ミュージアムインタビュー

vol.29取材年月:2006年12月北区飛鳥山博物館

人や道具が変わっても、情報のブレが出ないのがシステムの利点。 だからこそ、管理入力画面の設計をベーシックにすることを考えました。学芸員 久保埜 企美子さん

-今年、システムをリニューアルされましたよね。使い心地はいかがですか?

久保埜さん:それはもう、格段に使いやすくなりましたよ。

-逆に「前は使いにくかった」とも言えるわけですよね。その話は避けて通れませんから、最初の導入について、お話をお聞かせください。

久保埜さん:当館は平成10年の開館なんですが、システム構築の計画はその3年くらい前から進めていたんです。特に、資料管理と来館者向け端末についてなんですが。

-その頃、すでにいろいろな会社が博物館向けのシステムを作っていたと思いますが、弊社を選んでいただいた理由は?

久保埜さん:早稲田さんは、実績が豊富ですからね。それに、windows上で使えることも大きな理由でした。総合的に考えて、バランスよく作られている印象を持ったので、お願いすることにしたんです。

-ありがとうございます。でも、実際に導入してみると、いくつかの問題が生じた、ということですよね。

久保埜さん:それは、早稲田さんのせいじゃないんですけどね。当時使っていた資料自体にも問題があったんです。分類や番号の付け方がコンピュータの検索システムになじまないものだったりしましたから。

-当時のシステムは「キーワード検索」機能がなかったので、資料番号や分類はとても重要だったんですよね。

久保埜さん:そうなんです。検索機能はシステム使用の要のひとつですから、結果的に、使いづらい環境になってしまって。

-では、来館者向けの閲覧システムはどうでした?

久保埜さん:そちらは、固定のコンテンツを見せることが中心になってしまって。もう少し検索する方に満足してもらえるものにしたかったな、と思いましたね。

-今回のリニューアルは、そうした改善点の解決を目指して導入されたわけですね。では、詳しくお伺いしますね。

-検索の問題はI.B.MUSEUM自体のバージョンアップで対応したと思いますが、他にリニューアルのポイントはありますか?

久保埜さん:管理項目の設定ですね。当館は、考古・歴史・民俗・自然・図書・写真・浮世絵と、分野がかなり多岐にわたりますから、うまく統合できないだろうか、と。

-管理の項目は、分野によってかなり異なりますもんね。

久保埜さん:はい、最初はそう思っていたんですが、話し合ってみると、共通化できる項目が意外に多いことがわかったんです。言葉は違っても意味は同じ、とかね。

-それ、実はかなり重要なことなんですよね。項目をシンプル化できれば、管理の仕事自体をスムーズにできる、という…。

久保埜さん:そうなんです。例えば、考古と民俗では分野的にまったく異なるようですが、共通する情報も多かったので、項目数は可能な限り絞りながら、どちらも基本は「同じ入力画面」を使うことにしたんです。全体的に、操作画面には気を遣いましたね。

-それ、かなり大変なお仕事だったでしょう? 意見の集約は、実は多くの館で、システム導入時の課題になるんですよね…。

久保埜さん:その代わり、閲覧システムについては、「夢」を優先しちゃいましたけどね(笑)。最終的には時間と予算の制約で縮小してしまいましたが、いろんなアイデアを出しましたので、将来に向けてのイメージも具体化できましたよ。

-なるほど。それで、今回のリニューアルでは、どんなアイデアを採用されたんですか?

久保埜さん:例えば、閲覧端末に「飛鳥山セレクション」というコーナーを設けました。当館では、毎年スポット展示の際に収蔵品の詳細解説を作成しているんですが、これをうまく流用して、閲覧端末上で「特集」的に見られるようにしたんです。

-それは面白いですね。「情報公開」と聞くと、つい完璧なデータづくりを考えて身構えがちになるものですが、「できたものから発信する」ことができれば、そのほうが効率的なわけで。「辞書」ではなく「特集」風に見せるのは、アイデアの勝利ですよね。

久保埜さん:ありがとうございます。これからも充実させていきますよ。

-では、逆に、リニューアルでも解決し切れなかったことはありますか?

久保埜さん:そうですねえ。Webブラウザで使えるようになりましたから、より多くの職員に受け入れられたことはいいんですけど、タブやボタンが小さくなって、ちょっと見づらくなりました。それだけが残念かな?

-それ、実は大事なことですよね。使ってて気持ちのいい画面だと、仕事も快適になりますから。弊社の課題としておきますね。

久保埜さん:全体を考えれば、小さいことなんですけどね。

-え〜と、減点分は細かい画面デザインくらい、と……。(満を持して)では、第2世代のI.B.MUSEUM、100点満点で点数を付けると?

久保埜さん:う〜ん、75点くらいでしょうか。

-(あれ? 意外と低い?) 25点の減点部分は、先ほどの画面の話ですか?

久保埜さん:いえいえ、まだデータが入力し切れていませんからね。分野によっては、データ整備の遅れが目立ちますし。もっとI.B.MUSEUMに「ご飯」を食べさせていきたいというところなんですよ(笑)。

-なるほど、なるほど(データ入力が終わってから来たほうが良かったかな…)。

-最後に、今後の課題や抱負などをお聞かせいただけますか?

久保埜さん:管理側についてはかなり改善できましたので、閲覧側の充実が急務ですね。館を利用してくださる方が何かを調べたいと思った時、目的のデータまでスムーズにご案内することも、博物館のシステムの役割だと思いますので。

-最近は、利用者サービスに目を向ける館が増えていますね。久保埜さんは、システムの構築とリニューアルを経験されているわけですが、これから導入を検討される館の皆様に、何かアドバイスはありますか?

久保埜さん:当たり前の話になってしまうんですが、管理システムは、「導入すれば何かが完全に変わる」というものではありません。最も重要なのは「資料整理の継続性」ですから、長期的な方針をしっかり念頭に置いておくことが大事だと思いますよ。

-システムは便利ですが、データが入力されなければ意味がありませんもんね。

久保埜さん:ええ。人が変わっても、モノが変わっても、情報のブレが出ないのがシステムの利点ですから、管理入力画面はベーシックなものが良いと思いますね。

-どの世界でも基本が大切ということですね。本日はありがとうございました。

<取材年月:2006年12月>

 

Museum Profile
北区飛鳥山博物館 地域住民の憩いの場である飛鳥山公園の中にある博物館。紙の博物館、渋沢史料館と共に、飛鳥山3つの博物館として親しまれています。荒川の生態系から区内で出土した土器などの幅広い展示と、「夏休みわくわくミュージアム」にあわせて親子で楽しめる特別展示、冬の「来て!見て!さわって!むかしの道具」などの学校向け展示など、教育普及活動も活発。家族連れで気軽に訪れたり、散歩途中に立ち寄ったりという楽しみ方もでき、「博物館ってこんなに身近なもの」ということを再認識させてくれる博物館です。

ホームページ : http://www.city.kita.tokyo.jp/misc/history/museum/
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