2026.03.17
小さく生んで大きく育てる、持続可能なデジタルアーカイブ ~長井市デジタルアーカイブ
提供機関 | 山形県長井市
URL | https://yamagata-nagai-archive.jp/
構築方式 | オリジナルサイト・リンク方式
最上川の舟運で栄え、約500種100万輪のあやめが群生するあやめ公園をはじめ、ながい黒獅子まつりや桜・白つつじ・あやめなど四季を通じて話題と見どころが多い山形県長井市。令和6年12月に開設した市のデジタルアーカイブでは、市制60周年事業として編纂した全6巻の市史で紹介されている資料をはじめ、歴史・芸術・文化に関する2,000件近い資料が公開されています。現在の規模はまだ大きくはありませんが、オリジナルで制作した特設サイトとの連携で、効果的に見せる工夫が満載。「小さく生んで大きく育てる」お手本のような仕上がりです。

「推し」と市史、施設をバランスよく紹介
では、特設サイトの内容をざっと確認していきましょう。I.B.MUSEUM SaaSのデータベース公開ページ開設から約2か月後に設置されたもので、名称は「長井市デジタルアーカイブ」。トップページ上部の一番右にある「収蔵品をさがす」ボタンをクリックすると、ジャンル別に検索結果を表示するデジタルアーカイブへの入口へと移動します。まだ準備中の分野の方が多いのですが、シンプルながら活力を感じるこの特設サイトのおかげで、すでにデジタルアーカイブとしての将来性が伝わってきますね。
トップページでは、特設サイトの目玉となる「おすすめコンテンツ」の3つの大きな画像が目を引きます。これは、「この地を知らない方でも気軽に検索できるように」という配慮から設置された、ひと目で分かるリンクボタン。たとえば、先頭の「長沼孝三の彫塑をめぐる」をクリックして開くと、彫刻家・長沼孝三の人物像やコレクションの特徴についてのコンパクトな解説ページが表示されます。読み終わったら「長沼孝三の彫塑をめぐるはこちら」のリンクをクリックし、データベースで検索した状態のコレクション一覧画面に直接ジャンプすることができます。

トップページに戻って少し下にスクロールすると、市史のコーナーがあります。ここでは、市制60周年の記念事業として編纂された全6巻の紹介に加えて、データベースから約900件の資料を閲覧できる「長井市史ダイジェスト」を用意。通史全4巻・各論全2巻から、主要な資料の図版と解説の要約が収録されています。市史本体の収録資料すべてを並べると大変なボリュームになりますが、このダイジェスト版なら市史の全体像や魅力の大枠を短時間で把握することができますね。また、市史に関しては不定期連載のコラムもあり、現在は第1話を公開中。今後の続編が楽しみです。
「市内の文化施設」では、長井市古代の丘資料館、文教の杜ながい、長井市民文化会館という3つの個性的な施設が紹介されています。ボタンをクリックすると、それぞれの特徴を簡潔にまとめたテキストを添えたエントランスページが表示され、リンクからは各施設のホームページへ。観光客に向けた文化施設の分かりやすい案内として、効果的に機能しています。
この特設サイトは全体的にシンプルな印象ですが、長井市を訪れる観光客や興味を抱いた人々が市の歴史や文化にまつわる情報を気軽に調べる上では要点を押さえたとても便利な作り。なお、先ほどの「長沼孝三の彫塑をめぐる」の検索結果一覧ページからは街歩きに使える彫塑マップのPDFファイルをダウンロードできるなど、実用的なサービスも内包しています。

「未完成」「成長途上」は、裏を返せば「将来性」
さて、特設サイトと連携するデジタルアーカイブでは2,000点近い作品・資料が公開されています。前述の通り「収蔵品をさがす」のコーナーでは閲覧できる分野をざっくりと見渡せるボタンがずらりと並んでいますが、とは言え、まだ「準備中」の方が多い状態。このような場合、かつては「もっと公開データが揃ってから公開した方がよいのかな」と考えるケースが多かったのですが、最近は「小さくスタートして少しずつ拡張しよう」というコンセプトで公開を早める事例が増えています。
実は、この方法は、閲覧者に対して今後の展開への期待感をアピールするコツでもあります。アクセスするたびに「おっ何か増えているな」と感じさせれば、「また覗いてみようかな」という気持ちを刺激するきっかけにもなるわけですね。長井市デジタルアーカイブも実際にデータが随時追加されている上に、情報さえ揃えば自由にコンテンツを増やせる仕様なので、郷土作家や名所などのテーマを追加することも可能。未完成であること、成長途上であることは、うまく活かせばデジタルアーカイブとしての将来性の訴求にもつながるのです。
「小さく始めて大きく育てる」モデルケースとして
データベースシステムを導入したのは令和6年10月で、その2か月後にデジタルアーカイブを公開。そこからさらに2か月後に特設ページを開設…と、驚くべきスピードで情報発信体制の整備が進む長井市。とても力強く歩んでいる印象ですが、これは「最初から完璧を望まない」という柔軟な方針の賜物とも言えます。
注目したいのは、「後から追加が可能な仕組み」「少人数でも運用できる体制」の2点。公開情報の器となるクラウドサービスI.B.MUSEUM SaaSの月額利用料は登録・公開データを増やしても常に一定ですので、公開できるデータが整い次第、自由に追加していくことができます。また、連携する特設サイト側も、「おすすめコンテンツ」をはじめ多くのコンテンツが職員だけで編集可能な仕様となっている点もポイント。大きく育てるための環境を確保できれば、小さく始めてもまったく問題ないわけですね。

もうひとつ、この事例でお伝えしておくべきことは、スタート時とその後の人員配分の妙です。開設に向けてのデータづくりでは地域おこし協力隊の方々が大活躍しましたが、その後は担当課の職員と元職員を含む3名の臨時職員の方がコツコツと作業を続けています。データの追加は地味で根気が必要な作業となりますので、いかに継続できるかが「成長するデジタルアーカイブ」の実現の鍵となるのですね。今回は実際に現場を取材しましたが、「地域の魅力を知らせたい、次代に伝えていきたい」という職員の皆さんの想いが伝わってきました。デジタルアーカイブの成功は、まずは最初の一歩を踏み出す決断と、ゆっくりでも歩みを続ける持続可能性にあるのです。


