ミュージアムインタビュー

vol.181取材年月:2022年3月南城市教育委員会文化課

古写真をご提供くださる地域の皆様と力を合わせて
ともに育てるデジタルアーカイブを目指します。
市史編さん係 主任主事   新垣 瑛士 さん
デジタルアーカイブ専門員  田村 卓也 さん

-『なんじょうデジタルアーカイブ』を拝見しましたが、素晴らしい出来栄えですね! 今回は、こちらのお話をうかがえるということで、楽しみにしていました。

新垣さん:ありがとうございます。『なんデジ』は平成29年度に発案され、平成30年度に実施計画書を作成しました。その段階で、当初に構想していたイメージとはかなり変化したんですよ。

-そうなんですか。当初はどんなイメージだったのですか?

新垣さん:当市は国指定史跡であるグスク(城)が多いこともあって、はじめはVRやARをフィーチャーしたデジタルミュージアムを作ろうという方針だったんです。実際にプロジェクトがスタートして、各地の事例を調査したり外部の有識者とともに議論を重ねたりするうちに、現在の形に落ち着きました。

-エンタメ色を加えた路線からより堅実な方向へとまとまった、という感覚でしょうか。

新垣さん:平成26年度から、地域の皆様がご提供くださる古写真を使ってのトークイベントを開催しているのですが、この流れをそのまま活かそうという想いが強かったというのが大きいですね。賑やかで目新しい先端技術も楽しいのですが、そちらは期間限定イベントなどで活用した方が効果を発揮してくれそうですし。

-(パンフレットのイベント写真を見ながら)これはすごい、大盛況じゃないですか。行政と住民が一体となって地域の歴史を後世に継ぐ取り組みは、本当に素晴らしいことですよね。

新垣さん:ありがとうございます。ご参加くださる皆様も『なんデジ』をお楽しみいただいているとよいのですが。

-リアルイベントがこれだけの熱気ですし、写真もこれからずっと残っていくのですから、きっとお喜びでしょう。ところで、写真と言えば、サイトの画像は自由に利用できるんですね。

田村さん:はい、許可申請を省く方向で調整しました。『なんデジ』で公開している資料は、南城市のものではなく、誰でも自由に利用できる公共財であるという考え方からです。ただ、『南城アーカイブツーリズム』の作業も並行して進めていましたので、システムへの登録準備からホームページの構築まで、かなり大変な作業になってしまいました。

-「恒久的にご利用いただく」というのは、『なんデジ』プロジェクトの根幹部分ですよね。ちなみに、南城アーカイブツーリズムというのは?

田村さん: 地域から収集した古写真を活用した、まちなかの歴史体験型コンテンツです。市内に掲出されたポスターやステッカーのQRコードを読み込むと、南城市のマップが開いて、ポイントが落とされています。そのポイントをタップするとその場所の昔の写真、その写真にまつわるエピソードが現れるといものです。

-ということは、この短期間で位置情報まで登録されたのですか。確かに、それだけでも大変な作業になりますよね。ご苦労が偲ばれます。

 


-では、I.B.MUSEUM SaaSでの『なんデジ』構築作業について、もう少し詳しくお聞かせください。

田村さん:当市は4つの町村が合併したので、まずは資料の目録作りからスタートしました。平成30年度までに目録化したものは、今年度でほぼシステムに登録完了という段階まで来ました。写真や文書を中心に、7万点ほどになります。

新垣さん:次は情報公開に向けての準備ですが、こちらはまだ7千点ほどですね。

-これから増やしていかれるわけですね。参考にしたサイトなどはありますか?

新垣さん:はい。上島町デジタルアーカイブや野田市郷土博物館の資料データベースなどを参考にしました。野田市さんには、実際のシステムの見学までさせていただきました。御社のスタッフの方も説明のために南城市役所にご来庁くださって。機能面もさることながら、公開まで実施してもランニングコストが低く済むので助かっています(笑)。

-ありがとうございます(笑)。ところで、新垣さんと田村さんは役割分担しておられるのですか?

新垣さん:ええ。私はこの事業の立ち上げから携わっていて、当時から計画策定や有識者会議の開催などを担当してきました。

田村さん:私は主に実作業ですね。項目設定やメタデータの入力のほか、サイトでの配信内容を考えたり。システムのWeb-API出力機能を使っていますが、当時は事例が少なくてかなり苦戦しました。

-お手数をおかけいたしまして…。すでにジャパンサーチとの連携も実現されていますよね。

田村さん:ちょうどよいタイミングで、御社から連携機能が搭載されたというアナウンスがあったんです。それならぜひ使ってみようよ、となりまして。

新垣さん:ジャパンサーチとの連携については、実は市議会でも取り上げられたんですよ。とても高くご評価いただけて、嬉しく思っています。

-それはすごい。ご苦労が報われますね。

新垣さん:そうですね。正直、当初のエンタメ系からの路線変更は、イメージを伝えにくいこともあって周囲の反応はいまひとつだったので、開設後はしっかりとご理解いただけてホッとしています。

-実際、素晴らしい出来ですからね。何だか私まで鼻が高くなりそうです。

 


-さて、そんな『なんデジ』ですが、サイトの構築作業を通じてシステムをお使いいただく中で何か気になる部分などはありましたか?

田村さん:やはりWeb-APIですね。たとえば、システム上に登録した類義語辞書や資料のピックアップ機能は、公開用ページでは使えてもAPI側には反映できないですよね。このあたりが改善されると、幅がグッと広がるのでは。

新垣さん:今回、ホームページのような作りにしたのは、デジタルアーカイブのサイトでもコラムなどを掲載したいという理由もあったんです。一方で、 I.B.MUSEUM SaaSの公開ページを使うと、Webサイトから資料データに遷移すると別ウィンドウが開きますよね。これではデザインの一貫性が薄れるということでAPIを選択した、という背景がありまして。

-なるほど。確かに、APIを選択される館は、似た理由が多いかもしれません。具体的なとても事例として参考になります(メモ)。

田村さん:気になる部分と言えば、画像の一括アップロード機能ですが、1点ずつ照合する作業がもう少し効率的になるとありがたいですね。あとは、古地図のデータなどは容量が大きいことが多いので、1枚当たりの画像サイズの制限も少し緩めていただけると嬉しいです。

-確かに、古地図は細かな書き込みまで鮮明に見たいというご希望も多いでしょうから、もう少しアップデートすべきかもしれませんね。今後の検討課題とさせていただきますね。

田村さん:ぜひよろしくお願いします。

-では、最後に今後のビジョンなどを。

新垣さん:当面の目標は、まず公開データの点数を増やすことですね。『なんじょうデジタルアーカイブ』は市民の皆様とともに歩む視点を大切にしていますので、古写真のトークイベントで培った情報収集の仕組みも活かしながら、さらなる充実を目指していきたいと考えています。

-まさしく「デジタルアーカイブのあるべき姿」を見る思いです。今回はいろいろ学ばせていただくことができました。お二方とも、ご多忙のところ本当にありがとうございました。

Museum Profile
南城市教育委員会文化課 平成18年1月1日、1町3村の合併で誕生した南城市は、神の島久高島、世界遺産の「斎場御嶽」をはじめとする歴史の深い史跡や文化財を多数有するまち。令和3年3月に開設した『なんじょうデジタルアーカイブ』は、地域の風景や行事を写した貴重な古写真を中心に、伝統芸能の映像から貴重な文書まで、多様な資料群を公開中。素材提供や知識のガイド役となる住民と協働体制を取りながら、個性豊かな歴史文化情報を発信しています。

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