ミュージアムインタビュー

vol.175取材年月:2022年1月いわき震災伝承みらい館

記録と記憶を後世につなぐためのアーカイブは、
「長く安定的に運用できる環境の確保」が大切。
主査   武田 真一 さん
アーカイブ担当  坂本 美穂子 さん

-開館から1年半ほどが経ちましたが、現在の状況はいかがですか?

武田さん:令和2年5月の開館から半年で来館者数が1万人に達していますから、おかげさまで順調と言ってよいかなと思っています。

-それは素晴らしいですね。失礼ながら、交通の便がよいわけではなく、人通りも多くはない立地を考えれば、大変な注目度だと思います。

武田さん:ありがとうございます。当館が立地する場所は、震災により甚大な被害が生じた地域内にあり、また、津波の被害で解体となった旧豊間中学校跡地の一角にあたります。この場所は、決して交通アクセスが良い場所ではありませんが、当館を訪れた方に、震災の記憶と復興の様子を伝えることができる象徴的な場所だと思っています。

-そうだったんですね。それにしても、コロナ禍が始まった頃のタイミングで、よくぞ開館に踏み切られましたね。

武田さん:実際、延期も検討しました。でも、終息が見えない中では期間も決められないわけですから、しっかり対策して開館することを選択したんです。私たちは4月に着任したのですが、翌月の開館ということで、なかなか大変でした。

-え、開館はご着任の翌月だったのですか? データベースの公開もほぼ同時期でしたよね?

武田さん:そうなんです(笑)。震災アーカイブの公開は当館の重要なミッションのひとつということで、ホームページと合わせて資料データベースの公開も必須だったんです。そのほか、オープニングセレモニーもありますし、コロナ対策もありますし…。

-ものすごいハードスケジュールですね…。スタートですから、きっと新たな契約事務などもたくさんあるでしょうし。

武田さん:そうですね。新たな公共施設ですから、清掃や保守点検など基本的な維持管理業務や、御社との契約をはじめ、震災伝承という取組みのための多くの契約が必要でした。その多くは、新年度にならないと実施できない案件でしたので、どうしてもこの時期に事務処理が集中することになりました。

-この短期間にそんなに…。たとえば、データベースの構築作業はどう乗り切ったのですか?

武田さん:震災アーカイブは、市が大学に委託して調査収集を進めてきたベースとなるデータがありました。

坂本さん:私は平成24年から当館に着任するまで大学で震災アーカイブに関する業務に携わっていて、震災関連資料の収集とExcelを使ってのデータ作成などを行っていました。開館にあたっては、これをもとに公開するための環境を整えるという流れだったんです。

-つまり、資料とともに熟知する専門家を迎えたという図式となるわけですね。なるほど、不可能を可能にする唯一の手段という感じですね。

 


-東日本大震災のアーカイブは、復興財源を活用して各地で展開されています。構築の財源が十分にあるためか、オーダーメイドの大規模なシステムを構築するケースが多いようです。それに対して、コンパクトなクラウドサービスをお選びになりましたね。

武田さん:コスト面もさることながら、オリジナルのシステムよりもサービス利用の形態を採用した方が、技術革新に伴う継続的な機能改善を期待できるという点が大きかったようです。

-なるほど、将来性を重視されたわけですね。確かに、独自システムではアップデートも常に自力で行うことになります。

武田さん:当館は震災関連資料の収集も重要なミッションのひとつですが、資料は今後も増え続けていきますからね。データ登録件数の上限がなく、料金も一定である御社のサービスがマッチするという判断だったのでしょう。

坂本さん:記録と記憶を後世につなぐことがアーカイブの目的である以上、長く安定的に運用できなければ意味がないですからね。器は決まっていたので、あとは最終的にどんな形にするかという点でかなり悩みました。先行する各地の震災アーカイブを参考にさせていただいたのですが、完成イメージがなかなか定まらなくて。

-ただでさえ時間がない中での手探りの作業は、大変だったでしょうね。弊社がもう少しお役に立てればよかったのですが…。

坂本さん:いえいえ。心強い援軍がいましたし。

武田さん:もう一人、震災アーカイブに大きな役割を果たしてくれた方がいるんです。いわき市の歴史に非常に詳しい市役所のOBがいらっしゃいまして。

坂本さん:写真の整理の仕方や、一般の方にも親しみやすいカテゴリの分け方など、細かくアドバイスをくださったんです。そこから時期や地区などで検索できる方法を考え、「津波」「避難所」「イベント」といったキーワードを決めていきました。

-今回の独自性の高いデータベースは、そうやって実現されたのですね。あとはデータを流し込むわけですが、そちらの作業は問題ありませんでしたか?

坂本さん:おかげさまで、I.B.MUSEUM SaaSの一括登録機能で問題なく登録できました。御社のご担当の方が丁寧にサポートしてくださって、データ項目に使われている単語の意味まで質問させていただきました。

-それは何よりでした。実際の作業上では何か不都合はありませんでしたか?

坂本さん:そう言えば、空撮などの大きな写真のリサイズ作業などでは少し手間取りましたね。画像も一括登録できたら助かるのに…と。

-お手数をおかけして申し訳ありません。画像登録まわりではご要望が多く、弊社内でも改善を検討中でして。よいご報告ができるよう努力しております。

 


-さて、ご利用の開始から公開まで、ほとんど理想的な流れかと思います。運用開始以降、日常の使用感についてはいかがですか?

坂本さん:先ほどのアドバイザーの方のご協力もあって、開館後に増えた資料の登録も滞りなく進んでいます。機能的にはまだ使いこなせていない部分もありますので、これから勉強していきたいですね。

-使えていない機能はどのあたりですか?

坂本さん:たとえば履歴にまつわる機能とか。当館は写真データの貸出が少なくないのですが、その記録を残していけるようにしたいんです。そのほか、写真以外の現物資料の登録も課題ですね。

-現物資料にはどんなものがあるのでしょうか。

坂本さん:避難所のメモとか、砂を被った時計とか…。簡単な目録は作ってあるのですが、システムへの登録はこれからの状態で。

-ということは、また項目を考えるところから始めることになりますよね。着手される際には他館の事例などの情報をご提供できますので、よろしければご相談ください。

坂本さん:ありがとうございます、ぜひそうさせてください。

武田さん:それから、ポケット学芸員を使った展示案内サービスの導入も検討しています。公共性の高い施設ですので、ユニバーサルデザインの一環として多言語で展開できれば、と考えています。

-それは楽しみですね。翻訳や音声収録の方法のほか、コンテンツ内容の工夫などについても多様な事例の情報を蓄積中ですので、ぜひお声掛けください。本日は貴重なお話をうかがうことができて、大変有意義でした。ご多忙の中で時間をお借りいたしまして、ありがとうございました。

Museum Profile
いわき震災伝承みらい館 東日本大震災で甚大な被害を受けたいわき市の震災体験を捉え直し、教訓を後世に伝承することを主目的に、2020年5月に開館しました。パネル展示や大画面の映像、タッチパネルやVR映像、ハンズオン展示など多様な手法で震災の様子を伝えるほか、旧・いわき市立豊間中学校の卒業式当日、震災発生の直前に生徒たちが寄せ書きを残した黒板の展示も。震災語り部の定期講話もあり、年月が経つほどに役割の重みを増すであろう重要施設です。

〒970-0229 福島県いわき市薄磯3丁目11
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