ミュージアムインタビュー

vol.183取材年月:2022年5月島根県立美術館

1年間の休館期間を利用して集中的にデータを登録。
これからさらに工夫して活用していきたいですね。
専門学芸員   河野 克彦 さん

-I.B.MUSEUM SaaSのご導入から、もう5年近くが経ちました。河野さんがご着任になったのは、その少し前ですよね。

河野さん:はい、2015年に着任しました。以前は同じ島根県立の石見美術館に在籍していたのですが、最近、あちらでも導入されましたね。

-ありがとうございます。県立2館が同じシステムということで、何か新しいことが生まれるのが楽しみですね。弊社も全力でサポートできればと思っております。

河野さん:ぜひよろしくお願いします。話を戻しますと、私が当館に着任した当時はFileMakerのほか大手ベンダーが開発したシステムを併用していて、そろそろ老朽化が気になるタイミングでした。

-システム導入の直接的なきっかけとなったのは、実は展示ガイドアプリの『ポケット学芸員』だったんですよね。指定管理者様から、インバウンド対応についてのご相談をいただいたことをよく覚えています。

河野さん:日本語・英語のナレーションの制作や、中国語・韓国語への翻訳もまとめてお願いしましたね。当館では音声ガイドを導入していなかったので、従来のサービスから移行するのではなく、コンテンツ作りから行う必要がありました。

-できる限り現場の負担を軽くするために、来館者配布用の作品カードの情報を利用する方法を採られたんですよね。収録ではイントネーションなど細部にもこだわって、とても充実した仕上がりになったと思います。

河野さん:制作中は、とにかく正しい情報を発信したいという一念でした。同時に、それ以前からの「作品データベースをどうするか」という課題に向き合う意味でも、ちょうどよい機会となりました。

-インバウンド対応とシステム導入で一石二鳥だったわけですね。

河野さん:そうですね。音声ガイドの導入と並行してポジフィルムのデジタル化も実施していたので、画像データの管理の面でもベストタイミングだったと思います。

-懸案の解決にも貢献できたのであれば、弊社としても嬉しく思います。

 


-システム導入の後、I.B.MUSEUM SaaSの公開機能でWebページを開設されましたね。公開用のデータベースはFileMakerに登録されていた情報がもととなったのですか?

河野さん:はい、解説用の原稿については作品カードも活用しましたけどね。FileMakerのデータは未完成の状態だったので入力項目はブランクばかりでしたし、公開できた作品もまだ限定的だったのですが、この時に全作品に番号を振ってデータ整備の準備を始めました。

-I.B.MUSEUM SaaSでは2種類の公開ページを運営できますが、先ごろ、そちらも実現されましたね。

河野さん:お陰様で、何とか漕ぎ着けることができました。学芸員が協力しながら項目を埋めましたので公開データもグッと充実しましたし、新たな収蔵作品も含めてご覧いただける点数も大幅に増えました。

-データ登録は集中的に作業されたのですか?

河野さん:はい。令和3年5月から1年間の休館期間がありましたので、再開館のスケジュールに合わせて「この機会に、自信を持って公開できるレベルまで一気に登録しよう」と。

-なるほど。ふたつ目の公開ページは画像も大きくて、以前から常設展示室の撮影を許可してこられたミュージアムらしいと感心していたんですよ。

河野さん:ありがとうございます。ひとつ目のページは収蔵品データベースとしての役割を意図していて、著作権法に配慮しての公開でした。そこで、ふたつ目はデジタルギャラリーと位置づけて、著作権が切れているものをより大きな画像でご覧いただくという主旨で立ち上げたんです。

-どちらも日英併記で、内容そのものも充実していますし、しかも両者はトップページから相互にリンクも用意されていて…。データ不足の状態からスタートしたとは思えないくらいの出来だと思います。

河野さん:そうご評価いただけると頑張った甲斐があります。ふだんは日常業務で忙殺されていて、データベースのメンテナンスになかなか時間を割くことができないので、一時休館の期間をうまく使うことができました。

-作業中、何かお困りのことはありませんでしたか?

河野さん:ええ。ふだんの利用も含めて、操作などで特に困っていることはないですね。

-本当に使いこなしておられますね。何かありましたら、ご遠慮なくお声掛けくださいね。

 


-ところで、公開ページでは、いま展示されている作品を展示室ごとに検索できる仕様になっていますよね。最初に見た時は、少し驚きました。あれ、ご準備がかなり大変になるのでは。

河野さん:はい、正直、大変です(笑)。常設の展示替えが多い分野もありますので。

-I.B.MUSEUM SaaSの作品利用機能で展示中の作品を自動的に呼び出すように設定しておられる館はあるのですが、どの展示室に何が展示されているのかまで表示できる例は、たぶん初めてじゃないかと思います。

河野さん:そうなんですか。あれは、ホームページのコレクション展のコーナーから5つの展示室の主な展示作品にリンクさせて、それぞれの展示室で見られる主な作品が分かるようにしているんです。展示室によって作品数が違いますので、どの作品を表示するかは担当が判断して決めています。

-システム上ではどんな管理をなさっているのですか? 複数の項目を掛け合わせているんですよね?

河野さん:ええ。作品側に「おすすめの作品」であることを指定する項目を作りました。同時に、「どの展示室にあるか」という情報をかけ合わせて検索することで、「いま展示室1で見られる主な作品」となるわけです。

-いや、もう、びっくりするくらいのご活用ぶりです。今度、改めて取材させてください(笑)。

河野さん:恐れ入ります(笑)。でも、作品利用の部分は使い始めたばかりで、まだこれからなんですけどね。ほかにも、システムからExcelで対象作品のリストを出力して、スタッフ間で共有したり。

-ここまで使いこなしておられると、逆に機能面などで足りない部分をたくさんお気づきになるのでは?

河野さん:機能よりも、使い方で少し迷っていることはあります。先ほども話に出た県立石見美術館との連携に関係することなのですが。

-どんなことでしょう?

河野さん:2館はともに同一のシステムを利用していますが、契約は別々で、データベースもそれぞれ独立しています。そうなると、たとえば2館一緒に実施している作品収集の審査会を行う際に、リストづくりはどちらで行うべきなのか…とか。あとは、作品の画像データを登録するタイミングなども。

-収集管理機能はあるのですが、セキュリティの関係もあって、現状では別の館がアクセスすることは許可していないんです。大変申し訳ないのですが、ひとまずExcelを介していただくしかないかもしれません。ただ、需要はありそうですので、検討課題とさせていただきますね(メモ)。

河野さん:ぜひよろしくお願いします。

-お手数をおかけいたします。本日はI.B.MUSEUM SaaS の賢い使い方をお客様からご指導していただく形となり、大変勉強になりました。本日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

Museum Profile
島根県立美術館 宍道湖の畔に1999年3月に開館した美術館。美しい夕日を眺められるよう、3月~9月の閉館時刻を日没から30分後に設定するなどのユニークな運営で知られ、「水と調和する美術館」「夕日に包まれる美術館」として多くのファンを獲得しています。「水」を描いた絵画を多数所蔵するほか、日本画、洋画、西洋絵画、版画、工芸、写真、彫刻とコレクションも多様。2022年6月にリニューアルオープン、今後の展開が楽しみな人気美術館です。

〒690-0049 島根県松江市袖師町1-5
TEL:0852-55-4700
ホームページ:https://www.shimane-art-museum.jp/