2026.03.25
大学生が展示ガイドにもたらした「逆転の発想」 ~ロマンスカーミュージアム
ロマンスカーミュージアムを運営する小田急エージェンシーには、「大学生だけで構成された架空の部署」をコンセプトとした社内コミュニティがあります。『わかものがかり』と名付けられたこの「部署」では、先ごろ専修大学・文学部ジャーナリズム学科で広告コミュニケーションを学ぶ平井信太郎ゼミとコラボ。2026年1月31日から2月23日にかけて、産学連携による館内イベント『ロマンスカーミュージアムでかくれんぼ』を開催しました。大学生たちのアイデアが随所に活かされ、通常の来館者サービスの動線を逆手にとったユニークな協業プロジェクト。今回は、同社の知野芙佑子さんに舞台裏を伺いました。

外部の視点が持ち込んだ音声ガイドの新発想
わかものがかり×平井ゼミのプロジェクトでは、「ロマンスカーミュージアムにワカモノが行きたくなるアイデア」をテーマに全5回のワークショップが実施されました。ロマンスカーミュージアムを訪問してのフィールドワークに始まり、館内で感じたことをワークシートに記録して感想を語り合いながら、それぞれにアイデアを考案。中間発表とミュージアム側からのフィードバック、最終案のプレゼンテーションを経て、採用企画が決定しました。知野さんによれば、学生たちの提案はどれも新鮮で、最終的には実に10案近いアイデアが集まったそうです。
同館2階のジオラマパークで開催された『ロマンスカーミュージアムでかくれんぼ』は、I.B.MUSEUM SaaSが提供する展示ガイドアプリ〈ポケット学芸員〉を活用し、音声ガイドと謎解き捜査(?)を掛け合わせた斬新な館内イベント。「実在の場所を模した大きなジオラマ内にいる人が喋ったら面白いかも」「音声ガイドを情報源に、その人の居場所を探すゲームにしたら楽しいのでは」といった感じで、ひとつのアイデアに別のアイデアが加わり、充実の内容へと仕上がったようです。外部の視点、若者たちの発想は、どんな楽しさを提供してくれたのでしょうか。実際に体験してきました。
『ロマンスカーミュージアムでかくれんぼ』を体験してみた

一瞬「実際の新宿西口の写真かな」と思う左の写真は、展示されているジオラマです。こうして見ると、本当によくできていますね。その隣に掲出されていたのが、右の『ジオラマパークでかくれんぼ』の解説看板。今回のイベントの遊び方の説明と、小田急線沿線の街を舞台にした全5問の問題のタイトルが分かりやすくまとめられています。
ポケット学芸員は、番号を入力すると館が配信するコンテンツを利用できるスマホアプリ。通常は、展示資料の近くにパネルが設置されていて、そこに記された番号を入力すると音声や解説文、画像などにアクセスできます。これが多くの博物館で実際に運営されているスタンダードな使い方なのですが、学生たちは「逆転の発想」でアプリを活用。まず先に番号を入力することで情報を授けられ、それを頼りにジオラマ展示の中にいるはずの特定の人物や場所を捜索する…という動線を作り出したのです。なるほど、まさに「かくれんぼ」ですね。
では、チャレンジしてみましょう。いざポケット学芸員に番号「1」を入力してみると、『駆け上がれ「スーパーヒーロー」(ヒント編)』という情報が表示されました。つまり、「このジオラマのどこかに隠れている男を探し出せ」というミッションになっています。ジオラマの中の彼は、「高層ビルの屋上」「小田急百貨店やビックカメラなどの看板が見える」とアピールしています。ヒントを手掛かりに捜索すると、おっ、いましたいました! 写真で分かりますでしょうか、ビルの壁!

