2026.04.06
ジャパンサーチ上のデータを展覧会や館運営に活かす方法 ~福岡市博物館
幅広い分野のデジタルアーカイブと連携し、多様なコンテンツをまとめて検索・閲覧・活用できるプラットフォーム、ジャパンサーチ。国主導で運営されているこの巨大な統合ポータルでは、見つけた画像やメタデータを登録して「自分だけの展覧会」を作成・公開できるギャラリー機能を備えています。これは一般利用者に広く提供されている機能ですが、自由に使えるということは、もちろん博物館側で利用することも可能。そんなわけで、ここでは単なるWeb展覧会に留まらず、館運営にも好影響をもたらす印象的な活用事例をご紹介します。

特別展『魔法の歴史スコープ ~見つめてみよう福岡の今~』
2026年2月21日(土)から4月12日(日)の期間、福岡市博物館でユニークな展覧会が開催されました。人と環境の関わりをテーマに「2000年後の未来からの視点や過去からの視点で今を見つめ直す」という設定で、「魔法の歴史スコープ」の視点を切り替えながら展示を楽しむという仕掛け。特定の地域の長い歴史を辿る展覧会は時代軸に沿って出来事を追うのが一般的ですので、趣向を凝らした見せ方です。
展示の中にもちゃんと「取扱説明書」が掲載されている、歴史の望遠鏡。今回は初の試みということで、歴史スコープも記念すべき「初代モデル」となります。設定されているテーマは、森、川、海、町の4つ。スコープは、それぞれのテーマの中で照準を切り替えながら、古代から現代までを俯瞰することができるわけですね。
これは面白そう…ということで、今回は特別に取材させていただきました。当日はオープンの前日で、スタッフの皆様が走り回るような忙しさ。もちろん、お邪魔にならないよう隅っこでの見学でしたが、ひとつ気になることがありました。というのも、この特別展では学生が制作した作品も展示されたのですが、これらは作品制作に先立って館側がジャパンサーチのギャラリーを作成し、その資料群から着想を得て制作されたというのです。これも興味深い試みということで、ご無理を承知でお話を伺いました(スタッフの皆様、ありがとうございました)。
ジャパンサーチのギャラリー機能
ジャパンサーチのギャラリーは、公開されているコンテンツをテーマや人物ごとにまとめて紹介するWeb展示機能です。今回は、この機能を通じて、同館の所蔵資料のうち江戸時代の花に関連する資料を集めたコレクションが公開されました。それがギャラリー『“博”花繚乱 ~福岡市博物館に咲き乱れる花々~』で、【研究対象としての花】【江戸時代の人々と花】【もっと深掘り】【クイズ】という4つのテーマで構成されています。

たとえば【研究対象としての花】には、薬種商で本草学者でもあった内海蘭渓がまとめた『本草正画譜』という江戸時代後期の植物図譜や、第11代福岡藩主の黒田長溥が残した植物図鑑『本草図』が収録されています。一方、【江戸時代の人々と花】で紹介されているのは、衣服や絵画、道具の中に登場する花々。同じ花でも、切り口が違えばクリエイターはまったく異なるアイデアをつかむでしょうから、閃きが欲しい制作者にとってはこれだけでも見応え十分のはずです。
このギャラリーは制作に臨む学生たちのために作成されたのですが、館内でお話を伺うと、実は「こっそり公開していた」のだとか。ジャパンサーチのトップにある新規ギャラリー紹介のコーナーに敢えて掲載しないなど、特に大きな告知をしないまま公開したわけです。ガチガチの限定公開にはしなかった、この緩さも面白いですよね。
江戸の絵師と令和の学生の競作も!

さて、学生たちは実際にギャラリー『“博”花繚乱 ~福岡市博物館に咲き乱れる花々~』に掲載された資料の中からモチーフを選び、実物資料の見学会を実施。インスピレーションを得て自らのモチベーションを高め、イマジネーションを膨らませて作品を制作しました。取材当日は、こうして完成した作品の展示作業の真っ最中だったのですが、今回は花がテーマということもあって気分が明るくなるような作品がズラリ。見るからに若々しくエネルギーにあふれたものばかりで、圧倒されました。
なお、特別展の開催期間は『花爛漫(らんまん)の江戸時代』という企画展も同時開催中。この展覧会では、ジャパンサーチ上のデジタルデータを通じて学生に刺激を与えた「原作」も一緒に展示されていました。つまり、江戸と令和のクリエイターの作品を、同時に同じ空間で観ることができたのです。まるで時代を超えた競作のようにも見えて、不思議な感覚に包まれました。
では、実際に見比べてみましょう。左の写真の大きな牡丹が学生の作品で、中央がこの学生が参考にしたと思われるジャパンサーチのギャラリー画面、そして右が実際に展示されていた元の資料です。オリジナルは、江戸時代の文人・亀井少琹の『牡丹図』という資料。こうして並べると、ジャパンサーチが江戸時代の画家と令和の学生をつなぐ「歴史スコープ」の役割を果たしたことが分かりますね。

