ミュージアムインタビュー

vol.148取材年月:2019年6月浦安市郷土博物館

システムの導入は、起爆剤のようなもの。
データを充実させたら、もっと頑張りたくなるんです。
主任学芸員 尾上 一明 さん

-1年ほど前にI.B.MUSEUM SaaSをご導入いただきましたね。まずは経緯からお聞かせください。

尾上さん:当館は、開館以来20数年間にわたって体験学習や展示に力を入れてきたこともあり、資料整理の面では不十分な部分が多々ありました。近年は、「資料を次の世代に受け渡す」という観点を強化しようということになりまして。

-確かに、天ぷら屋さんや銭湯などの建物が並ぶ再現展示のクオリティは凄いですよね。でも、データの方も、導入からわずか1年で画像も含めて膨大な数の資料データの公開を実現されて、むしろ先進的かと。

尾上さん:ありがとうございます。頑張って登録を進め、公開した甲斐があります。担当学芸員間で「とにかく完璧でなくても公開してしまおう」と決心して…。公開点数は3万7千点を超えました。

-データ移行はExcelからでしたよね。

尾上さん:ええ。早稲田さんにデータ移行をお願いした画像は4~5,000点だったかと思いますが、現在は昔の写真などを中心に、公開点数ベースで16,000点ほどになりました。

-え、そんなに増えたんですか! 凄い…いったいどうやって進められたんですか?

尾上さん:紙のカードに貼られていたり、紙焼きのままという状態のものが多かったので、臨時職員にスキャニングしてもらった画像データを打ち込んでいきました。文書や民俗資料については、自分たちでも撮影をしています。

-もしかして、1点ずつ登録なさったのですか…?

尾上さん:はい。システムの画面で文字情報と照らし合わせながら。

-いや、本当に驚きました。だって、単純計算で日に50枚以上のペースで画像登録をされたことになりますよ? ほかのお仕事もお持ちでしょうに…。

尾上さん:システム導入が起爆剤になったのかもしれませんね。いろいろな情報を「見える化」できたことは大きかったです。今は、逆に「なぜ開館の時に導入しなかったんだろう」と不思議なくらいで。

-そのあたり、少し詳しくお聞かせいただけますか?

尾上さん:民俗資料などは形が様々なので写真がないとわかりにくいですよね。たとえば、網の名前ひとつを取っても、違う呼び方をすることもあります。データベースは一度登録しても、すぐ見直して修正する作業ができますので、画像や文字を登録して公開画面を見る、そこで間違ったところ、足りないところに気づく、そこで再度調査をして、登録をする、の繰り返しの作業が楽にできるようになりました。

-なるほど、確かに「見える化」ですね。

尾上さん:そうです。それと、公開したことで、さまざまなコミュニケーションも生まれましたね。たとえば、公開した写真の中に若い頃の元館長が写っているものがあったのですが、ご覧になったご本人から「これ、20代のおい(自分)だ」って教えていただいたり。

-なんだか、楽しそうですね(笑)。

尾上さん:そうなんですよ、休みの日にスマホで自館の公開ページを見るくらいに(笑)。ここまで公開したんだから、もっと充実させたいなあ…、ここを修正しなくちゃなあ…、ここはまだ調査研究が足りないなあ…、とか。

-なるほど、それが「起爆剤」効果なんですね。勉強になります。

 


-そのデータ移行を含めた導入作業そのものはいかがでしたか? スムーズに進みましたか?

尾上さん:ええ、まったく問題なく。逆に個々の学芸員のバラバラなExcelデータを、よくぞこのような形でまとめてくださったと感謝感謝です。

-本当に? 弊社の対応などにご不満な点もあったのでは?

尾上さん:いえ、ほとんどありませんでした。御社の皆さんは、この分野の仕事がお好きなんでしょうね? 変な言い方かもしれませんが、「営業で対応しています」という雰囲気がなくて、皆さんの「博物館」への思いを感じます。

-あぁ〜…みんなミュージアムが好きですからね、そう言えば。

尾上さん:学芸員だけでは分からない部分を、随分フォローいただきましたよ。私たちはデジタル化には全くの素人なので、デジタルのプロとしての助言や、一緒になって取り組んでいただいたりと、こちらの足りないところをカバーしてくださるという感じで。これも変な表現ですが、楽しかった印象が強いですね。

-ありがとうございます…(涙目)。会社に帰って必ず伝えます。

尾上さん:ぜひ。「いつもありがとうございます」と。

-こちらこそ。ところで、いま学芸員の仕事の領域の話が出ましたが、データの入力は、それこそ日常業務外のプラスアルファの仕事ですよね? なぜここまでデータ整備が前進したのでしょうか?

