ミュージアムインタビュー

vol.13取材年月:2006年3月北海道立近代美術館

「整理する」のが目的ではない。 日々データを「蓄積し活用する」と考えないと・・・。 使い手の意識によって、仕様は変わり、運用が変わるのです。学芸第三課長 寺嶋 弘道さん

-寺嶋さんの所属する学芸第三課というのは、新しく設置された部署だとお聞きしましたが。

寺嶋さん:そうなんです。学芸第一課が作品の収集保存と展示公開を、学芸第二課が教育事業を所管していて、いわば「モノ」と「ヒト」に即した仕事を行うのに対して、学芸第三課は美術や美術館に関する情報、つまり「データ」を扱う部署です。ちょうど、丸2年になります。

-具体的にはどんなお仕事を担当なさっているのですか?

寺嶋さん:ホームページの運用、情報誌の編集発行、メールマガジンの配信、写真資料の貸し出し、図書資料の収集と整理などですが、館のコレクション情報をより広く発信するという目的を遂行するために情報システムを完成させることが、第一のミッションですね。

-ということは、現状ではシステムが十分ではないということでしょうか?

寺嶋さん:システムそのものよりも、運用方法に問題があるということですね。ハードとソフト、情報内容、それから実際の使い方など、まずは現状把握から始めたんです。

-I.B.MUSEUMの導入から数年が経っていると思うのですが、使いこなしていただいておりますでしょうか?

寺嶋さん:正直なところ、すでに5000件近いデータが入っているのに、2年前の時点ではほとんど使われていないといった状況でした。データの更新作業はおろか、登録済みのデータの閲覧にも利用していなかったんです。

-それはまた、どうして? 新たに収集したコレクションの入力作業が追いつかない?

寺嶋さん:ええ、それもあります。でも、データの新規登録うんぬんよりも、いまあるデータのほうが問題でして。

-と仰いますと?

寺嶋さん:緊急雇用対策事業としてデータ入力も一緒に行ったんですが、現実として、あの分量の収蔵品データを完全な形でデータベース化するのはかなり大変だったようで・・・。原稿自体が多少の不備があった上に、入力作業と校正も不十分で。時間と要員が不足している中、手を尽くしてくださったんだとは思うんですが・・・。

-ということは、いまも紙の台帳をお使いになっているということですか?

寺嶋さん:ええ、どうしても併用せざるを得なくて。紙媒体に頼る習慣も簡単には切り替えられませんしね。しかも、I.B.MUSEUMを使える端末が、当初は1台しかなかったので、14人の学芸員全員のパソコンからサーバーにアクセスできるようにしたんですが、データの精度の問題は依然として残っていますね。

-では、まだあまりお役に立っていないんですね・・・申し訳ないです。

寺嶋さん:いやいや、これからが勝負です。システムの使い手は誰かということははっきりとしたので、後は使いながら修正していくことになりますね。

-改革の進み具合はいかがですか?

寺嶋さん:やるべきことが山積していて、片手間にこなせる作業量ではないというのが実情です。そもそもシステム全体は道立美術館・芸術館6館に導入され共同利用を念頭に構築されたものなんです。最終的には各館のデータベースの情報を一般市民に公開して利用してもらうことが目的なので、先を見ると道のりはかなり遠大ですね。
 

-中でも、寺嶋さんからご覧になって、最も改善したい点は?

寺嶋さん:当面の課題はやはりデータベースの信頼性を高め、日常的な利用を促進することですね。展示企画や調査研究、収集や貸出事務など、日常業務の過程で得られた新たな情報を日々蓄積していってこそ、本当のデータベースとなり得ると思いますし。

-システム導入時は、常に更新を続けるデータベースと言うよりも、美術事典のような感覚だったんですね。

寺嶋さん:そうですね、現場では「台帳代わりの所蔵品情報が入ったパソコンが設置された」というような理解だったようです。当時の状況では無理もないことなのですが、情報を「活用する」と言うよりも「整理する」という感覚が強かったので、いま見ると仕様的にも不完全な部分があるんです。

-現場の学芸業務に即していないということですか?

寺嶋さん:はい。システム内で使う項目や用語が館内のルールと微妙に統一されていなかったり、あるいは必要とする文書への出力フォーマットが整えられていなかったりするんですよね。こういった部分も、積極的に活用し切れない原因になっていると思います。

-それは使いにくいですよね・・・当社も反省しなければ。

寺嶋さん:導入の段階で、どうすれば業務の省力化や効率化に役立つかを検討する必要があったんだと思います。単に後追い行程が一つ増えただけでは手間ばかりが増えるだけで、それなら紙媒体の書類を利用すればいいと誰もが思ってしまいますからね。

-やはり最初の仕様決定は重要ですよね。

-お仕事では「理想と現実」を常にご覧になっているわけですよね? 改革を進めるにあたって注意しておられることは?。

寺嶋さん:一般的に、情報管理システムは「効率化」を前提としていると思うのですが、うまく作れば当初の目的よりも広い範囲に好影響を与えるし、そうでなければ逆に非効率を生んでしまう。いま、本当に痛感しています。

-仰ることはよくわかります。館にはそれぞれ事情がありますから、仕様検討の時点でわかっていても「そうするしかない」場合もあるんですよね。逆に、将来的な運用方法まで展望できる青写真を作れる場合もあるわけですし。

寺嶋さん:本当にそうですね。これから導入される館の方には、ぜひ「日常業務で利用する方法を考えるのが肝心ですよ」と伝えてください。

-はい、必ず伝えます。そもそも、近代美術館さんは、お手持ちの情報自体は充実しているわけですもんね。

寺嶋さん:ええ、データ化に苦しんでいるだけですからね。たとえば、ある作品について「引用論文を読みたい」という問い合わせをいただいたとしても、現状では対応が大変ですが、I.B.MUSEUMを日常的に使いこなせるようになれば、簡単にお応えできますし。

-困難も伴いそうですが、実現できるといいですね。

寺嶋さん:時間はかかると思いますが、実現に向けて進むだけです。毎日少しずつ積み重ねていけば、きっとかなうと思います。

-当社も、これまで以上にバックアップさせていただきます。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

<取材年月:2006年3月>

Museum Profile
北海道立近代美術館 札幌の中心部に位置する、緑豊かな庭に囲まれた美術館です。オープンしてまもなく30年経つとは思えないモダンな外観が目を引きます。道内文化施設の中心的存在だけあって、コレクションは絵画からガラス工芸、野外展示作品など多岐に渡ります。夏休みには公園のような前庭で子供向けのミュージアム・スクールが開かれ、移動美術館やナイトツアーなど、リピーターになりたくなるイベントで人気の美術館です。

ホームページ : http://www.aurora-net.or.jp/art/dokinbi/
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