ミュージアムインタビュー

vol.172取材年月:2021年11月平塚市美術館

作品データを一元化できたこともさることながら
どこからでもアクセスできるのは本当に便利です。
学芸員  安部 沙耶香 さん
学芸員  桑名 真吾 さん

-貴館と弊社は、もう25年くらいのお付き合いとか。長きにわたってご愛顧いただき、ありがとうございます。

安部さん:こちらこそ。その昔は、ハードウェアの手配と一緒に情報コーナーのコンテンツ制作をお願いしていた時期もあったようで。本当に長いお付き合いになりましたね。

-その後、個別型のI.B.MUSEUMを導入されて、クラウド型へとご移行になりました。それが5年前でしたね。

安部さん:そうですね。とは言っても、当時はまだExcelやFileMakerと並行して運用する形でしたので、現場の感覚としては徐々に移行したという感じですね。

-そして昨年、作品データベースの公開をなさりたいとのご相談いただきました。やはりコロナ禍の影響でしょうか。

安部さん:情報コーナーをご利用いただけなくなりましたからね。それもひとつの要因ですが、当館は今年で開館30周年なんです。作品目録の作成は以前から話があって、この時代ですから自然にデジタルでの公開という方向でまとまりました。

-公開にあたっては、まずデータの見直しが必要だったのでは。大変な作業になりますね。

安部さん:仰る通りです。そんな時、ベストタイミングで来てくれた心強い学芸員がおりまして(笑)。

-桑名さんですね(笑)。

桑名さん:はい(笑)。今年4月に着任しました。

安部さん:当初は画像が整った作品情報に絞って公開するつもりだったのですが、テキスト情報しかない作品もできる限り公開しようということになって、頑張ってもらいました。

-具体的にはどんな作業を?

桑名さん:先輩方のデータをもとに、制作年や技法など細部を整えていきました。入力者によって異なる表記方法を統一したり、英語のデータを準備したり…。

-システム以外の2つのデータベースからも統合するのですから、手間がかかりますよね。

安部さん:そこを一手に引き受けてくれて、本当に助かりました。おかげで、私は画像の著作権の交渉に時間を割くことができましたので。

-そちらも大変な作業ですね。著作権の交渉は本当に骨が折れると、あちこちの館でよく耳にします。

安部さん:1件1件、個別に進めなければなりませんからね。でも、その甲斐あって、今回の公開では著作権が切れている作品のほか、日本画の画像も数多く公開できました。

-お二方とも、ご苦労が報われた形ですね。情報整理と対外折衝という役割分担はお見事のひとことですが、公開後の反応は?

桑名さん:それが早速、当館の所蔵作家についての情報を含めたカタログを制作したいとのことで他県の館から問い合わせがあったんです。実際に閲覧されたそうですので、まさにデータベースの公開効果ですね。

-検索してヒットするというのは大きいですよね。素晴らしい成果です。

 


-バラバラだった作品データがひとつのシステムに収めたことになりますが、内部でのご利用状況はいかがですか?

安部さん:データの一元化もさることながら、以前はI.B.MUSEUM SaaS以外には自分の端末からはアクセスできなかったので、場所を選ばずデータを閲覧できるようになったのが大きいですね。問い合わせ対応も自分の席でできますし、展示室の中で寸法の間違いに気付いたらその場で修正できますし。

桑名さん:私はまだ着任から日が浅いので、少し時間ができるたびにアクセスして作品情報に触れるようにしています。データのメンテナンス以外でも、よく使っていますよ。

-ありがとうございます。逆に、何か気になることは?

桑名さん:詳細画面に入ってデータを修正し、また一覧に戻るというプロセスが多いので、作品の一覧表示の画面上で編集できると便利だと思います。あとは、操作履歴の記録とか。大人数で使うと登録者本人に確認したい場面もあるかな、と。

-なるほど、両者とも改善の課題とさせていただきます(メモ)。ほかには?

桑名さん:あとは、公開ページの英語の仕様ですかね。ある作品の詳細ページを日本語で見ていて英語に切り替えたい時、英語側のトップから改めて検索しなければならないのは、ちょっと手間がかかります。分類が日本語で出てしまわないように別項目を用意しなければならない点も、少し不便かもしれません。

-なるほど、なるほど(メモ)。お手数をおかけしているようで申し訳ございません。

安部さん:そうそう、所蔵品展の準備でクリップリストをよく使うのですが、一度作ったリストに作品を加えることはできますか?

-(画面を示しながら)この「さらに検索」をクリックして追加検索していただければ。弊社の説明が不十分で、大変失礼しました。公開が一段落したところですから、改めて操作説明会の開催を検討させてください。

安部さん:それはいいですね、ぜひお願いします。

 


-さて、それでは今後の計画や構想などをお聞かせください。

安部さん:当館では「アートカード」を制作しているのですが、これをデータベースと組み合わせて「調べ学習」に役に立てていただくというアイデアに取り組んでいます。カードは表に画像、裏に解説という作りで、データベースから対象作品を検索できるようになればと思ってトライしているのですが…。

桑名さん:少し上手く行かない部分があって。ちょうど先日、方法について御社に問い合わせたところなんですよ。いまお調べくださっていると思います。

-そうだったんですね。サポート担当に確認しておきます。

桑名さん:あとは、作品以外の所蔵資料をどのように登録するか、悩んでいるところです。

-「作家ゆかりの品」のような資料ですよね。項目からしてお悩みの館も多いようです。

桑名さん:そうなんですよ。直筆の書面やアトリエにあったパレット、灰皿から歯ブラシまで。特定の作品の制作メモなら「これは資料だ」「いや、作品の一部だ」と迷ったり。考えすぎると前に進みませんので、難しいところです。

安部さん:しかも、プライバシーの問題もありますから、我々の判断だけではいかない部分もあるんですよ。

-なるほど、項目を決定できたとしても問題はそれだけではないこともあるわけですね。本当に、ひとつひとつ、ひと筋縄ではいきませんね。

桑名さん:そうなんです。でも、作家のことを知る上で重要な情報も多いので、何とか実現したいと思っています。

-ほかのご利用館で類似の事例もあると思いますので、また情報をお持ちしますね。まずはスタートしてみて、作業しながら考えるという方法もありますし。

桑名さん:確かに。項目を後から自由に変更できるというのは、本当に便利ですからね。

安部さん:操作説明とともに、何かよいヒントがあれば、ぜひよろしくお願いします。

-承りました。データ公開がきっかけとなって活用が活発になっていく様子を目の当たりにして、とても元気が出ました。本日はお忙しいところ前向きなお話をたくさんお聞かせいただき、本当にありがとうございました。

Museum Profile
平塚市美術館 「湘南の美術・光」をメインテーマとした美術館。1991年の開館以来、平塚の芸術文化の支柱的存在として親しまれてきました。湘南にゆかりのある作家の作品をはじめ国内外から優れた作品を収集しつつ、展覧会と並行した教育普及事業も活発に展開。目的に合わせて大・中・小と規模が異なる展覧会、無料のロビー展など、いつ訪れても楽しめる工夫が満載。県外からも含めて年間で10万人近い人々が訪れるという大人気のミュージアムです。

〒254-0073神奈川県平塚市西八幡1-3-3
電話番号:0463-35-2111
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