ミュージアムインタビュー

vol.180取材年月:2022年3月松岡美術館

システムは、職員の負担を軽減するためのもの。
データを上手く活用して、仕事の幅を広げていきたいです。
副館長  黒川 裕子 さん
主任学芸員  山口 翼 さん

-足かけ10年近くI.B.MUSEUM SaaSをご利用いただいていますね。まずはご導入のきっかけからお聞かせください。

黒川さん:長く使ってきた紙ベースの台帳からデジタル化への移行を検討するにあたり、当時の館長がいろいろと調べた結果、御社の製品に行きついたようですね。

-紙の台帳からの移行ということは、手で入力なさったのですか? Excelなど元になるデータがない状態だったのでしょうか。

黒川さん:そうなんです。作品数は2400点ほどなのですが、なにぶん人手が足りませんので、手分けしながら。

-それはすごいですね。明確な締め切りがない状態でのデータ整備作業は、なかなか思うように進まないことが多いんです。しかも、1点ずつの手入力となると、よほど優先順位が高くないと…。

黒川さん:そうなんですか。当館の場合は分担を決めて、業務の合間に入力していきました。時間はかかりましたが、「絶対に仕上げよう」という意思は共有していたように思います。

-山口さんご自身は、いつ頃こちらに着任されたのですか?

山口さん:2015年です。すでにシステムは導入されていて、作品名や寸法、画像データなどは登録された状態だったので、「どこに何があるか」については把握できました。あとは出品歴や来歴など、登録された情報の中身の充実化を図るというタイミングでしたね。

-ゼロからの手入力なのに、きちんと段階を踏んでおられたわけですね。そこからはどう進められたのですか?

山口さん:紙の台帳に記載されていた出品歴を作品管理画面で1点ずつ入力していたのですが、途中で「展覧会ごとにまとめて入力した方が早いかも」と気付きまして。お陰様で、いまは出品歴についても整っている状態です。

-出品歴と言っても、こちらは長い歴史をお持ちの美術館ですよね。年に4〜5回は展覧会を開催するとして…。

黒川さん:大半が前後期に分かれますので、それも含めて、だいたい40数年分でしょうか。

-40年分の出品歴をゼロから入力されたのですか!

黒川さん:そうなんです。担当するスタッフの全員がデータ整備を大事な仕事だと認識して作業にあたってくれていますので、何とか頑張ることができました。

-いまは山口さんが中心的な役割を果たしておられるのですよね。

山口さん:はい。データ入力に関しては、特に2019年6月からの休館時期に、集中的に作業を進めました。

-休館の期間をデータ整備に充てる館は割と多くて、中には再開館に合わせて作品データを公開されるケースもあります。こちらは、どんな作業だったのでしょうか。

山口さん:作品の調査や寸法の図り直しなどを行いました。あとは御社の方にお越しいただいて、改めてシステムの操作をレクチャーいただいたり。

-その節はお世話になりました。弊社スタッフの説明は十分でしたか?

山口さん:ええ、もちろん。入力者によってデータの揺れもありますので、気づいたものをリストアップしながら遡って修正するなど、現在も整備を続けています。

-本当にデータを大切にして、今も育てておられるわけですね。頭が下がる思いです。

 


-システムの使い勝手はいかがですか? 何かご要望などは?

山口さん:休館に入る直前に追加された帳票機能で作品のチェックシートを作りましたが、操作が少し難しくて苦戦しました。あとは、展示替えなどの手伝いに来てくださる本社の方々にも分かりやすいように、ラベルを充実させたいと考えているのですが…。

-展示替え用のラベル? もしかして、作品の移動なども皆さんで作業しておられるのですか? 専門の業者さんではなく?

黒川さん:そうなんです。当館は所蔵作品のみで展覧会を行いますので、テグスをかけるところから自分たちで。

-うわ〜、聞くだけで胃が痛くなりそうです(笑)。

黒川さん:分かります(笑)。でも、神経は使いますが、触ってみて初めて分かることもありますから。他館の学芸員から羨まれることもあるんですよ。

-なるほど。どんなラベルをご希望なのですか?

山口さん:たとえば、いろいろな枠線を使えたり、色ベタの白抜き文字にしたり…。

-帳票の自由度を高めるわけですね。検討課題とさせていただきますね(メモ)。

山口さん:ぜひ。こうしたラベルはWordで作っているのですが、せっかくデータベースに情報が登録されていて、帳票作成機能もあるのですから、システム内で完結させられれば効率的だと思いますので。

-仰る通りです。システムは、もともと館の皆様のご負担を軽減するのが目的ですからね。ほかにはいかがですか?

山口さん:展覧会のデータを作ると、個々の作品の出品歴が自動的に作成されますよね。これは便利なのですが、後で展覧会情報を修正する時、作品の出品歴にも反映されるとありがたいと思います。作品情報も更新するかどうかを決めるボタンがあるとよいかな、と。

-なるほど、選択制であれば可能かもしれません(メモ)。こちらも検討させていただきますね。

 


-さて、こうしてデータの整備を進められる中、すでに情報公開を実施しておられるほか「ポケット学芸員」もご利用いただいていますね。こちらについてのご要望などはございますか?

山口さん:ひとつあります。画像についてなのですが、今は作品データベースで公開するものが自動的にポケット学芸員にも反映されるようになっていますよね。これを「ポケット学芸員だけで公開する」という選択肢があると嬉しいです。

-なるほど。アプリの利用時は原則として作品の前に立っているわけですから、作品全体の画像よりも、注目箇所の拡大写真や展示では見えない裏側の写真などを見せたいこともありますよね。

山口さん:そうなんです。当館の場合は、ポケット学芸員用の配信情報を大分類に加えて対応していますが、できればそうした機能があれば便利じゃないかなと思います。

-ご不便をおかけして申し訳ございません、これも宿題とさせていただきます(メモ)。では、今後に向けての展望などをお聞かせください。

山口さん:しばらくはデータの拡充を進めていきたいです。たとえば、他館への貸出の情報も登録して、上手く活用できる環境を作りたいですね。

-ここまでしっかり対応しながら、すでに次を見据えておられるのは素晴らしいですね。黒川さんも頼もしくお感じなのでは。

黒川さん:本当に頑張ってくれていますからね。私たちの時代はデータづくりと整備が使命でしたが、彼らの世代では活用の時代に入っているということを思い知らされます。

山口さん:まさにそうなっていくと思います。これからは、仕事の幅がどんどん広がっていくはずですので、業務の効率化も含めて、データベースを上手く活かしていきたいですね。

-弊社も心しなければなりませんね。お役に立てるよう頑張ります。本日はご多忙なところ、貴重なお話をありがとうございました。

Museum Profile
松岡美術館 実業家・松岡清次郎が1975年に設立した私設美術館。95年の生涯をかけて自ら蒐集した美術品の数々を保存・公開しています。私立美術館は創立者の美に対する審美眼を訴えるべき場所という清次郎の志により、設立以来、館の所蔵品のみを展示。古代オリエント美術やガンダーラ・インド彫刻から東洋の陶磁器、日本画やフランス近代絵画まで、多岐にわたるコレクションから一人の美術愛好家の横顔を浮き彫りにする貴重なミュージアムです。

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