ミュージアムインタビュー

vol.174取材年月:2021年12月中京大学スポーツミュージアム

ミュージアム同士が深く連携し合うことができれば
もっと多様な可能性が生まれると思います。
学芸員  伊東 佳那子 さん

-開館準備からシステム導入へと、ずっと大変ご多忙な時期が続いていますね。まずは開館当時のご様子からI.B.MUSEUM SaaSのご導入のきっかけなどをお聞かせください。

伊東さん:私が大学院で助手を務めていた時にミュージアム新設の話が出まして。いろいろな業者さんとの打ち合わせに参加する中で御社をご紹介いただいたんです。

-ありがたいお話です。現在、I.B.MUSEUM SaaSのAPIを活用したスポーツ資料検索ページを運営しておられますが、その当時からデジタル活用を重視されていたのでしょうか。

伊東さん:重視していました。当館は展示スペースが大きくないので、オンラインでの情報発信には力を入れていました。検索ページの公開は、2019年10月の開館から1年半近くかかってしまったんですけどね。

-開館準備と1万点近い資料のデータベースづくりの同時進行ですものね。

伊東さん:開館準備の期間中、私は展示の選定や準備に追われていて、その間に別の先生がExcelで目録のデータを整備してくださったので助かりました。開館後、I.B.MUSEUM SaaSに一括登録してデータベースを作って、スポーツ資料らしい見せ方となるように工夫したんです。

-その甲斐あって、スポーツ好きならいつまでも見ていられるような出来栄えですよね。

 


-資料検索ページは、やはり学生の利用が多いのでしょうか。

伊東さん:そうですね。学生たちは展覧会の準備にも参加してくれるのですが、企画の際にもデータベースは不可欠ですから。

-学生の皆さんには、とてもいい経験になりそうですね。授業でもお使いですか?

伊東さん:ええ、「ミュージアムを紹介する」という課題などで。ほかにも、日本ピエール・ド・クーベルタン・ユースフォーラムではオンライン学習を実施していて、ここでもデータベースを利用します。

-その「国際ユースフォーラム」とは?

伊東さん:主に高校生を対象に、2泊3日でオリンピック教育を行うんです。オリンピズムについて学んだり、パラスポーツを体験したり。このコロナ禍では2年連続でオンライン開催となったこともあって、データベースのスポーツ資料が大活躍することになりました。

-なるほど、さっそく成果が出ているわけですね。

伊東さん:とは言っても、まだ登録できていない資料もありますし、新たにご寄贈いただく資料も多いですから、まずは追いつかないといけませんけどね。

-寄贈資料が多いのですか?

伊東さん:ええ。本学は卒業生にオリンピアンが多いので、「貴重な資料を母校に」とご寄贈くださる方が多いんです。性質上、数も多くなりがちで。

-点数が多くなるのはなぜでしょうか。

伊東さん:たとえば水泳選手なら、スイミングキャップだけでも相当な数になりますよね。

-あ、なるほど!

伊東さん:分類やナンバリングもなかなか大変なので、学生にも手伝ってもらいながら進めていますが、登録にあたっての細かい判断は専門知識のある人でなければ難しくて。実は解決しなければならない課題でもあるんです。

-登録はどう進めておられるのですか?

伊東さん:まずExcelに最低限の情報だけ登録して、それに一眼レフで撮影した写真を合わせていくような形ですね。画像データは1枚1枚アップロードしているので、まとめて処理できるとよいのですが。

-その作業スタイルですと、確かに画像登録の効率化は必須ですね。画像照合アップロードという機能がありますので、改善できると思います。

伊東さん:そうなんですか、それはありがたいですね。

-追って操作方法をご説明しますね。説明が不十分で申し訳ございませんでした。

伊東さん:ぜひよろしくお願いします。ちょうどこれから300点ほどのまとまった資料を登録するのですが、1資料あたり7枚とか、たくさんの写真を登録しなければなりませんので、助かります。

-ずいぶん写真が多いようですね。

伊東さん:ええ、当館には「デジタル寄託」という制度がありまして。いったんお預かりして、データと画像を登録した後に実物を返却するので、写真が多くなりがちなんです。

-デジタル寄託という制度は初めて聞きました。どんな時に活用されるのですか?

