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わせだマンのよりみち日記

2022.05.17

橋渡しのデジタルアーカイブ

#私的考察

このブログもそうですし、弊社で不定期刊行中の『MAPPS Press』などの掲載記事もそうです。弊社スタッフの多くは、これまで数え切れないほどのミュージアムを訪問していますが、どの館にも共通しているのは「必ず知的好奇心を満たしてくれる」こと。たとえこれまで関心を持ってこなかった分野でも、個人的な関わりが皆無だった地域の歴史でも、自分自身が本気見ようとすれば、そこには必ず「知」や「美」の興味深い物語がある。そこに例外はありません。

前回、このブログでご紹介した三陸の北端にある小さな資料館の訪問は、まさにその典型でした。展示を解説してくださったのはかつての館長、現在は地元の郷土史家の方。ブログでは控え目にお伝えしましたが、実際はボケとツッコミのような「ぶっちゃけ話」満載のやり取りで、渋谷や原宿の街を歩く若者たちにも聞かせてみたいくらいでした。何しろ元館長ですから展示を知り尽くしておられるわけですが、こうした「楽しさ」「面白さ」をもっと広く知らしめることができれば、地域の中でのミュージアムの価値はきっとさらに高まるはず…と確信しました。そう、いつもの訪問記と同じように。

DX時代に突入する現在、デジタルアーカイブがこのまま順調に発展すれば、学芸員の膨大な専門知識をひとつの場所に集約できることになります。となれば、あとは語り部。館長や学芸員・職員自身はもちろん、いずれは今回のような郷土史家や地域の研究者・教育者とも連携が取れるようになるかもしれません。オンラインをうまく使えばさらに広い交流も可能になって、「知りたいことの宝庫であるミュージアム」をいろいろな角度から案内しあえる仕組みを作ることもできるでしょう。

学芸員を中心として、時空を超える形で人々の「輪」と「和」を作ることに役立つツール。デジタルアーカイブの魅力のひとつであり、それを各館で構築するためのサポートを行うのが弊社の仕事でもあるわけですが、実際にはいくつものハードルがあるのことも事実です。たとえば、システムに登録するデジタルデータひとつを取っても、多くの館にとっては情報を整備すること自体が難関。誰が入力するのか、誰が検証するのか、誰が公開データを整えて誰がメンテナンスを担うのか…。悩ましいところです。

上の黒板画(?)の写真は、件の資料館を訪問後、帰りの電車の時間までひと休みしたカフェで撮ったものです。とても居心地の良いお店と、その雰囲気にマッチした素敵なイラスト。スタッフの方に「素敵な絵ですね」と声をかけると、「地域おこし協力隊の方が描いてくださったんですよ」とのこと。それを聞いて、展示ガイドのナレーターを務めてくれる地元高校の放送部員たちを思い出しました。弊社システムのユーザ館には折に触れてご紹介し、最近は目に見えて増えている事例なのですが、腕試しや晴れ舞台ともなることから高校生側にも、そして来館者にも大好評の企画。もしかしたら、世の中には想像以上に「三方よし」的なチャンスがあふれているのかもしれませんね。

デジタル対応の環境は整いつつあり、AI技術も進展中。ですが、いましばらくの間で言えば、主役はやはり人間です。マンパワー不足に悩むミュージアムがあれば、地域の文化の維持発展で力を発揮してくれるかもしれない人々もいる。その間にデジタルツールの橋渡しがあれば、何かが動いたりもするのでは。

…と、とある館からいただいたご相談ごとに思いを巡らせながら黒板の絵を眺めるうちに、気付けば電車の時刻が迫っているのでした。

 


取材協力 喫茶とスペース ヒロノバ(岩手県洋野町) https://space-hironoba.com/

…イラストのハンバーガーは木曜日限定とのことですのでご注意ください。