかね?

-はい、他館からの借用作品なども登録できるようになっていますよ。

渋谷さん:それは使いこなさないといけないですね。

-ご利用中の館では、入力項目数を少し減らして、Excelで一括登録されるケースが多いようですね。

渋谷さん:なるほど、さっそく調べてみます。それから、データの項目についての質問もあるのですが、よろしいですか?

-はい、もちろん。

渋谷さん:制作年の項目なのですが、数値を入れるようになっていますよね。正確に判明していないものなどは、特に公開する時は「00年ごろ」と表示したいのですが。

-数値で入れる項目のほかに、「制作年公開用」といった文字列で自由に入力する項目を作れますから、それを公開項目にすればよろしいかと。

渋谷さん:なるほど、公開用のものを別に作るんですね。

-ええ。でも、今のご様子だと、そのデータを見直して新たに登録するのは大変そうですね。

渋谷さん:休館明けは何かと忙しかったので、落ち着いたらいろいろと試してみます。

-ぜひ。渋谷さんなら、たぶんすぐに習熟されると思いますよ。

-さて、ひと通りデータを整えて公開まで実現されたわけですが、何か目に見える効果はありましたでしょうか?

渋谷さん:まず、問い合わせへの対応は格段にスムーズになりましたね。

-お手元で検索して調べてからの問い合わせは、ご質問の内容が具体的になりますもんね。

渋谷さん:その通りです。それから、データベースを検索してからの写真利用のお申し込みも多少出てきました。

-それは嬉しいですね!

渋谷さん:そうなんですよ。今までは代表的な作品に集中していたのですが、それ以外の作品へのご依頼も増えてきて。

-今まで知られていない作品を知ってもらえるのは、素晴らしいことですね。

渋谷さん:本当にそう思います。ですから、今後は作品以外のデータも公開しようと思っているんですよ。

-たとえば?

渋谷さん:作家を理解するための参考資料、具体的には作家の遺品とか、手紙とか。スケッチなんかもそうですね。

-それなら、「この作品に関連する資料」という発信法も可能になりましたので、ぜひそちらを。

渋谷さん:それはいいですね。これから頑張っていきますよ。

-期待しております。本日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

Museum Profile
埼玉県立近代美術館 豊かな緑に誘われて散策を楽しむ人の姿が絶えない北浦和公園内、周囲の風景に映えるモダンな建物が印象的な美術館です。モネ、シャガール、ピカソなどの海外の巨匠から日本の現代作家まで、優れた美術作品を多数展示。また、実際に座ることもできるさまざまな椅子の展示も有名で、「椅子の美術館」とも呼ばれているとか。子ども向けワークショップやコンサートなども定期的に開かれるなど、多くの人々に親しまれている人気館です。
ホームページ : http://www.pref.spec.ed.jp/momas/
〒330-0061 埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
TEL:048-824-0111