ミュージアムインタビュー

vol.204取材年月:2023年5月三内丸山遺跡センター

業務を劇的に省力化しつつ、同時にワクワク感を
お届けできるデジタルアーカイブを目指しました。
文化財保護主幹  業天 唯正 さん

-こちらの施設は平成14年のオープンですよね。実はその前に一度、お邪魔したことがあるんです。

業天さん:そうなんですか。三内丸山遺跡のガイダンス施設として開館する前は、仮設の建物だったんですよ。そして、平成31年4月に三内丸山遺跡センターとしてリニューアルオープンしました。

-懐かしいです。業天さんはいつご着任になったのですか?

業天さん:平成29年です。その前は埋蔵文化財専門職員として発掘調査の仕事をしていました。

-埋蔵文化財の情報管理は大切な業務の一つですよね。それでは、まず現在の管理方法についてお聞かせください。

業天さん:土器や石器、土偶など種類ごとにExcelファイルがあるのですが、出力した紙の上で手直ししてExcelに反映する…という作業を繰り返しています。この流れはシステム導入前から変わっていません。

-なるほど。システム上でデータ管理を完結させるのは難しいということですね。

業天さん:そもそもExcelの表にまとまるまで、かなりたくさんの過程がありますからね。発掘して番号を振って、報告書に載せるものを選別した後、その書面上でまた番号が割り振られて…と、とにかく複雑でして。発掘調査から報告書の作成まで、さまざまなでデータを扱いますが、それらを管理するシステムもありませんし。

-本気でデータベース化するなら、土器の欠片が出てきたそばからリスト化していかなければなりませんものね…。でも、写真撮影も、実物とデータの紐付けも無理ですよね。

業天さん:土器なら復元してから登録するのが現実的でしょうね。その場合、展示や公開用のデータともなりますが。

-埋蔵文化財の世界は、かなりの部分が報告書ベースでのお仕事という話もよく耳にします。

業天さん:ええ、私たちもこれまで数千点の記録を収めた遺跡発掘調査報告書を40冊ほど発行しています。

-おそらくI.B.MUSEUM SaaSには現場の省力化に役立つ機能が少なくないと思いますが、それを使うには業務フローから見直すことになりますよね。

業天さん:それもひとつの方法です。現在の作業サイクルに組み込むための仕組みを作ること自体が、かなりの難作業になります。報告書に載っているものだけでも膨大な点数がありますし、それが毎年上がってきますので、先ほどお話になった「どのタイミングでデータを登録すればよいのか」だけでも議論になると思います。

-新しく着任された方が情報を探す時は、そのつど報告書を紐解く形になるのでしょうか。

業天さん:そうなりますね。長く在籍している職員は慣れているのですが、新任の職員には難しいので、できれば検索すれば必要な情報を取り出せる環境を用意してあげたいんですけどね。

-考古系の施設共通の課題ですよね。本当に大変なお仕事で、頭が下がる思いです。

 


-先ほど公開用データベースというお話が出ましたが、実際に資料データの一部はWeb APIを介してデジタルアーカイブのサイトで公開なさっていますね。とても見やすくて素晴らしい出来栄えだと思いますが、構築のきっかけは?

業天さん:写真の提供依頼がかなり多いんです。これまでは紙の申請書にご記入いただいた上でメールでお送りいただく流れだったのですが、この手続きを簡略化したいと考えたのがきっかけですね。ちなみに、公開中の写真のライセンスはすべてCC-BYとしているんですよ。

-利用側にとっても嬉しい配慮ですね。検索もしやすいですし写真もきれいですし、一般の方々にも興味を持って見ていただける仕上がりだと思います。

業天さん:ありがとうございます。写真をご覧になった方に「もっと面白いものがありそうだ」と感じていただける情報発信もデジタルアーカイブ構築の大きな目標だったので、とても嬉しいです。

-管理システムとしてはハードルもありますが、デジタルアーカイブ事業の観点では順風満帆というわけですね。

業天さん:そう思います。おそらくマスコミでの写真利用はこれまで以上に増えていますし、まだ公開していない写真に対する提供依頼もありますし。お陰様で、活性化していることを実感します。

-公開していない画像というと、サイト上で検索してもヒットしませんよね。どんな経緯で依頼してこられるのでしょう?

業天さん:たとえば、かつて問題集などで使われていた写真をご覧になって問い合わせてこられるのだと思います。出版関係の方が多いですね。

-なるほど、きっと多種多様な媒体で使われてきたのでしょうね。そうした需要が多いとなれば、公開コンテンツも増やしていかなければなりませんね。

業天さん:そうなんです。そのための台帳を作成して、アルバイトのスタッフの方に登録をお願いできるくらいのマニュアルを整えようと考えているのですが、先ほどお話した通り、なかなか労力を割けないのが悩みの種ですね。

-公開されていないにも関わらず提供を依頼された写真は、きっと大きなニーズのある資料ということになると思いますので、それらを優先的に公開できればご負担の軽減にはなりそうです。

業天さん:そうですね。過去の申請対象となった資料は調べることができますので、焦らずに少しずつでもアップロードしていきたいですね。

-もしもお手伝いできることがありましたら、ぜひお声掛けくださいね。

 


-さて、I.B.MUSEUM SaaSをご利用になって、何か気になることなどはございませんか?

業天さん:そうですね。これから高解像度の画像を増やしていきたいと考えているのですが、Web APIを介してそうした画像を活用することはできますか?

-はい、大丈夫です。お使いいただけますよ。

業天さん:それに関連して、高解像度の画像を一括登録できるとよいのですが。

-申し訳ございません、現状では1点ずつとさせていただいております。現在、インターフェイスのリニューアルを進行中ですので、その後の機能追加で検討課題とさせていただきますね(メモ)。

業天さん:それから、登録したPDFファイルを公開する時に、アイコンではなくプレビューが表示されるとありがたいです。

-表紙のサムネイルなどを表示させたいということですね、こちらも追って検討いたします(メモ)。ちなみに、ジャパンサーチなどの外部連携については、いかがですか?

業天さん:すでに連携させていますよ。当館のデータは、「北海道・北東北の縄文遺跡群デジタルアーカイブ(JOMON ARCHIVES)」に連携していて、そこからジャパンサーチに繋がっているんです。

-それはすごいですね。そうなると、今後はますます情報のニーズが高まりそうです。

業天さん:そうあって欲しいですね。日常業務のことを考えると今すぐというわけにはいかないのですが、じっくり取り組んでいきますよ。

-現状でもデジタルアーカイブの事業として理想的な展開だと思いますので、弊社も可能な限りご協力させていただければと思います。本日は大変勉強になりました。お忙しいところ、本当にありがとうございました。

Museum Profile
三内丸山遺跡センター 令和3年7月、三内丸山遺跡を含む「北海道・北東北の縄文遺跡群」が、ユネスコの世界文化遺産に登録されました。そのガイダンス機能と三内丸山遺跡の調査研究拠点施設として、復元された竪穴建物や3棟の高床建物、大型掘立柱建物などを見学できる遺跡区域と、展示や体験を通して縄文人の生活を学べる「縄文時遊館」で構成されています。「三内丸山遺跡縄文デジタルアーカイブ」をはじめとする情報発信も充実。連日多くの観光客で賑わう一大歴史浪漫スポットです。

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