次も牡丹図ですが、モノクロ印刷となるのが残念なほど明るく華やかな作品です。左が学生による作品、中央が参照したジャパンサーチ、右の写真の左側に写っているのは歌川芳盛の『牡丹図』。古の絵師のセンスを再構築したフラワーアートのようで、まさに競作といった趣です。

このように、オリジナルの作品が平面であるのに対し、学生の作品の多くは立体的なのも時代性を感じます。それを特に感じたのが『梅牡丹鴛鴦図屏風』という作品です。2つの作品を比べると、学生作品では凹凸が効果的に使われています。また、作品の奥に小さな箱が設置されているのにお気づきでしょうか。この箱にはたくさんの花が入っていて、来館者が作品に花を貼ることができる仕掛け。数百年の時を超えて「みんなで満開にする」というコラボレーティブな作品へと生まれ変わらせたわけです。

なお、私がお邪魔してこの写真を撮影したのが開幕前日の2月20日、その1週間後には写真左のように咲き始め、3月19日には右のように花びらがはみ出すほどの満開になったとのことです(博物館の方から写真を送っていただきました)。

ちなみに、オリジナルの『梅牡丹鴛鴦図屏風』も企画展示室で実物を観ることができました。歴史を感じる重厚な色味と屏風の形状を見ると、2つの時代の特性がさらに際立ちますね。

ところで、ジャパンサーチのギャラリー画面には「収録元データベースで開く」というリンクがあります。これをクリックすると、I.B.MUSEUM SaaSで構築された福岡市博物館の収蔵品検索ページが開きます。ここには展覧会詳細ページへのボタンが設置されていて、展覧会の詳しい情報も閲覧することができるようになっていました。異なるサイトの間をまたぐ形で感覚的に回遊できる情報動線の設計が秀逸ですね。

「Web展覧会」を超えたギャラリー活用法
リアル空間とデジタル空間を上手に接続する福岡市博物館は、ギャラリーを6種類も公開しているジャパンサーチの「ヘビーユーザー」でもあります。ここではもうひとつ、注目の活用法をご紹介しましょう。
同館では、毎年開催する新収蔵品展で展示される資料群を、ジャパンサーチでギャラリーにまとめて公開しています。展覧会の会期中に図録として閲覧できるのはもちろんですが、実は終了後もギャラリー上に残り続けます。これは単に展示作品をアーカイブするだけでなく、寄贈者への感謝のしるしでもあるのです。
それを象徴するのが、感謝状とともに寄贈者に贈られる、QRコードを掲載した名刺サイズのカードです。新収蔵品を紹介する展覧会に正装で参加する寄贈者もおられる通り、代々受け継がれた大切な品を博物館に託す時にはいろいろな想いが去来するもの。館としては展示で応えたいところですが、膨大な資料を所蔵する中では、常設はなかなか叶いません。そこで、このカードからギャラリーを辿れば、いつでも「会う」ことができます。しかも、ジャパンサーチは国のプラットフォームであるだけに、博物館で大切に保管されていることが伝われば、お喜びいただけるのではないでしょうか。
江戸の絵師と、令和の学生。寄贈者と、今は手から離れてしまった資料。ジャパンサーチのギャラリーを単なるデジタルデータのWeb展示ではなく、2つのリアルをつなぐ橋という新たな活用法を生み出した福岡市博物館の試みには拍手を贈りたいと思います。「博物館のデジタルアーカイブは、実はこんなに温かくなれる」という気付きを得ることができた取材でした。
ジャパンサーチギャラリー 「“博”花繚乱~福岡市博物館に咲き乱れる花々~」
https://jpsearch.go.jp/gallery/FCM-XD9QBRYMnWj#1pc3wk51p8ryxb
ジャパンサーチギャラリー 「第37回新収蔵品展 ふくおかの歴史とくらし」
https://jpsearch.go.jp/gallery/FCM-OKrPJpgVgad
福岡市博物館特別展「魔法の歴史スコープ~見つめてみよう福岡の今~」
https://museum.city.fukuoka.jp/exhibition/special/2025/magical-history-scope/
福岡市博物館企画展示「花爛漫(らんまん)の江戸時代」
https://museum.city.fukuoka.jp/exhibition/626/

