ミュージアムインタビュー

vol.188取材年月:2022年8月鳥取市歴史博物館

地域の皆様が特別な想いでご寄贈くださった大切な資料。
妥協のないデータづくりでお応えしたいものです。
学芸員   横山 展宏 さん

-I.B.MUSEUM SaaSをご導入いただいて、もう8年ほどになりますね。まずは導入前のご様子からお聞かせいただけますか。

横山さん:当館は2000年の開館で、私は2007年に着任したのですが、ExcelとFileMaker、それに紙の台帳も使っていました。システムの導入の準備を始めたのは、2012年かその翌年あたりですね。当時の館長が御社のサービスを知って、「そろそろ始めないと」と検討に着手したんです。

-当時はI.B.MUSEUM SaaSのサービスを開始して間もない頃で、皆さんに知っていただこうと張り切っていました。システムご導入のきっかけになったのであれば、とても嬉しく思います。

横山さん:導入して何ができるのか、どこまでできるのかを知るために、御社のスタッフにご足労いただいて詳しくお話をうかがったんです。その結果、「月額3万円と低額だし、まずは始めてみよう」という意見でまとまったんです。

-月額のクラウドなら、最悪の場合は途中で引き返せますもんね。

横山さん:そうなんです。独自でシステムを構築したら、もう引くに引けなくなりますから。結果的には取り越し苦労で、お陰様で継続できていますけど(笑)。

-本当によかったです(笑)。現在はどんな使い方をなさっているのですか?

横山さん:画像を登録してありますので、それらのデータを使う場面では必然的に利用することになりますね。でも、まだExcelを使うこともありますし、受領証の発行ではFileMakerの使用も続けているんです。本当はシステムに一本化できればよいのですけど。

-それはもしや、システムに何か使いにくい点などがあるということでしょうか。とても気になります。

 


-もしも機能的に不足していたり、使い勝手の良くない点、気になる点などがおありでしたら、この機会にぜひお聞かせください。

横山さん:いえ、特に不都合があるわけではないですよ。具体的には、写真や絵葉書などの「1点もの」の情報はしっかり登録できているのですが、「家資料」の整備がまだ不十分でして。システムの問題ではなくて、データづくりの細部で議論が続いているんです。

-1点1点の資料と家単位の資料群を、互いにどう位置づけるか…といったことでしょうか。

横山さん:ええ、そんな感じですね。当館は、もともと収蔵資料がゼロに近い状態からスタートしたのですが、市民の皆様からの寄贈や寄託でここまで来たという事情があるんですね。何か特別な名品ではなく、資料全体をしっかりデータベース化してこそ、当館らしさや地域性が出てくると考えているんです。

-なるほど…。そうなると、登録作業がかなり大変になりますね。

横山さん:展覧会の準備やイベントの開催などと並行して行わなければなりませんからね。なかなか難しい面があります。

-最近は、リニューアル工事の休館期間中にデータ整備を進めるという事例が目立ちます。裏を返せば、通常業務と並行してデータ整備を行うのがいかに困難かを表しているように思います。他館の事例がご参考になるのであれば、弊社からも情報提供させていただきますね。

横山さん:それはありがたいですね、ぜひお願いします。

-家資料のデータ整備でお悩みということは、項目設定などに苦心されているのでしょうか。

横山さん:その通りです。家資料のリスト作成などのデータそのものは少しずつ準備が進んでいるのですが、それをどう登録するかが課題ですね。仕様上、「大分類については後から変更できない」とご担当の方からうかがいましたので、ここは妥協なく熟考しないと。

-そうなんです、大分類ごとに異なる項目体系を構築できるシステムなので、そこを変更すると行き場がなくなるデータが生じる可能性が否定できないんです。申し訳ございません…。

横山さん:いえ、それは理解していますので大丈夫ですよ。それにしても、家の情報も1点ずつの情報も同じように詳しく登録したいのですが、階層が異なるのでどのようにバランスをとって登録するかは難しいですよね。何かよい方法はありませんかね?

-いまうかがった範囲では、「資料群」というひとつの大分類を作って、個々の資料情報を関連付けるという方法がよいように思います。ただ、きっと問題はもっと複雑だと思いますので、社内のスタッフと本格的にいくつかの方法をシミュレーションしてみましょうか?

横山さん:ありがとうございます、よろしくお願いします。

-かしこまりました。では、改めてご連絡しますね。

 


-登録が完全ではないとのことですが、昨年、館内の端末で資料データを公開されましたよね。

横山さん:はい、写真や絵葉書、錦絵などの1点ものを優先して、昨年4月のリニューアルに合わせて公開しました。

-インターネットでは公開されないのですか? 一般の方々にも喜ばれそうな内容だと思いますが。最近は、「出せるデータを少しずつ」という方針で公開される館も多いんですよ。

横山さん:はい、そう聞きますね。ただ、当館の場合は、地域の方々から寄贈していただいた資料をどのように公開していくかを検討しなければならないと考えています。

-家資料の方を中心に公開されるお考えなのでしょうか。

横山さん:そういうわけではないんですけどね。寄贈してくださった方のお気持ちを考えると、収蔵品データベースなのにヒットしないのは悲しまれるのではないかと思いまして。

-なるほど…。

横山さん:以前、ある企画展を開催した時、資料を寄贈してくださった方々が正装で足を運んでくださったことがあるんです。そんなご様子を目の当たりにして、代々家に伝わってきた資料を手放される際には特別な想いがあるんだなと思い知りましてね。その想いに十分に応えられているのだろうか、と考え込んでしまいました。

-(しばし絶句し)考えが足りませんでした。大変失礼いたしました。

横山さん:いえ、各館にはそれぞれ事情がありますからね。逆に、早めに公開することを優先しなければならない館もおありでしょうし。

-はい、オンライン時代で地域の皆様のご期待が高まっているさなかということもあって、早期の情報公開に努めることが使命とお考えの館も少なくありません。

横山さん:それも正しいのだと思います。当館の場合は、地域の方々が大切に伝えてきた資料を寄贈という形で受け入れて、博物館活動に活用していく、地域に密着した施設になるかと思いますので、他館とは状況が異なるかと思います。

-いずれにしても、ミュージアムの責任の重さを痛感しますね。

横山さん:本当に。私も鳥取生まれですので、地元のことを地域の皆様にもっと伝えたいという想いがあります。多くの地方都市と同じように都会を目指す若者たちが多いのですが、でも、鳥取にもいいところがたくさんあるんです。だからこそ、当館を通じて魅力を知っていただいて、地域の活性化に貢献できればと考えています。

-弊社も少しでもお役に立つことができるよう頑張ります。本日は大変勉強になりました。本当にありがとうございました。

Museum Profile
鳥取市歴史博物館 「やまびこ館」の愛称で親しまれる鳥取市歴史博物館は、鳥取東照宮(旧・因州東照宮)をはじめ藩主ゆかりの寺院が立ち並んでいた樗谿(おうちだに)の一角にあります。令和3年4月のリニューアルオープン時に「モノが語る、人が語る博物館」をテーマに据え、藩と城下町の成り立ちを中心に地元の歴史を網羅。幅広い年代の方々に体験と学習の機会を提供する「まなびのひろば」も好評で、地域とともに歩む姿勢が光るミュージアムです。

〒680-0015
鳥取県鳥取市上町88
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