ミュージアムインタビュー

vol.150取材年月:2019年7月すみだ北斎美術館

データベースシステムは、作品情報の管理のみならず
外国人観光客へのサービスアップにも役立っています。
学芸員 竹村 誠 さん

-竹村さんご自身は、いつこちらに着任されたのですか?

竹村さん:当館の指定管理者を務める墨田区文化振興財団に入ったのは2008年です。

-こちらの開館が2015年ですよね。それよりかなり前ということになりますが。

竹村さん:もともと美術館の計画は30年くらい前からあったんです。バブル崩壊で一度凍結されて、その後東京スカイツリーで復活して…と、紆余曲折を経ていまして。東日本大震災の影響などで開館が遅れたという事情もあります。

-もしもスカイツリーが墨田区でなかったら、美術館ができていなかったのかもしれないわけですね。

竹村さん:そうかもしれません。

-作品は、まとまった数を寄贈なさった方がいらしたんでしょうか。

竹村さん:いえ。墨田区は北斎生誕の地ということで、「郷土の偉人の美術館を作って、地域の活性化に活かそう」という話が持ち上がったんです。計画ができる前は区として作品を所蔵していませんでしたので、作品の収集もそんな中で始まりました。

-確かに、世界に誇る偉人ですものね。文化資産として活かさない手はないと思います。

 


-さて、I.B.MUSEUM の導入は開館の少し前ですよね。導入前、作品情報はどう管理されていたのですか?

竹村さん:ファイルメーカを利用していました。開館にあたって「しっかりしたデータベースが必要」ということになって、専用システムの導入の検討を始めました。

-システムの選定作業はどう進められたのですか?

竹村さん:展示を担当する会社に中心となっていただいて、プレゼンテーションを見て決めたと記憶しています。財団は、区に対するアドバイザー的な立場で参画しました。

-I.B.MUSEUM に決定した決め手は?

竹村さん:こちらからの要望の実現性の高さや、他館での実績の豊富さなどがポイントでしたね。

-導入作業はいかがでしたか? スムーズに進むようしっかりお手伝いできたかどうかが気になりますが、大丈夫でしたか?

竹村さん:そうですね、データの移行は大変だったかな?

-えっ? 何かご迷惑をおかけしてしまいましたでしょうか(汗)。

竹村さん:いえ、御社の問題ではないですよ(笑)。「この機会に、画像をしっかり登録しよう」ということになったのですが、その作業がかなり負担が大きくて。特に当館は、版本の所蔵も多く、ひとつの作品に対して30枚から40枚の画像が付くものが何千冊とありますから。

-もしかして、『北斎漫画』ですか?

竹村さん:ええ。「この画像データはどの作品のものか」という関連性をExcelリスト化しましてね。御社の担当の方に画像ファイルの名前をリスト化する方法を教わったので、効率的に進めることはできたのですが…。

-なるほど。それはかなりの重労働になりますね。

竹村さん:そうなんです。ふたりがかりでチェックしながらの作業で、かなり時間がかかりました。

-ファイルメーカで管理しておられた当時は、画像は登録されていなかったんですか?

竹村さん:旧データでは、作品1点に対して画像1枚のみだったんです。2枚目以降は新規登録でした。

-それが何千冊分…考えただけでも気が遠くなる作業ですね。

竹村さん:そうなんですよね。でも、データを整備するよい機会ではありますから。

-その作業は、開館後も続いているのでしょうか。

竹村さん:ええ、開館後も作品は増えていますからね。でも、登録作業の時間がなかなか取れなくて、開館準備の頃のようには行きませんね。画像データ自体は作成しているので、画像の一括登録機能があるとよいのですが。

-当初の構築時にカスタマイズして実装しておけばよかったですね。想定が足りずに申し訳ございません。

竹村さん:いえ、あったら助かるだろうな、という程度の話ですので。それと似た内容になりますが、一覧画面上でのデータの編集ができると嬉しいですね。

-一覧画面上で編集、ですか。データを一気に見直したい場面があるということでしょうか?

竹村さん:そうなんです。「シリーズすべて見直す」ということがあるんです。

-なるほど。一括更新なら可能なんですけどね。画面上で見ながら編集するのではなく、リストを外に出してそちらを修正して、修正後のリストを丸ごと上書きする…という手順になりますが。

竹村さん:ええ、担当の方に相談したら、そういうご助言をいただきました。でも、まとめて書き換えてしまうのは何となく怖い気がして、結局は1点ずつ修正しているんです。

-修正中の画面をリアルタイムで確認できませんからね…。別の方法がないか、ちょっと検討してみますね(メモ)。

竹村さん:ありがとうございます。あと、展覧会作品リストの機能が便利なのですが、過去の展示情報を一目で確認できるようになっていたらよかったなあと思います。

-浮世絵ということで、作品に繊細な扱いが必要になるからですか?

竹村さん:もちろんそれも大事なのですが、それ以上に、作品名などの英訳の問題がありまして。

-展示履歴と英訳? すみません。少し詳しくお聞かせください。

竹村さん:最近はネイティブの方に英訳をお願いしているのですが、背景知識も含めてよく理解してくださっているので、翻訳の品質への評価はとても高いんです。現在は展示スケジュールに合わせて過去に作った翻訳原稿の見直しを進めているのですが、出品作品のリストを作る際に展示履歴が表示されていれば、その作品の英訳原稿を作成し直したかどうかがすぐに分かりますよね。

-なるほど。機能を改修したら費用が掛かってしまいますが、過去の翻訳データを備考など別の項目に移すなどで対応できるかもしれません。戻ってスタッフと検討してみますね(メモ)。

 


-さて、英訳と言えば、駅からここまでくる間にも10組以上の外国人観光客を見かけました。今日は休館日ですが、普段は外国人の来館者がとても多いのでしょうね。

竹村さん:そうですね、外国人へのサービスは、区としてもとても力を入れています。

-たとえばどんなサービスを?

竹村さん:当館の場合も、ホームページを日本語のほか、英語、中国語簡体字、中国語繁体字、韓国語と5か国語対応にしています。そのほか、英語のチラシを制作したり、常設展示室の情報端末も5か国語での情報提供を行ったり。

-システム導入がお役に立ったことはありますか?

竹村さん:あ、ありますね。当館の英訳はとても好評なので、その場限りではなく他の場面でも使えるように、翻訳原稿そのものをシステムに登録しています。その意味では、システムの活用は外国人向けのサービス向上にもつながっていることになりますね。

-なるほど。収蔵品管理システムがインバウンド対策に役立っているわけですね。それは新しい視点かも…(メモ)。

竹村さん:来年に向けてさらに外国人観光客が増えそうですので、うまく活用していきたいですよね。

-システムの提供者である弊社もお役に立てるよう頑張ります。本日はお忙しい中ありがとうございました。

Museum Profile
すみだ北斎美術館 北斎が生まれ、およそ90年の生涯のほとんどを過ごした墨田区に、2016年に開館した美術館。妹島和世氏設計の建物は、美術館そのものが作品と言えるほどのインパクトです。数々のコレクションとともに、タッチパネル式の情報端末や「アトリエ」再現コーナーなどで、画業や人柄を深く、楽しく知ることができます。有名な「冨嶽三十六景」をはじめ、「諸国瀧廻り」や「諸国名橋奇覧」などの代表作が情報端末で拡大してみることができる、北斎ファンの聖地です。

ホームページ : https://hokusai-museum.jp/
〒130-0014 東京都墨田区亀沢2-7-2
電話:03-6658-8936