ミュージアムインタビュー

vol.193取材年月:2022年12月帝京大学総合博物館

学生と教員、学芸員が垣根を越えて交流できる場所。
今後も「才能発見」の場として育てていきたいですね。
館長 高橋 裕史 さん
学芸員 堀越 峰之 さん

-2015年の開館後、しばらく経ってからI.B.MUSEUM SaaSをご導入いただきました。まずは当時のご様子からお聞かせいただけますか。

堀越さん:私は、開館の3年前に準備担当として着任しました。その時点では資料もそれほど多くなかったので、学内を探索しながら収集したんですよ。ちょっと変わったスタートでしたね。

-公立館なら地域住民ということになりますが、こちらの場合なら帝京大学のOBの皆様からのご寄贈などが中心ですよね。

高橋さん:ええ、いろいろな資料が持ち込まれてきたようですね。それ以外にも、学内の研究室からの寄贈もあります。もちろん学外の方々からの寄贈についての依頼も少なくありません。

-高橋館長は、今年度にご着任なさったばかりとか。こうして見渡しても、館内はずいぶん心地よい雰囲気ですよね。

高橋さん:ありがとうございます、私もそう感じました(笑)。堅苦しさがなくて、間口が広くて、教員も学生もすすんで足を運びたくなるような空気があるんです。当館の学芸員を含めた職員の人柄が関係しているのかもしれませんね。

-事務室内にも、お若い方々の姿が目立ちます。

堀越さん:アルバイトの学生たちですね。「ミュージアムアシスタント」と銘打って募集して雇用しています。I.B.MUSEUM にどんどんデータを追加してくれているのは、実は彼らなんですよ。

高橋さん:言われてみれば、ここまで学生が溶け込んでいるのは珍しいかもしれませんね。教員と学芸員も距離が近くて、博物館を利用した講義を学芸員に頼むこともあるんですよ。博物館があるこのフロアには、セミナー室もありますし。

-学生と教員、学芸員が一体となって協働できるというのは、得がたい環境だと思います。

高橋さん:当初から意図していたわけではないそうですので、学芸員を含めた博物館職員が柔軟に動いてくれたのがよかったのかも知れません。この居心地のよさは、今や当館の特徴ですから。

-多様なお立場の方々が、互いに交流しながら発展していく博物館といった趣ですね。確かに、ひとつのモデルケースになりそうなお話です。

 


-さて、当初の資料点数はさほど多くなかったとのことですが、逆に言えば、この規模になるまで続々と増え続けてきたわけですよね。だとすると、データ作りはむしろ大変だったのでは。何しろ、Excelのシートどころか紙の台帳の元データさえ存在しない状態ですし。

堀越さん:そうなんです、目録を作れるレベルになかったですからね。2015年度以降は、アルバイトの学生スタッフの手を借りて、資料をそのつど整理しながら登録を進めてきました。時間はかかりましたが、登録済みのデータもそろそろ1万点くらいになっていると思います。

-順調なご様子で何よりです。データの内訳はどんな感じでしょうか。

堀越さん:このキャンパスの敷地には、奈良時代や平安時代の遺跡がありますので、そこから出土した考古資料がかなりあります。あとは、大学の歴史にかかわる古い写真資料も多いですね。こちらは、大学が出版した過去の印刷物と突き合わせながら、何の写真かを特定する作業も進めています。

-地域の古い写真を自治体がアーカイブするプロジェクトの場合は、地元の生き字引のようなOB職員の協力を仰ぐケースが多いですが、大学ならそうした方も多そうですね。

高橋さん:昔の事を知っている、教職員や卒業生の知識を集合させれば桁違いの情報量になるでしょうね。ただ、現時点ではその様な教職員や卒業生との繋がりが少なく、大掛かりな動きは少し難しいという事情がありまして。その分、個別に呼び掛けているんです。

堀越さん:ひとつ意外な話があるのですが、アルバイトの学生スタッフは、資料整理の過程で色々な写真を見ています。すると、だんだん詳しくなってきて学芸員よりも写真の判断ができるようになっていきます。彼らは馬力だけでなく、実は知識の面でも頼りになる存在だったりするんです。