目的の場所を発見すると、近く小さな札があります。ここに記された番号が、解答編にアクセスする暗号。スマホを取り出し、確認した番号「11」をポケット学芸員で入力すると、答え合わせの音声ガイドを聞くことができます。テキストとともに表示される写真も、確かに同じ場所ですね。無事に正解し、ジオラマの街の豆知識もゲットです。
電車は進んで、次の舞台は下北沢。ライブハウスの音響係を探すという問題2を解いたら、札にある「12」を入力すると、答え合わせが始まります。こんな感じで、ヒント編に10を加えた番号が解答編となるのですが、ジオラマ内の札をきちんと見つけて番号を読み取るのが正しい攻略法です。

「これは楽かも」と思った矢先の3番目・江ノ島水族館では、少し苦戦してしまいました。片瀬江ノ島駅と江ノ島は分かるのですが、イルカショーが行われる水族館は確か駅から西に向かって進むはずだから…あれ? と何度か躓きつつ、ようやく見つけました。うん、確かにヒント編の内容通り、大人と子どもの家族連れで賑わっていますね。

次はさらに難易度が上がります。番号「4」は、あの小惑星探査機『はやぶさ2』が生まれたJAXA相模原キャンパスです。相模原市なら、ロマンスカーミュージアムが隣接する小田急線の海老名駅から近いはず…なのですが、見つかりません。そのままジオラマ内を彷徨い続けて約15分、遠くの山すそでようやく探し当てました。気持ちは焦り、額にはうっすらと汗も浮かび、本当に捜索気分。個人的にジオラマ展示は大好きですが、こんなに凝視したのは人生初かもしれません。
せっかくなので、ズルせずにちゃんと見つけた証拠を。ほら、写真奥の山の右下の方、小さな札が見えますか?

最後は、新年のお楽しみとなっている箱根駅伝でお馴染みの箱根湯本駅。ヒント編では、その近辺を走る水色のたすきを着けた駅伝ランナーを探せとの指示が。これも苦労して、ようやく発見。いや、ここまでたっぷり小一時間、かくれんぼゲームを堪能してしまいました…。

実は筆者は30年近く小田急線沿線に暮らしていますが、地元民の目で見てもジオラマは実によくできています。風景だけでなく、それぞれの街の空気感のようなものが伝わってくるからでしょうか。下北沢の活気、多摩川を渡った先の少しゆったり感のある街並み、江ノ島の明るい雰囲気。しかも、ジオラマ内を行ったり来たりしているうちに、照明が落とされて全体が夕方になったり、昇る「朝日」に照らされたり。街の息吹まで再現するこだわりには、本当に感心しました。

ジオラマに込められた想いと協働の成果
鉄道ファンや家族連れに大人気のロマンスカーミュージアムですが、知野さんによれば、このジオラマは沿線に息づく生活まで表現することで小田急電鉄をより身近に感じてもらうことを目指して作られたそうです。道路や建物だけでなく個性豊かな人々の姿が多数置かれているのは、ミュージアムの願いが込められているのですね。そんな小田急エージェンシーの想いは、学生の皆さんにしっかり伝わった様子。展示ガイドアプリを「逆方向」に使ってジオラマの街を走り回るアイデアは、多くの来館者を楽しませたことでしょう。
彼らにとっては、大学で学んでいることを現場で実践する素晴らしい機会。一方で、多くの博物館が課題とする若年層の集客という観点では、接点を広げるチャンスとなりました。知野さんのお話では、実は配信されたヒント編・解答編の原稿も、学生たち自身が制作してくれたのだとか。しかも、固有名詞や権利関係を軽くチェックすればそのまま使えるクオリティで、学芸員にも大いに刺激となったそうです。なお、ナレーションを読み上げたのは、小田急エージェンシーの社員とロマンスカーミュージアムのスタッフの皆様。つまり、館・学・民のコラボレーションの成果だったわけですね。
『わかものがかり』では、今後も新たな企画に挑戦していく意向とのこと。ロマンスカーミュージアムは開館して4年の新しい博物館ですが、「若者との接点づくり」においては先駆者の一人と言えるかもしれません。今後の取り組みに注目したいものです。
- ロマンスカーミュージアム https://www.odakyu.jp/romancecarmuseum/
- わかものがかり×専修大学平井ゼミの産学連携施策「ロマンスカーミュージアムでかくれんぼ」を開催! https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000042.000028164.html
- 専修大学平井ゼミ×わかものがかり ロマンスカーミュージアムにワカモノを呼び込むアイデアを考えよう!
Day1 フィールドワーク編 https://flight-room.com/article/2424/
Day2 アイデア考案&中間発表編 https://flight-room.com/article/2472/
Day3 最終発表編 https://flight-room.com/article/2508/

