ミュージアムインタビュー

vol.19取材年月:2006年6月武蔵野美術大学イメージライブラリー

資料検索システムは、映像作品と利用者をつなぐ架け橋。
IT技術で架け橋が太くなった今こそ、新しいアイデアにチャレンジできる。
イメージライブラリー 下川 久美香さん

-ずっと前から直接お聞きしたかったのですが、大学の映像ライブラリが、美術館・博物館向けのシステムを採用されたのは、どういう理由からだったのでしょうか?

下川さん:1991年からデータベース管理を行っていたのですが、コンピュータやインターネットの進歩が世の中にいろいろと影響を与えている中、私たちのシステムもそれに合わせて作り直さなければ、ということになりまして。

-なるほど。でも、自分で言うのもなんですが、I.B.MUSEUMは業界外では知名度が極めて低いはずなんですが(笑)。

下川さん:7〜8社の業者さんにお話を伺い、さらに本学の教授にも情報システムをいくつか推薦してもらいました。そのうちのひとつがI.B.MUSEUMだったんです。

-先生のご推薦ですか! 気分がいいです(笑)。それで、いくつかの選択肢から選んでいただいた決め手は?

下川さん:まず、事前チェックで2つの候補まで絞りまして、「どちらが、自分たちがやりたいことが実現できるか」という観点で決めました。実は、コスト面ではもう一方のほうが有利だったんですけどね(笑)。

-へえ? 当社のほうが高いというのは、珍しいです(笑)。それでもご採用いただけた理由を、もう少し具体的にお聞かせ願えますか?

下川さん:I.B.MUSEUMは、すでに他のユーザさんの声が反映されている機能に加えて、私たち独自の要望も聞いていただける、言わば「セミ・オーダーメイド」ですよね。もう一方は「レディメイド」というか、便利な機能は魅力でしたが、ちょっと融通が利かないような印象でした。

-なるほど。「やりたいことが実現できる幅」ということですね。

下川さん:ええ、特に「誰のためのデータベースか」ということを考えると、映像教育の一環として利用者にとっていい検索システムをつくることが最重要課題でしたからね。そのためには新しい機能が必要だったんです。

-いや、光栄です。その後のことをお聞きするのが心配になってきたりして(笑)。

-さて、導入いただいたI.B.MUSEUMの使用感は、いかがですか?

下川さん:良好ですよ。早稲田さんのホームページに載っているインタビューで、「システムが止まって・・・」というお話がありましたが、ウチではそういうトラブルも起こっていませんしね。

-それは何よりです。で、事前に描かれていたイメージは、実際にシステムで実現しましたか?

下川さん:おおむね、望んでいた形になりました。そうでない部分も、技術的に不可能なことは、こちらが納得できるまで「できない理由」を説明してくださいましたし。

-本当に?(笑)

下川さん:ええ(笑)。早稲田さんの対応で印象に残ったのは、「それを実施すると、システム内でこんな矛盾が起こり得ますので、お勧めできません」と、いつも冷静にアドバイスをくださったことですね。質問には、翌日の午前中には何らかのお返事がありましたし。

-お褒めいただいて恐縮ですが・・・ご不満な点を出していただけませんか?(笑)

下川さん:強いて言えば、システムの構造が複雑で、不整合が起こりやすいところでしょうか。それも一つひとつ解決してくださったので、問題とは思っていませんよ。元はと言えば、私たちの欲張りが原因ですしね(笑)。

-いえいえ・・・複雑過ぎる、と(メモメモ)。

下川さん:あとは、美術大学ということもあって、学内ユーザーの多くはMacintoshを使っているのですが、学内の端末からアクセスした場合、Windowsでは表示や検索時間が違ってしまうんですよね。その調整が大変でした。

-ご苦労をおかけしまして・・・。

下川さん:私たちも自身も主にMacを使っていたので、確かに、馴染むまでには少し時間がかかりました。でも、I.B.MUSEUMを選ぶ段階で、情報管理システムをWindowsに切り替えることは分かっていたので、それも問題とは言えないですよね。

-最新版では改善してるんですけどね。全体的にご満足いただいているようで、安心しました。

-では、恒例の点数を。I.B.MUSEUMは100点満点で何点ですか?

下川さん:点を付けるのは難しいですが、85点くらいでしょうか。

-ありがとうございます。今後の改善に向けて、15点部分を宿題として持ち帰りたいと思いますが、どんなことでしょう。

下川さん:コンピュータの正確さと人間の曖昧さが相互補完できるような機能を、もっと追求していきたいと思っています。より充実した情報発信が可能になればいいな、と。それには私たちだけで考えるのではなく、情報交換して新しいアイデアを形にしたいですね。そういう意味で15点はこれからの課題というところでしょうか。

-当社も積極的に提案を差し上げなければいけませんね。

下川さん:ぜひ。お願いします。

-発信していきたい材料は、たくさんお持ちですもんね。

下川さん:そうなんですよ。今もレクチャーを開いたり、印刷物を発行したり、教育的な活動を行っています。単なる「資料」ではありませんから、美術館さんとお付き合いの多い早稲田さんにはいろいろ教えていただきたいと思っています。

-こちらの「ここにしかない映像作品」は、最近流行の「ロングテール論」を併せて考えれば、IT社会の進歩の上で新しい展開が考えられるかもしれませんね。

下川さん:そういう視点、楽しみです。次のステップでは、検索の柔軟性や情報ページの充実なども検討したいと思っています。ITの進歩で資料と利用者をつなぐ架け橋が、どんどん太くなっていくような感じがしますね。

-夢は尽きませんね。次期システム、私も個人的に楽しみです。本日はご多忙の中、ありがとうございました。

<取材年月:2006年6月>

 

本稿でインタビューにご協力くださいました下川久美香さんが、去る平成21年2月18日、ご逝去されました。
ご発言の中にもあります通り、学内資料の整備と利用促進に向けて大変にご尽力され、弊社といたしましても長くご指導を賜っておりましただけに、そのさなかでのご訃報は痛恨の極みでございます。
生前のご功績に改めて敬意を表しますとともに、ご逝去を悼み、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

Museum Profile
武蔵野美術大学イメージライブラリー <映像>というメディアの<芸術作品>としての価値に焦点を合わせた、1万点に及ぶ映像と関連資料が保存されています。椅子で有名なデザイナー、イームズの映像作品が何十本もあったり、知る人ぞ知る(の?)個人制作のアニメーションがあったり、充実の一言。美大生が、デザイン・絵画・彫刻・映像など、各自の制作過程においてインスピレーションが得られるようにという目的を聞くと、ラインナップの幅広さに深く納得。知財立国の時代に、ますます大きな役割が期待される施設です。

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