ミュージアムインタビュー

vol.117取材年月:2016年5月福井市立郷土歴史博物館

学校の先生、ボランティアの皆さん、そして学芸員。
予算がなくても、できることはたくさんあると思います。
学芸員 松村 知也 さん

-リリースしたばかりの「ポケット学芸員」を、早速フルにご活用いただいていますね。ありがとうございます。まずはシステム導入の経緯からお聞かせください。

松村さん:当館は昭和28年に開館し、紙ベースの台帳で運用してきました。平成16年3月のリニューアル時に、資料のデジタル化を推進したんです。

-システムを導入したのも、その時期ですか?

松村さん:ええ。その時は御社にも提案いただいたのですが、別の会社さんにお願いしました。私は担当していなかったので、いきさつはよく分からないんですけどね。

-昨年、そのシステムをI.B.MUSEUM SaaS に切り替えていただきましたが、どんな理由だったんでしょう?

松村さん:データも蓄積できて順調に運用できていたんですが、サーバの老朽化で買い替えなければならなくなって、予算的に無理と判断したんです。途中、一度は入れ替えることができたのですが、二度目はさすがに厳しくて。

-館のリニューアルなどで一時的に予算がついても、老朽化への対応が難しくなるというのは、どちらも同じですね。移行はスムーズでしたか?

松村さん:問題はなかったですね。体験版の段階で、試しに研究図書のデータを投入して、「これならいける」という手ごたえも得ていましたし。

-体験版が安心材料になったなら、何よりです。でも、実際に運用を始めると、細かな問題が出てくるものですが…。

松村さん:強いて言えば、項目をもう少しじっくり考えればよかったかな、と。ブランクの項目も多いですが、I.B.MUSEUM SaaSは使いながらアレンジできるのが心強いですよね。落ち着いたら整備を進めようと思っています。

-その時はお手伝いいたしますので、ぜひお声かけくださいね。

-オーダーメイドのシステムからクラウドに移行される場合、旧システムのカスタマイズ部分を反映し切れなくなることがありますが、そのあたりはいかがですか?

松村さん:特に問題ないと思いますよ。旧システムも、機能をすべて使い切っていたわけではないですからね。帳票出力機能もあるにはあったんですが、現場ではWordなどで書類を作ることが多かったですし。

-となると、システムをよく使われる場面は?

松村さん:やはりデータ検索ですね。レファレンスの時には特に助かっています。

-たとえば、どんな場面でしょう?

松村さん:先祖が福井藩の藩士だったので調べたい…という問い合わせがあった時とか。人物にまつわるご質問は、割とよくいただくんですよ。

-なるほど。地域密着の歴史博物館ならではですね。

松村さん:調べてもはっきりわからないこともあるんですけどね。福井は空襲で焼け野原になって、さらに昭和23年に震度7の福井大地震に襲われていますので、古い資料は失われているケースもありますから。

-終戦の3年後に大地震ですか…。福井の方々は大変な試練を乗り越えられたんですね。昔のことを調べたい方が多いなら、資料データを公開されると喜ばれるのでは?

松村さん:確かにそうなのですが、今のデータは名称や寄贈者、寄託者、法量など、業務で使う最低限の情報しか網羅していないんです。一般の方がご覧になって分かるような解説や画像は少ないので、まずはそれを整備しないと…と思っています。

-なるほど。点数も多いでしょうから、全体を公開するとなると、きっと何年もかかるでしょうね。似たケースでは、少しずつ始める館も多いですよ。

松村さん:その方法も検討していますよ。データ自体は、年2~3回の自主企画の特別展で展示した資料からデータを整備し始めています。ホームページ上では、いろいろと取り組んでいますしね。

-拝見しました。なかなか充実していますよね。

松村さん:絶版となった図録のPDFなどをアップしたり。古いものだと昭和47年のものなんかもありますよ。

-いいアイデアですねえ。

松村さん:あとは、小中学生向けのコンテンツにも、かなり力を入れています。地図とか図表とか、作りこみが結構大変ですが、このあたりはデータベースを公開すれば連携できるのではないか…と、御社のご担当とも話していたんです。

-資料データを参照しながら読み進めていくようなイメージですよね。

松村さん:ええ。当館は学校の先生と年数回は意見交換の場を持っていますので、ご意見をいただきながら作りました。

-そうなんですか! それは素晴らしいですね!

松村さん:特に遠足シーズンなどには、効果的に博物館を使っていただいていますよ。当館を史跡巡りのスタートやゴールに設定して、事前学習やまとめ学習に利用する…といった感じで。

-なるほど、地域との交流が進みますね。コンテンツづくりそのものに教師の意見を取り入れる…と(メモ)。

松村さん:でも、近頃はカリキュラムが多くなったせいか、教室の外に出にくくなってきたようですね。だとすると、ますますデータの公開は重要になりますよね。教室から博物館を利用してもらえるように。

-仰る通りですね。博物館の資料データを地域学習の教材に使う事例も出ていますので、また詳しく紹介しますね。

-さて、ご利用を開始していただいた「ポケット学芸員」ですが、こちらは4か国語の音声ガイドを実現されていますね。翻訳やナレーションの制作費が嵩みそうですが、どう準備なさったのですか?

松村さん:あれ、実は以前に用意したものなんです。その時はサーバや端末の予算しかつかなくて、コンテンツづくりはボランティアの方々にご協力いただきました。

-え? あれを自力で、ですか! 4か国語ですよ?

松村さん:財団法人福井県国際交流協会でボランティアをされている外国人の方にお願いして、録音は市役所の広報部署の設備をお借りして。日本語の音声は、僭越ながら私たち学芸員が…(笑)。

-完全手づくりで、あのクオリティですか! でも、翻訳もボランティアの方なんですよね? プロとしての経験を積んだ方でないなら、専門用語の翻訳とか大変だったんでは?

松村さん:ええ、そこは気を遣いました。日本語原稿をポンと渡すのではなく、翻訳をお願いする方に実際にお会いして、特殊性をご理解いただいてから作業に入ってもらったり。

-予算がないなら、汗をかく…と。いや、恐れ入りました。

松村さん:当時はナレーションが「ちょっと早口だったかな」と思っていたのですが、「ポケット学芸員」は音声だけでなく文字も表示できますので、ちょうどよい感じになりました(笑)。

-お陰様で大きな反響をいただいておりまして。というわけで、帰りにもう一度、試していってもいいですか?(笑)

松村さん:もちろんです。隣の養浩館庭園でも使えますから、ゆっくりしていってくださいね。

-お庭、見事ですもんね! じっくりと楽しませていただきます。

松村さん:ぜひ(笑)。

-いや、今日は本当に勉強になりました。本日はお忙しいところありがとうございました。

 

<取材年月:2016年4月>
Museum Profile
福井市立郷土歴史博物館 東側に名勝 養浩館庭園、北側には福井城舎人門。福井の歴史スポットの中心と言ってよい好ロケーションの博物館です。福井藩主越前松平家の資料を中心に、藩や福井城の関係資料、古墳から出土した考古資料などが、復元模型やジオラマ、映像などとともに分かりやすく展示されています。館内には子ども向けのワークシートがあったり、甲冑の着付け体験ができたりと、楽しさがいっぱい。市民に歴史の楽しさを提供する人気のランドマークです。
ホームページ : http://www.history.museum.city.fukui.fukui.jp/
〒910-0004 福井県福井市宝永3丁目12-1
TEL:0776-21-0489