-それは面白いお話ですね、若者たちの力は侮れませんよね。また、彼らにとっても、ミュージアムの実務への協力は、よい経験になるのでは。

堀越さん:本当にその通りだと思います。学生の経験と言えば、2020年から年2回のペースで博物館が発行している『ミコタマ』というフリーマガジンがあるのですが、これは取材や編集、写真撮影、レイアウトまで、すべて学生が担っているんですよ。この活動は、都留文科大学フィールドミュージアムが刊行している『フィールド・ノート』を参考にさせて頂き、立ち上げました。

-(実物を手に取って)これを学生さんが作っているんですか! デザインもプロの仕事にしか見えませんし、記事の内容も本格的じゃないですか。

高橋さん:タイトルの「タマ」は多摩地区、「ミコ」はラテン語から取ったようです。「輝く」とか「光を当てる」という意味です。この号は夜の多摩地区というテーマですが、なかなか読み応えがありますよ。毎号、編集部内で相談をして特集のテーマを決めています。

-これも博物館活動の一環として捉えると、「間口の広さ」がよく分かりますね。

堀越さん:そうですね。開館の時、館名に「総合」という言葉を入れたのにも、何でも挑戦できるミュージアムにしたいという思いがありました。

高橋さん:もしかしたら、本来の意味の博物館とは似て非なるものと捉えてもよいくらいかもしれませんね。たとえば、「才能発見場所」とか。

-それはいいですね! こちらは実際に言葉通りになっていますし、共感なさる館も多いのでは。

 


-さて、I.B.MUSEUM SaaS なのですが、現在はどんな場面でご利用ですか?

堀越さん:今はデータの登録が中心ですね。1点ずつ登録することもありますし、まずExcelで情報を整えてから一括登録を行うこともあります。検索ではクリップリスト機能も積極的に使っています。

-ありがとうございます。日常のご利用の中では、何か気になることはございますか?

堀越さん:特にないのですが、ひとつ質問があります。当館の所蔵資料ではない借用したものを登録することは可能なのでしょうか。

-はい、可能です。「借受」のメニューがありますので、そちらをご利用いただければ。

堀越さん:なるほど、専用メニューがあるのですね。

-普通に資料データベースに登録してしまうと、全件検索時の件数が所蔵点数と食い違ってしまいますし、自館の資料でなければ詳細情報は不要となることが多いですから。よろしければ、改めて操作説明にうかがいますよ。

堀越さん:ぜひお願いします。もうひとつ、文字列や日付など入力の形式を見直すことはできますか?

-はい、項目設定機能の中でできますので、併せてご説明いたしますね。

堀越さん:ありがとうございます。よろしくお願いします。

-承りました。ところで、データの登録は順調に進んでいるご様子ですが、そろそろ公開についてもお考えですか?

堀越さん:もちろん、そのつもりです。ただ、データ内容はしっかり精査しなければなりませんので、作業量を考えると来年度あたりになりそうですね。

-学生さんの力を積極的にご活用になっていますので、展示ガイドサービスの『ポケット学芸員』のご利用をおすすめします。解説原稿の作成や音声の収録など、きっと彼らの新たな活躍舞台になると思いますよ。

堀越さん:「才能発見」にピッタリですね! ぜひトライしてみたいです。

-本日は興味深い話をたくさんお聞かせいただきました。ありがとうございました。

Museum Profile
帝京大学総合博物館 地上22階という高さでひときわ目を引く帝京大学八王子キャンパスの「SORATIO SQUARE(ソラティオスクエア)」に2015年にオープン。10の学部を有し、大学院や各種研究所・センターも設置されている帝京大学では、多数の教員や研究者、学生が研究活動を行っています。その過程で収集された貴重な学術資料や教育研究活動の成果が展示されているほか、総合大学ならではの幅広いテーマの企画展やイベントも活発。学生との協働姿勢でも注目のミュージアムです。

〒192-0395
東京都八王子市大塚359
TEL:042-678-3675
帝京大学八王子キャンパス ソラティオスクエアB1
ホームページ:http://teikyo.jp/museum/