ミュージアムインタビュー

vol.20取材年月:2006年7月萩博物館

収蔵品管理システムは、学芸員とともに成長するもの。
私たち館員の「志」が、何よりも大切だと思います。
学芸班 研究員 道迫 真吾さん

-先ほど館長さんにご挨拶したんですが、「利用者への積極的な情報公開が課題」と仰っていました。最近のミュージアムの必須事項なのでおおいに賛成なんですが、現場の道迫さんとしてはなかなか大変でしょう?

道迫さん:そうなんです。確かに大きなポイントですからね、頑張ってはいるつもりなんですけど。簡単にはいかないですね(笑)。

-では、最初に、システム導入当時の苦労話をお伺いしてもいいですか?

道迫さん:はい、当館は開館してまだ1年半なんですが、前身の「市郷土博物館」に遡れば、昭和34年から続いている計算になるんです。受け継がれてきた資料は18万点にものぼりまして。私が就職した1999年当時は、まだ紙の台帳が活躍していましたよ。

-なるほど。昔ながらの方法が確立されていたわけですね。

道迫さん:ええ。でも、台帳にはタイトルや番号、寄贈者くらいしか記載されていませんからね。履歴などの詳細がわからない上に、劣化が心配な歴史資料も少なくないですから、まずはExcelとAccessを併用しながら寸法を入力して、デジカメで撮影した画像データを記録することにしたんです。

-なるほど。でも、Excelでその点数では・・・。

道迫さん:ご想像の通りです。すぐにファイルデータが重くなり過ぎて、使い物にならなくなりました(笑)。「これは、専用の管理システムを使わなければ話にならないかも」と思いまして、当時の上司に相談したら、興味を持ってくれまして。導入しようという方針が決まったのは、2002年の半ばごろですね。

-システム導入が決まって、I.B.MUSEUMを選んでいただいたわけですが、決め手になった理由は?

道迫さん:やはり、導入館数の多さですかね。最初に営業に来られた方が、誠実に対応してくださったので期待していたんですが、事例を見せていただいて、確信しました。

-ありがとうございます(嬉)。

道迫さん:それに、入間市さんをはじめ、信頼できる館の事例を、そのまま当館用システムのベースとして考えられるわけですから、安心ですよね。「追われるより、追う者のほうが強い」という言葉を実感しました(笑)。いいものができたと思ってますよ。

-なるほど、システム導入までは順調だったようですね。でも・・・これまでのインタビューの経験から申しますと、「入力が追いつかない」という点で苦しんでおられるのでは? こちらは、ジャンルも多様で点数も多いですし・・・。

道迫さん:その通りです。館長も気にかけてくれるのですが、せっかくいい「ハコ」ができても、中身が伴わなければ意味がないですからね。

-入力はどのくらい進んでいるんですか?

道迫さん:Excel時代にデータベース化した1万点は終わっていますね。合計で1万5千点くらいの情報は入力できました。

-それ、道迫さんをはじめ、学芸員の皆さんで入力されたんですよね? 比較的進んでいるほうだと思いますよ。

道迫さん:でも、全体数を考えると、まだまだです。市立の館ですから、市民の皆さんからの寄贈で、点数はどんどん増えるんですよね。それを全部データベースに仕上げなければなりませんから、ちょっと気が遠くなります。

-本当に、ミュージアム業界全体の課題ですよねえ・・・。

道迫さん:ただ、私たちなりに工夫はしているんですよ。展示への活用が想定されるものの情報から優先して入力しています。たとえば、「伊藤博文」で検索すると、関係資料がズラッと出てきますから、業務の効率はものすごく上がった気がします。データベース・システムのチカラですよね。

-なるほど。学芸業務支援という観点からは、お役に立っているということですね。さて、恒例のアレを。I.B.MUSEUMは、百点満点で何点いただけますでしょうか?

道迫さん: 90点くらいですかね。本当は95点くらい差し上げたいのですが、やはり早稲田さんが「東京の会社」という点が・・・(笑)。

-よく言われます・・・申し訳ありません(汗)。

道迫さん:いえいえ、距離の遠さは、仕方がないんですけどね。もう少し近ければ、もっと会議もできるのになあ、と。

-いえ、ご期待いただいてご指名くださったわけですから、物理的な距離を埋めるだけの対応ができなければダメだと思います。すみません。で・・・それを満たしても95点。まだ減点要素がありますよね?(笑)

道迫さん:あ、それはこちらの都合で(笑)。当初は館蔵資料の情報管理を優先し、不正アクセスも心配でしたので、館内LANを採用してしまったんですよね。冒頭、館長からも話があった「Web公開が進まない」原因は、ここにあると思うんですよ。今後の優先課題と思っています。

-そうですね。「Web2.0」をはじめ、すごいスピードで新しいWebサービスが登場していますからね。ぜひ協力させてください。

-では、これからシステムを検討される館の方々にアドバイスがあればお願いします。

道迫さん:何より、扱う人の「志」が大切だと思います。「機械を入れたら動く」という考えではなく、「使うのは私たち自身だ」ということを念頭に置くことが重要ですよ。情報システムは、学芸員とともに発展していくものですから・・・とか言ってる私も、まだまだ修業しなければならない身なんですけどね(笑)。

-「志」というのは、幕末維新史をご担当されている道迫さんらしいですね。

道迫さん:「お前が言うな」と言われそうですけど(笑)。それはともかく、当館が先進事例を参考にしたように、他の館の方から模範的と見ていただけるような情報発信の実現を目指して行きたいですね。どんなに入力が進んでも、そこで終わってしまったら、ただの自己満足ですから。

-私たちも、力の限り協力したいと思います。本日は元気をいただいたような気がします。力強いお話を、どうもありがとうございました。

<取材年月:2006年7月>

Museum Profile
萩博物館 迫力たっぷりの武家屋敷のような外観が印象的な博物館。萩のまち全体を博物館としてとらえ、「地元の宝を保存・活用しよう」という新しいまちづくりの取り組み『萩まちじゅう博物館』の中核施設として、萩開府400年の記念日にあたる平成16年11月11日に開館しました。萩博物館はその拠点となる施設で、萩の自然や歴史、民俗、文化などあらゆることが学べる機能があり、小さい子供から年配の歴史愛好家まで、幅広く楽しめる博物館です。

ホームページ : http://www.city.hagi.lg.jp/hagihaku/
〒758-0057 山口県萩市堀内355番地
TEL:0838-25-6447