ミュージアムインタビュー

vol.178取材年月:2022年1月高知市立自由民権記念館

先輩方の努力の結晶を、次の世代へつなぐために。
データベースのさらなる改善に貢献していきたいです。
学芸員  濵田 実侑 さん
学芸員  汲田 美砂 さん

-濵田さんと汲田さんは、ともにI.B.MUSEUM SaaSが導入された後のご着任ですよね。

濵田さん:はい。データベースには早めに慣れた方がよいということで、まずは館内資料を検索するところから始めました。

汲田さん:私は図書データの一括登録で使いました。最初は困惑しましたが、先輩に助けていただきながら作業を進めました。今は問い合わせ対応の際に該当資料を検索したり、企画展の準備で展示資料の検討に活用したりと、日常的に使っています。

-あとは、ポケット学芸員ですね。以前お邪魔した時はナレーションの収録方法をご検討中の段階でしたが、その後は大丈夫でしたか?

濵田さん:おかげさまで。その節は相談に乗っていただいてありがとうございました。

-それはよかった。一昨年の開館30周年に合わせての企画でしたよね。

濵田さん:はい。コロナ禍で対面での解説ができなくなりましたので、その代替策という意味もありました。ただ、諸事情で準備が間に合わなくて、導入は翌年にずれ込んでしまったんですけどね。

汲田さん:最終的には、言葉をテーマにした企画展に合わせる形で、昨年4月に導入しました。

-言葉にまつわる展示であれば、音声ガイドはピッタリなのでは。

汲田さん:そうなんですよ。明治のはじめ頃までは、書物はむしろ朗読を聞くスタイルが一般的で、新聞武士の手紙 も誰かが声に出して読んでいたらしくて。そもそも黙読という習慣がなかったとする説もあるくらいなんです。

-それは初めて知りました。実に興味深いお話ですね。

汲田さん:ということで、当時の言葉を感じてもらうには、文字で見てもらうより朗読を配信した方が効果的なのでは「当時の習慣に合わせて」の音読であれば、単に音声を配信する以上に意義深いのでは …と考えて、県立文学館のカルチャーサポーターの方に解説の朗読をお願い信しました。

-収録はどうなさったんですか?

濵田さん:館内で行いました。ホールのマイクで音声を録音できるのですが、これが意外とよい音質で録れるんです。

-へえ〜、それは面白い情報ですね(メモ)。ホールの設備がある館は割と多いですから、ご参考として他館の皆さんにもお伝えしますね。

汲田さん:ぜひぜひ。あと、収録では、カルチャーサポーターの方に加えて高校生にも協力をお願いしたところ、これがとてもうまくいきまして。

-お〜、高校生ナレーションの成功例が、またひとつ(笑)。弊社でもおすすめの方法としてご紹介していて、最近事例も増えてきまして。ただ、中には学校側との交渉が意外と難航したというケースもあるようなのですが、どんな準備をされましたか?

汲田さん:準備なしです。私がいきなり電話しました(笑)。

-それはすごい。強心臓ですね(笑)。

汲田さん:ちょっと無茶かな、とも思ったんですけどね。でも、コロナ禍で、ちょうど演劇部と放送部の活動が困難になっていた時期で、高校側も「ぜひやりたい!」という感じでした。

-なるほど、まさにWIN-WINですね。

汲田さん:参加してくださった高校生たちが、実にイキイキと取り組んでくれましてね。こちらとしても、放送部と演劇部の文化の違いを感じられてに気付いたりして 、とても楽しかったです。この成功をもとに、今後は恒例化していきたいと考えています。

-高校生たちの皆さんの活躍舞台にもなりますからね。ぜひ頑張ってください。

 


-さて、システムのお話に戻りますが、現在のご利用状況について、もう少し詳しく教えてください。

濵田さん:ひとつ、特徴的な活用法があります。当館には「土佐自由民権運動目録」という冊子があるのですが、これを検索できるよう、システムにデータを登録してあるんです。記事単位で、ある程度の内容までデータ化されていて、人名でも検索できるようになっているんですよ。

-(冊子を見ながら)これ、すごいですね…。まるで昔の新聞の「見出しインデックス集」じゃないですか。まず冊子化すること自体、とんでもなく大変な作業になりそうです。

濵田さん:大労作ですよね。30年ほど前に、手入力で作り上げてくださったようです。現在、公開はしていないのですが、問い合わせ対応ではこのデータにあたることがとても多いので、本当に感謝しています。

-まさに、後進に残した先人の財産ですね。弊社製品もお役に立っているなら嬉しく思います。

汲田さん:開館当時に整備した主要な家資料もデータベースに登録されていますからね。歴代の学芸員の皆さんから今の先輩方まで、ご尽力に脱帽です。

-先日、他館のベテラン学芸員の方に「この仕事は代々受け継いでいくもの」とうかがいました。データベースはその器であることを実感します。

 


-それでは、今後のビジョンについてお聞かせください。

濵田さん:大きな視点で言えば、先輩方が作ってくださったデータを大切に使いながら、次の時代の方法論に合致する形に磨き込んでいければと考えています。

-素晴らしいご姿勢ですね。具体的なイメージはありますか?

濵田さん:今のデータベースは項目がとても多いのですが、運用に慣れて担当者が代替わりすると、同じ情報でも登録先が異なることがありますよね。このあたりに貢献したいな、と。

汲田さん:同感ですね。たとえば、I.B.MUSEUM SaaSはタブで画面を切り替えながら作業を行いますが、時々、目的の情報がどのタブのどの欄にあるのかが分からなくなることがあります。

-データ項目の見直しについては、最近、他館からも同じようなご相談をいただいています。館内でより使いやすい項目体系に変更することは可能なのですが、統合や削除・追加の際には注意すべきこともありますので、実際に検討される際にはまずご一報くださいね。

濵田さん:その際はよろしくお願いします。あとは、全資料の登録ですね。

-資料の数が膨大でしょうから、大変な作業ですよね。

濵田さん:家資料がひとかたまりで1万点、そのかたまりがいくつもある…という状態ですからね。これを1点ずつ登録するとなると何年かかるか分かりませんが、似た性質の館ではどうなさっているのでしょうか。

-アプローチ方法はいくつかあります。たとえば、家資料のデータ管理では多数の階層ができると思いますが、数万点規模のデータに対して一番下まで丹念に整備するとなると作業量的に無理が生じますので、まずは階層を限定するとか。

汲田さん:なるほど、情報の充実の前に、登録を進めることを優先するわけですね。

-はい。下の階層にあたる情報で気になる点があれば、ひとまず備考欄に記載しておくという方法で運用しておられる館もあります。そんな具合で、まずは館内ルールを決めるのがよろしいのではないでしょうか。

濵田さん:ありがとうございます。全点登録に向けて頑張ります。

-こうした事例の情報も豊富にありますので、もしご希望であれば提供させていただきますね。本日はご多忙なところありがとうございました。

Museum Profile
高知市立自由民権記念館 「自由は土佐の山間より」との言葉の通り、高知は板垣退助や中江兆民、植木枝盛らを輩出した自由民権運動発祥の地。このミュージアムは、高知市制100周年を記念して、土佐の近代に関する資料を広く収集・保管・展示し、次の世代へ引き継ぐ目的で設立されました。板垣退助遭難時の凶器の短刀、自由の旗、自由勝利の大徳利など、当時の運動をリアルに伝える史料が多数。自由民権思想を継承・発展させる上で重要な役割を担う施設です。

〒781-8010 高知県高知市桟橋通4丁目14-3
TEL:088-831-3336
ホームページ:https://www.i-minken.jp/