ミュージアムインタビュー

vol.92取材年月:2013年6月川崎市岡本太郎美術館

システムは、日常業務で「使う」ことが求められる時代。
今後は、細かい使い勝手がさらに重要になると思います
学芸員 佐藤 玲子 さん
学芸員 片岡 香 さん

-今お使いいただいているI.B.MUSEUM SaaS が3世代目のシステムだとお聞きしました。

佐藤さん:そうですね。開館準備室時代に大手のところでオリジナルのシステムを作って、そのシステムがリース満了を迎えたのを機に全般的な見直しを行ったのが2代目で…。早いものですね。

-最初のシステムは15年ほど前だったんですよね。

佐藤さん:ええ。展覧会の準備に追われながら、システムを使ってデータを整備し続けるという作業を日常業務に組み込むのは、なかなか難しいものですね。

-まあ、本来はデータ整備の担当者がいて然るべきですしね…。

片岡さん:現在のデジタル化の業務は、紙からデジタルデータへの整備を進めること以上に日常業務でどのように「使う」かが求められていますよね。

-そうですね。これからは、細かい使い勝手がより重要になりそうです。

佐藤さん:そうなんです。仕事中にシステムを使う時は、急を要していることも結構ありますので、「パッと触ってサッと出てくる」ものじゃないと。そうでなければ、結局は紙やExcelに逆戻りということもあるでしょうね。

-3代目となる今のシステムが、そうしたご要望にお応えしているとよいのですが。

-「細かい使い勝手」は、弊社が最も重視している点でもあります。現在も、検索結果のリストの扱いを改善しているところでして…。

佐藤さん:(機能紹介の資料をご覧になりながら)なるほど、確かにこれはよさそうですね。リスト同士の統合ができたら、もっと使いやすくなると思いますけど。

-それ、弊社担当にご指摘くださっていますよね。ちなみに、どんなシーンでの使用を想定されているのですか?

片岡さん:展覧会を企画する時は、絶対に使いますね。まず油彩の候補リストを作って、その後に立体作品、ドローイング…と別々にリストを作って、それを一本にまとめる、と。そんな流れになると思います。

佐藤さん:今はシステム上でリストを一本化できないので、いったんExcelに出力して、Excel上で編集しているんですよ。修正が必要になった時、Excel上のデータはすぐ修正できますけど、システム側の更新は後回しになりがちで。

片岡さん:リストを統合できないのでExcelの作業とシステム側の作業をそれぞれで進めなくてはならないという状況ですね。最初から最後までシステムで仕事ができるようになったら、利用シーンはグッと広がると思うのですが。

-ほう? たとえば?

片岡さん:作品リストやキャプション、解説の原稿の出力とか、さらにファイルメーカーで管理しているようなデータまで蓄積していければ…。せっかく「すべてのデータを登録している」わけですから、目いっぱい使えるようになって欲しいですね。

-なるほど。ちょっとした使い勝手が、最後には大きな差になるんですね。他にもありましたら、ぜひ教えてください。

佐藤さん:パッケージ版のI.B.MUSEUMは、画像つきのExcelリストが出力できますよね。あれがSaaSにも是非つけて頂けるといいなあ、と。でも、技術的に難しいんですってね。

片岡さん:岡本の作品は、作品名が同じものも多いですから、文字だけだと判別しにくくて。

-インターネット経由ということで、少し課題があるようです。民俗分野の方などからもリクエストをいただいていますので、何とか実現を目指していきますね。

佐藤さん:ぜひお願いします。あとは、詳細情報の印刷機能の強化かな。

-ほう? どんな機能でしょう?

佐藤さん:あの画面を、カードのように使いたいんです。でも、ブランクの項目も含めて、すべての項目が出力されますよね。出力したい項目を指定することができたらありがたいな、と。

-あ、それもいま検討していますよ。「ブランク項目を除いて出力する」だけなら、実現は早いようなんですけど。

佐藤さん:それでも大丈夫ですので、ぜひ。そうそう、最近追加された機能なんですけど、別の場所に保存してあるファイルを、システムから呼び出せるようになりましたよね。

-はい。お陰様で、なかなか好評なんですよ。

佐藤さん:ええ、関連ファイルを保存できるようになってとても便利なんですが、あの機能、もう少し工夫できないかな…と。

-と仰いますと?

佐藤さん:別料金のオプションでもいいので、専用のサーバに保存するという仕組みが欲しいと思っているんです。もともと保存されていた場所にリンクを張る方法だと、保存場所が変わったりすると、呼び出せなくなりますよね。

-それもご指摘をいただきましたね。そういうご事情であれば、ぜひ実現の方向で考えてみますね。

-システムを「使う」上では、実は一番大切な「細かい使い勝手」ですが、3世代目の当社システムも課題が山ほどありそうです。

佐藤さん:でも、御社の担当者の方もそうなのですが、こうして要望を聞いてくださるだけでなく、必ずレスポンスを返してくださいますよね。実際に検討していただいているなら、とても期待しています。

-ありがとうございます。さて、こうして使い込んでおられるお立場から、これからシステム導入を検討される館へのアドバイスをお願いします。

佐藤さん:「I.B.MUSEUM は、未整理の資料を登録する時にも使えますよ」ということでしょうか。普通は、資料整理が完了してからデータベースに登録していくものですが、今回のシステムでは「データが揃っていなくても、とりあえず登録しよう」という姿勢に転換することができました。

-具体的には、どんな点でしょうか?

佐藤さん:たとえば「作品番号」は、普通なら必須の項目ですよね。つまり、作品番号がないと、画像を用意しても登録できないことになります。

-仰る通りですね。

佐藤さん:でも、今回のシステムでは、「必須ではない項目」という設定もできますから、先に画像をどんどん撮っていくことができるんです。そういう柔軟性は、現場ではありがたいんです。

片岡さん:画像情報ってひと目で資料を確認できるという意味では、美術館の資料情報の中でもとても大切なんですよ。

-なるほど。今なら、スマホやタブレットが役立ちそうですね。撮影したら、その場で画像登録を完了できますから。

片岡さん:それ、すごくいいですね。 当館は電波状況が悪いので通信環境を整えて使えるようになったらいいですね。

-ぜひぜひ。最後に、今後の目標をお聞かせください。

佐藤さん:いずれはインターネットで公開もしたいのですが、並行して作品以外の情報もこのシステムに統合していけると良いですね。映像フィルムなどもシステムに一本化できたら、展示を企画するときに作品と映像を一緒に検索したりできますよね。

-I.B.MUSEUM SaaSの「分野ごと自由に足せる」という機能が活きそうですね。これからもこうしたアドバイスをいただきながら、よりよいシステムを目指してしていきまずので、ぜひよろしくお願いいたします。本日はご多忙の中、ありがとうございました。

<取材年月:2013年6月>
Museum Profile
川崎市岡本太郎美術館 自然豊かな川崎市の生田緑地に、高さ30mのシンボル「母の塔」がひときわ目を引く美術館。
1999年の開館以来、川崎市ゆかりの芸術家として名高い故岡本太郎氏から寄贈された美術作品及び資料を中心に、近現代美術作品の収集と展示を行っています。生命感に満ちたエネルギッシュな作品群を鑑賞した後は、メタセコイアの木々を眺めながらカフェで一息。訪れる人を元気にしてくれる美術館は、全国からやってくる太郎ファンの熱気にあふれています。
ホームページ : http://www.taromuseum.jp/
〒214‐0032 川崎市多摩区枡形7-1-5
TEL:044‐900‐9898