伊東さん:「いずれは寄贈するつもりでも、今は自分で持っていたい」という方が対象となります。その資料がどこにあるのかを事前に把握しておけるので、スポーツ資料の散逸を防ぐことにも役立つんです。

-なるほど、自館のことだけでなく、スポーツ文化全体の未来を考えておられるのですね。実に有意義なお取り組みだと思います。

 


-我が国全体のスポーツ資料を守るという視点では、他館との連携が重要になりそうですね。

伊東さん:仰る通りです。昨年も、当館を含む5館合同でスポーツミュージアムの連携事業に取り組んでいるところなんですよ。当館では、他館の学芸員のインタビューをオンラインで配信したり、ワークショップを通じてお互いに紹介し合ったりしました。

-それもよいお話ですね。スポーツを扱うミュージアムは、どのくらいあるのでしょう。

伊東さん:スポーツで業績を上げた人物を顕彰する施設を含めると、300館は超えると思いますよ。

-時代とともにたくさんの名選手が生まれるわけですから、これからも増えていきそうですよね。

伊東さん:そうですね。そうした中で館同士が連携できれば、各館が預かった資料の分野に合わせて専門性を持つ館に集約し合うなど、ご寄贈いただいた皆さんのお気持ちにより深く応えられる仕組みも作れるのではないかと思うんです。

-スポーツ文化全体を考える上では、まさに理想的な姿なのではないでしょうか。

伊東さん:ありがとうございます。だからこそ、資料を守るためのスポーツデジタルアーカイブ構築はとても重要だと考えているんです。もちろん現段階では夢物語ですし、まずは自館のデータの整備からですけど(笑)。

-それでも、しっかりとしたビジョンがあるとないとでは大違いですから。ほかにトライしてみたいことなどはありますか?

伊東さん:現在、1964年の東京五輪に関する書籍の制作に携わっています。この本に登場する話題に関連する資料をデータベースで公開できたら…ということで、I.B.MUSEUM SaaSの公開機能で準備を始めました。

-それも面白いですね。深い話が出てきそうです。

伊東さん:そうなんですよ。たとえば、有名な「東京五輪音頭」のほかに「東京オリンピック音頭」と「東京五輪おどり」という2曲が一緒に世に出たことなどは、今となってはご存じの方も少ないのではないかと思います。あとは、当時のオリンピックに批判的だった文学者の発言とか。

-それは出版と公開が楽しみですね。I.B.MUSEUM SaaSの機能なら普通に公開できますが、テーマごとや競技ごとの入り口を備えた「知識のショーウィンドウ」のようなWEBページもあるとよいのでは。

伊東さん:それは面白いですね! ぜひ作ってみたいです。

-具体的な段階になりましたら、ぜひご相談ください。本日は貴重なお話をありがとうございました。

Museum Profile
中京大学スポーツミュージアム 「学術とスポーツの真剣味の殿堂たれ」を建学の精神に掲げ、多くのオリンピアンを輩出した中京大学が2019年に開設したスポーツ専門博物館。研究者が収集したスポーツ資料のほか、大学関係者が寄贈した資料を含め約9,000点を所蔵しています。展示室にはユニフォームや競技具、メダルが所狭しと並び、競技場の歓声が聞こえてきそうな臨場感。誰もが知る選手ゆかりの品から世界のスポーツ用具までが揃う、文字通り「スポーツの殿堂」です。

〒470-0393 愛知県豊田市貝津町床立101
TEL:0565-46-6953
ホームページ:https://sportsmuseum.chukyo-u.ac.jp/