ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

今回も海外編・第3弾のミュージアムリサーチャー。情熱の国スペインからのお届けです。世界でも有数の規模と内容をもつ『プラド美術館』からの訪問記です。 あいにくの天気だったようですが、やはり有名美術館ですね!
今回は前後編に分けてお届けします。

プラド美術館レポート 前編

新館入口。あいにくの雨にも関わらず
長蛇の列。

世界三大美術館のひとつに数える人も多い、近代絵画ファンにとっては憧れの美術館。プラド美術館史上もっとも大規模な増築工事が終わり、展示スペースやカフェ、ミュージアムショップを含む新館が10月の末に一般公開されたばかり。期待に胸を膨らませながら美術館に向かいます。朝一番で雨模様にもかかわらず、チケット売り場には長蛇の列。雨に濡れながら待つこと30分、やっと館内に入ることができました。

せっかくなので、新スペースで行われている企画展からまわろうと、受付で案内地図をもらいます。企画展は、「ベラスケスの寓話」、「プラドの19世紀」、「ゴヤ The butterfly Bull」の3つ。常設展示の中だけでも観たい作品が山のようにあるのに、企画展が3つ…。軽く眩暈を覚えます。

私が美術館を歩くときのルールにしているのは、「観たいものから先に!」です。食べ物にかんしては好きなものを一番最後にとっておくほうなのですが、美術鑑賞にかんしては逆です。体力のあるうちに良いもの(というか、自分が好きなもの)を観ておけば、アドレナリンが出て、一日集中力を切らさずにまわることができるからです。時間がなくなって好きな作品の前を駆け足、という事態だけは避けたいですし・・・。

ということで最初に優先順位を決めて、「ベラスケスの寓話」→ 常設展 →「プラドの19世紀」→「ゴヤ The butterfly Bull」の順にまわることに。この作戦は功を奏して、丸一日かけてなんとか回り切ることができました。
それぞれに素晴らしく充実した内容でしたが、今回は個人的に一番面白かった「ベラスケスの寓話」展についてご紹介したいと思います。もっとも、この企画展のカタログはスペイン語版しかなく、スペイン語の読めない私は残念ながら購入を断念しました。よって以下は、私の独断にもとづく、極私的ベラスケス展鑑賞記です。まとはずれな解釈には前もってお詫び申しあげます。ただ少しでも感動がお伝えできればよいのですが・・・。

「ベラスケスの寓話:黄金時代の神話と秘史
(Velazquez’s Fables. Mythology and Sacred History in the Golden Age)」展

Paseo del Pradoに面したベラスケス門。
ベラスケスの彫像が出迎えてくれます。

プラド美術館が誇る収蔵品のなかでも最大の目玉でもある、ディエゴ・ベラスケスについての展覧会です。リアリズムの時代から最晩年に至る画業を、神話とキリスト教の物語を主題とした作品に的を絞って紹介しています。

展覧会は大きく7つのセクションに分けられています。それぞれの時期のベラスケスの代表作を、彼が影響を受けた画家や彼の同時代の画家、例えばカラヴァッジオやティツィアーノ、プッサンなどの作品と並べて展示しています。
ベラスケスの作品が28点、その他の画家の作品が24点と、作品数はけっして多くありません。しかし、的確なテーマ設定と厳選された質の高い作品からなる構成で、ベラスケスという画家の全体像に生き生きとした光をあてることに成功している、すぐれた展覧会です。

ディエゴ・ベラスケス
《バッコスの勝利(酔っ払いたち)》
1628年頃
Diego Velazquez,
“Tr-iunfo de Baco (Los Borrachos”

たとえば、“神話とリアリティー:酔っぱらいたち”のセクションでは、ベラスケスがカラヴァッジオ的なリアリズムの手法で制作した、《バッカスの勝利(酔っぱらいたち)》が中心に据えられています。これをめぐって、カラヴァッジオの《果物籠をもつ少年》、そしてプッサンのバッカスを主題とした作品が並べられていました。

バッカス神を荘厳な筆致で描き出すフランスの古典主義派の巨匠、プッサンにたいして、同時代の市井の人々の宴会を写実的に描きながら、それをもって古代バッカス祭の描写とうそぶくベラスケス。絵画のテーマとして、神話・宗教的なものが一般的であった当時のスペインにあって、市民の日常生活を描きながら、画面にキリスト教的なモティーフを紛れ込ませることで宗教画として成立させてしまう手法は、ベラスケスが以前から行っていたものでした。カラヴァッジオの影響がはっきりと認められるこの作品では、「神話」というテーマと「リアリズム」という手法の意識的な齟齬が劇的に表現されています。その迫力は本家、カラヴァッジオをも凌ぐほどで、おもわず物語ることと描くこと、虚構と真実などという遠大なテーマについて、思いを誘われてしまいました。
(後編に続きます…)

【プラド美術館 Museo Nacional del Prado 】

http://www.museoprado.es/ (スペイン語、英語、日本語※)
※主要作品紹介とインフォメーションのみ

【ミュージアム情報】
●所在地

Paseo del Prado s/n. 28014. Madrid

●アクセス
地下鉄:Banco de Espana駅、アトーチャ(Atocha)駅
バス:路線9, 10, 14, 19, 27, 34, 37,45
電車:アトーチャ(Atocha)駅

●開館時間
9時~20時
12月24日、12月31日、および1月6日:9時~14時
(受付は閉館30分前まで)

●休館日
毎月曜(月曜の祝日を含む)、12月25日、1月1日、聖金曜日、5月1日

●入館料
常設展:6ユーロ(割引3ユーロ)
企画展:随時料金設定

芸術の散歩道共通チケット:14.40ユーロ
(プラド美術館、ティッセン・ボルネミッサ美術館、ソフィア王妃芸術センターにそれぞれ一回ずつ入場できる共通チケット。一年間有効。企画展の中には入場できないものもあるので、別途チケットを購入する必要があります。)

無料入館日:
日曜の9時から19時
10月12日(コロンブス記念日)
11月19日(プラド国立博物館記念日)
12月 6日(スペインの国民の祝日)
5月 2日(マドリッド地区の公式祝日)
5月18日(国際美術館デー)