ミュージアムインタビュー

vol.159取材年月:2019年12月中原中也記念館

長く蓄積した情報を、いろいろな角度から活用したい。
将来のデータ公開に向けて、まずはデータの点検から。
館長 中原 豊 さん
総務担当 細田 萌美 さん

-2017年度からI.B.MUSEUM SaaSをご利用いただいてますね。まずはご導入のきっかけからお聞かせください。

中原さん:独自のデータベースシステムはあったのですが、来館者向けの検索端末とはつながっているものの、職員は1台のPCでしか使えなかったんです。老朽化を機に、抜本的に見直そうということになりまして。

-見直しのポイントは?

中原さん:ちょうど開館20周年というタイミングということもあって、データ管理を強化するなら、もっと柔軟に運用できるシステムが欲しいと考えました。項目の変更くらいなら自分たちでできるような。

-製品の比較検討はされましたか?

中原さん:もちろんです。と言いますか、ほかの文学館に話を聞きに行ったら、御社をお勧めくださるところが何館もありましたよ。

-何館も…!! それは本当ですか!

中原さん:本当です(笑)。そんな経緯で無事に導入しましたが、まだ機能を完全に使いこなすという域には達していないですね。

細田さん:館内の端末で、限定的に公開しているんですけどね。

-データを点検して、確認できたものから順次公開していく…という方針でしょうか。

中原さん:そうですね。長く蓄積してきた分、表記に揺れが生じている部分もありますから。将来的には、いろいろな角度から検索できるレベルにまで持っていきたいので、今はチェックにじっくりと取り組んでいます。

-閲覧者の使い勝手を考えておられるわけですね。

中原さん:ええ。卒論の準備など研究目的で検索する方々には特定の情報をスムーズに引き出せるデータベースにしたいですし、「ちょっと触ってみようかな」という来館者さんには写真を前面に出した方が分かりやすいと思いますし。

-求められる情報がまったく異なるわけですね。

中原さん:皆さんが中也の言葉そのものをお探しとは限りませんので、もう一歩踏み込みたいんです。たとえば、「中也は『空』という文字をどのくらい使ったか」が分かるものとか。

-へえ〜、そういうニーズもあるんですね。

中原さん:中也の詩に出てくる「空」はもちろんですが、そこから「中也が描く空のイメージ」について書かれた論文もあったりしますし。

-はあ〜(感心)、文学ファン垂涎のデータベースになりそうですね!

中原さん:こうした研究ニーズに応えるためには、まず詩のテキストがすべてデジタル化されていなければなりませんよね。加えて、そこから論文にリンクさせたり、いろいろ工夫したいと思っています。

-なるほど、ひと筋縄ではいきませんが、完成したら素晴らしい充実度のデータベースになりますね。それがインターネットで公開されたら…。

中原さん:そのためには、データ整備だけでなく、閲覧申請の増加を想定した対応策も準備しなければなりませんけどね。組織体制から見直しも必要になるかもしれませんし、その一方で来館への動機づけの視点も必要ですし。

-そのあたりは先行事例も参考になると思いますので、弊社もお手伝いできればと思います。

 


-中のデータは点検中とのことですが、システムはすでに稼働していますよね。

中原さん:もちろんです。ひと通りのデータは登録されていますので、検索機能はよく使いますよ。

-どんな場面でご利用でしょうか。

中原さん:たとえば、中也が関わった雑誌などの収集の場面とか。『四季』という雑誌の何年何月号を古書店目録で見つけた…という時などは、当館にあるかどうかを検索して、なければ購入を検討するんです。理想は3点ずつ所蔵しておきたいので。

-なるほど。古書店の目録って重要な情報なんですね。

中原さん:そうなんですよ。あとは、他館から借用の申し込みがあった時に、リストを出力して送ったりもします。それから、当館が毎年発行している『中原中也研究』に載せる収蔵資料目録を準備する際にも使いますし。

細田さん:これが、その『中原中也研究』なんですよ。

-これを毎年出されているのですか! さすがですね…。

 


-ところで、こちらでは「ポケット学芸員」をお使いですよね。

細田さん:はい。 I.B.MUSEUM SaaSが当館に入ると知った時から注目していました。無料で導入できるアプリなら絶対に活用しよう、と(笑)。

-ありがとうございます(笑)。プロのアナウンサーによる詩の朗読を拝聴しましたが、素晴らしい出来栄えですね。

細田さん:あれはお金もかかりませんでしたからね。ご厚意で引き受けてくださったんですよ。

-それはすごい! どうやってそんなことが実現したのでしょうか。

中原さん:中也が自作朗読をしていたというエピソードにちなんで、「空の下の朗読会」というイベントを開催しているんですが、地元のカルチャーセンターで行われている朗読教室に参加していたことがあります。その先生が、地元テレビ局の元アナウンサーで、朗読者の推薦をお願いしたら後輩の現役アナウンサーに声をかけてくださったんです。

細田さん:録音スタジオもテレビ局がお貸しくださったんですよ。いろいろな方々のお力添えのおかげで、本当によいコンテンツが仕上がったと思います。

-はあ〜(感心)。中也の詩の魅力だけでなく、こちらの日ごろのご活動があってこそなのでしょうね。来館者の反応は?

細田さん:若い方は、アプリがあると知るとすぐダウンロードしてくださるケースが多いようですね。

-そう言えば、あちこちの文学館で若い方の姿が目立つようになった気がします。最近は、この時代の文学者が登場するマンガやアニメが大人気ですし、その影響もあるのでしょうか。

細田さん:そうかもしれませんね。でもポケット学芸員の導入館としては、文学館系はまだ少ないですよね。もっとたくさんの館で導入されれば、文学館巡礼アプリになるのに…と(笑)。

-弊社がもっと頑張らないといけませんね。ほかにシステムへのご要望などは?

細田さん:先日のデザインリニューアルでグッと見やすくなりましたし、Bluetoothイヤホンにも対応していただきましたし。特に申し上げることはないです。

-多言語の展開はいかがですか? こちらは観光地ですし、インバウンドの対応も求められるのでは。

中原さん:まず英語から始めようとは思っているのですが、詩は翻訳が難しいですから。

細田さん:誤訳も起こりやすいですしね。

-なるほど、ましてや朗読となると…。

中原さん:そうなんです。朗読自体がひとつの創作物になりますから、音声は日本語のままがいいのかな…と。

-朗読はともかく、インバウンド対応はぜひ進められてはいかがかと思います。先日も、多言語アプリ導入したことを対外的に発表したら、旅行会社のガイドの方が案内ルートに組み入れてくださった…という事例を聞きました。

中原さん:なるほど、広報面の貢献もあるのですね。

細田さん:当館もぜひ活用を考えてみたいです。

-弊社もお手伝いいたしますね。さて、この後は、朗読を聴きながらゆっくり展示を見学させていただきます。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

Museum Profile
中原中也記念館 山口市は湯田温泉にある文学館。常設展示、テーマ展示、企画展示という三部構成の館内では、中原中也の草稿や手紙、日記といった貴重な資料を楽しむことができます。ポケット学芸員を利用し現役アナウンサーによる詩の朗読などを取り入れ、中也の世界観をじっくりと味わい尽くせる展示に加え、月1回開かれる「中原中也を読む会」をはじめ、公開講演や生誕祭などイベントも活発に開催中。まさに中也ファンの聖地として、いつもたくさんのファンで賑わう人気館です。

ホームページ : http://www.chuyakan.jp/
〒753-0056 山口市湯田温泉1-11-21
TEL:083-932-6430