尾上さん:今までは、企画展を抱えながら、ほかのイベントにも追われていたんです。充実感も達成感もありますし、皆さんがご評価くださると喜びもあるのですが、でも「資料があっての博物館」じゃないですか。展示会や体験学習の基本にある、資料整理が全くできていない、との反省が強くありました。

-確かにそうですね。

尾上さん:ですので、たとえば学校への対応は教員経験者のスタッフに主に担当していただくなど、まずは「きちんと資料と向き合おう」という方向になりまして。

-なるほど。尾上さん個人だけでなく、館としてのご決断があったわけですね。システムの導入前後で、ほかに業務面で変わったところはありますか?

尾上さん:一番大きいのは、マスコミからの問い合わせ対応ですね。以前は電話で逐一要望をお聞きしていましたが、今は公開ページをお知らせしてご自分で探してもらっています。

-それはほかの導入館でもよく耳にしますね。あと、システムの機能面でのご不満は?

尾上さん:そう言えば、画像の一括登録がもう少し簡単だとありがたいですね。操作を教えていただいたんですが難しくて、1点ずつの登録に戻しました。

-それは申し訳ございません。確かに少し手順が複雑ですので、社内でも議論してみますね(メモ)。ほかには?

尾上さん:先日、関連資料の登録方法を教えていただいたのですが、あの機能は奥が深そうですね。

-詳しくお聞かせください。

尾上さん:写真や資料など、分野をまたぐ形で関連付けていけるのは、いろいろな分野が共存する博物館ならではの醍醐味にもつながりますので、何らかの形で情報発信できないかな、と。こういう工夫は、当館のように小規模な博物館の方がやりやすいでしょうし。たとえば、アオギス釣りの脚立の資料なんかはピッタリかな…?

-それは楽しそうですね! こういうアイデアは個人的にも大好きですので、ぜひお願いしたいくらいです。

※取材後、サイトを見たら実現されました。本当にお仕事が早いです…。
http://jmapps.ne.jp/urayasufkm/det.html?data_id=13976

 


-では、導入から現在までの歩みを、改めて振り返っていただけますでしょうか。

尾上さん:データ整備が遅れていたことは、資料をご提供くださった皆様にも申し訳なく思っていたんです。それが解決に向けて歩み始めたことが何より嬉しいですね。あとは、情報を「見える化」できたこと。各自がExcelで別々に管理した情報を共有し、継承のレールに乗せられたことも大きいです。

-今後に向けてはいかがでしょうか。

尾上さん:登録したい情報がまだまだたくさんあります。たとえば、アバリ(漁網を編む針)ひとつとっても、こんなに(報告書を開きながら)情報があるのです。引退される漁師さんも多いですから、急がないと。

-これほどのスピードで進められても「時間が足りない」ということですね…。

尾上さん:その意味では、今はまだスタート地点に立ったところです。私もあと数年で引退のときを迎えますので、次の世代に託せるデータベースにしたいと思っています。これからも頑張りたいです。

-私たちも全力でサポートさせていただきます。本日はありがとうございました。

Museum Profile
浦安市郷土博物館 巨大テーマパークで有名な街の、もうひとつの等身大体験! かつて漁師町として栄えた浦安の個性あふれる文化を肌で実感できる博物館です。屋外展示場「浦安のまち」では、昭和27年ごろの活気あふれる姿をリアルに再現。船の展示室「海を駆ける」では、漁船を作る伝統技術に関する資料が展示されています。散策感覚で郷土史を楽しめる、家族でのお出かけに最適な体験型ミュージアムです。

ホームページ : http://www.city.urayasu.lg.jp/kanko/kyodo/
〒279-0004 千葉県浦安市猫実一丁目2番7号
電話:047-305-4300