ミュージアムインタビュー

vol.192取材年月:2022年12月成蹊学園史料館

似た性質の館同士であれば、互いに協力できるはず。
積極的な情報交換で、より充実したデータ管理環境を。
企画室付主幹  近藤 茂 さん
学芸員  保延 有美 さん

-6年前にI.B.MUSEUM SaaSをご導入いただいておりますが、本格的な運用はここ3年半ほどとか。まずは導入の経緯からお聞かせください。

近藤さん:以前は、共有フォルダにExcelのファイルを置いて管理していました。データ管理の担当は何代か交代してきたので、それぞれに作成したファイルが共存している状態ではありましたが、職員間の情報共有はできていましたね。

-データベースシステムでの管理に切り替えられたきっかけは?

近藤さん:2015年度に大規模なリニューアルを実施した時に、建物や展示方法だけでなく、収蔵資料のデータの扱いについても見直そうという話が持ち上がったんです。外部の方々にも資料情報をご覧いただけるよう整備することになりまして。

-最近は情報公開を目的にシステムを導入される館は多いのですが、準備がすんなりといかないケースもままあります。その点、こちらは順調に公開なさっていますよね。

近藤さん:ありがとうございます。でも、内部的には、実は大変な状況だったんですよ。

-と仰いますと?

近藤さん: 2015年11月まで、私たちは『成蹊学園百年史』の編纂に携わっていたんです。それとほぼ並行して施設のリニューアル工事が進行しましたので、ヘルメットを被りながら現物に当たったり(笑)。

- (百年史を手に取って)うわ~、これはものすごいボリュームですね…。

近藤さん:この作業の次は史料館年報、施設のリニューアル後は企画展示やイベントも再開という忙しい時期でのシステム導入でしたので、長めの準備期間が必要になったんです。そんな中でも学芸員が頑張ってくれて、本格稼働に漕ぎ着けることができました。

-期間が空いたのは、そういうご事情だったのですね。でも、複数のファイルがあったのであれば、Excelデータからの移行準備だけでもかなりの作業量だったのでは。

保延さん:歴代の担当者が、その時の事情に合わせて使いやすいように作っていましたから、まずはデータ構造の調査から始めたんです。ひとつひとつを見直しながら、どの情報をシステムに登録するかを検討しました。

-最初に選別作業があったのですね。

近藤さん:もともと公開のためのデータベースとして導入しましたので、たとえば寄贈者などの個人情報は登録自体を行わないことに決めたり。当時はデータの外部保存に関して議論もありましたし。

-まだ慎重論がかなり強かったですよね。

近藤さん:そんな経緯で、いろいろありつつも、まずは学外に向けてのデータ公開を実現できました。当面の目標は達成できたと思います。

-本当に大労作だったのですね。外部からはご苦労が見えづらいものですね…。

 


-Excelデータの構造の調査や統合作業を経ていざデータ登録となったわけですが、作業は順調に進みましたか?

保延さん:正直なところ、やはり大変でした。項目をどう整理するか、御社の方にも相談に乗っていただいたのですが、最初は話がうまく噛み合わなくて。

-え! 弊社の担当がうまく対応できなかったのであれば、大変申し訳ございませんでした。話が噛み合わなかったというのは、具体的にはどのような点でしょうか。

保延さん:当館には紙資料が多いのですが、人が代わると項目に使われている用語の解釈が異なることがあるんです。そもそも名称の付け方からして異なっていたり。

-なるほど。代々作られてきた文書を読み解くような作業だったわけですね。

保延さん:そうなんです。長い時間の間にいくつかの仕様が派生したような状態ですので、まずは整理が必要で。また、当館のExcelデータには書簡や簿冊などの一次史料と図書などが一緒に登録されています。Excelデータの項目、例えば「作成者」は、一次史料であれば史料の作成者、図書であれば編著者を入力している項目なのですが、御社の歴史テンプレートの項目にも、図書テンプレートにも当てはまる項目がありませんでした。

-そうした調整作業のサポートこそ、まさに弊社の仕事であるはずなのですが…。うまくお手伝いできなかったのであれば、弊社の力不足です。誠に申し訳なく思います。

保延さん:いえいえ、とんでもない。当館の場合は、資料や経緯にやや特殊な事情がありますから、仕方がない面もあるかと。

-お気遣いをありがとうございます。それにしても、項目体系やルールの見直しは、かなり腰を据えて取り組まなければならない作業ですよね。それをほかのお仕事との同時進行でこなされるのは、かなり厳しい状況ですね。

保延さん:そうなんですよね。今も完璧な状態ではありませんが、かなり整備が進んできましたので、引き続き頑張っていきます。

-頼もしいですね。ほかに気になることなどはございますか?

近藤さん:特に不満な点はないですよ。あえて言うなら、雑誌などの定期刊行物の書誌構造が一般書籍と同じ単行書扱いになるのが気になりますかね。雑誌名に巻号が表示されるスタイルは分かりやすいのですが、検索結果に同じ雑誌名が何行にも連なると少し見づらく感じます。

-なるほど。一般書籍の情報は基本的に階層がないので性質的に美術作品に近い構造ですが、定期刊行物はまったく異なりますね。

近藤さん:とは言え、定期刊行物に合わせてしまうと、今度は書誌構造が複雑になってシンプルな操作性が損なわれるかもしれませんし、悩ましい問題ですよね。

-そうですね。少し議論やリサーチが必要かと思いますので、今後の課題とさせていただきますね(メモ)。

 


-さて、資料情報を学外の方々にもご覧になって欲しいという願いをきっかけにご導入いただいたシステムですが、実際の成果はいかがでしょうか。

近藤さん:学外への周知に関しては、ほぼ思い描いていた通りになりました。収蔵資料についての問い合わせも増えましたし、まずは成功と言ってよいと思います。

-それは何よりです。では、これからの展望などはいかがでしょうか。ここまで整備されたシステムですから、今後も拡充していかれますよね。

近藤さん:もちろんです。I.B.MUSEUM SaaS には、まだまだ多様な機能がありますよね。それを活かすためにも、まだまだ登録データを充実させていかなければならないと考えています。

-もし展示に活かすのであれば、音声ガイドアプリの「ポケット学芸員」をご活用になってはいかがでしょうか。最近は、一般のミュージアムでも地域の学生さんを解説のナレーターに起用するケースが増えているんですよ。こちらの館とは非常に相性がよいと思います。

保延さん:なるほど、それは面白そうですね。

-ぜひご検討ください。ところで、弊社システムは、このところ大学施設でのご導入が増えていまして。これから導入を検討される館の方々にメッセージをいただけますか?

近藤さん:当館と同じような自校史を中心とした史料館・資料館のユーザが増えれば、似た性質の館同士で参考にしあえることも多いはずです。管理・公開のノウハウやアイデアの面で、互いに協力できればよいですね。

-弊社も情報の集積地となれるよう努力いたします。本日はご多忙な中、貴重なお話をお聞きすることができました。本当にありがとうございました。

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※ 写真撮影の際のみ、マスクを外していただいています。

Museum Profile
成蹊学園史料館 100年を超える歴史を有する成蹊学園の歩みを伝える史料館。開館は1988年で、2015年にリニューアルを果たしました。大型スクリーンで建学の理念を知るガイダンスルームや、創立当時の学園を再現したジオラマ、創設者・中村春二氏の肉声による「心力歌」体験ブースなど、多様な切り口から学園を知ることができます。学生や入学希望者が学園の歴史を学び、教職員や卒業生も含めて交流を楽しむこともできる、学園情報のハブとして人気です。

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